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北の塔2

 北の塔は石を積み上げた円柱形(上に行くにしたがって少し細くなっている)の建物だった。

 正面扉の上方に小さな窓が5つ見える。どうやら5階建てのようだ。私たちが秘密通路から出た部屋はここからは見えないから、塔の地下にあるのだろう。

「そうそう、この塔だわ」

 ヒラリーが私の横でボソリと呟いた。

「ヒラリー様がゲームの中で気が付いたときは、部屋の中だったのでしょう。なぜこの塔だと分るのですか?」

 部屋の中からは塔の全景が見えるわけがないのに・・・と思いながら尋ねる。

「バカね、ゲーム画面に『彼女は北の塔の地下に隠された』と、塔の全景とテロップが出てくるのよ」

 ヒラリーがそんな事も知らないのかと、あきれ顔で私を見た。

 ゲームをやったこともないのに、私に分るわけない!

「塔は城の周りの4カ所に建っているから、本当にこの塔で間違いないのか」と、アルが聞いた。

 ヒラリーはアルの問に驚いた。

「同じような塔が他にもあるのですか?」

「ああ、東西南北に建っている」

 アルはまたややこしい事を言う。

「でも、私たちが地下室で遭遇した侵入者は、北の塔で見つかったのですよね」

 案内の兵士に聞かれないように、小声でこそこそ話していたつもりだったが、兵士は「はい、侵入者は北の塔にいました」と、私たちの話に入って来た。

 何処から聞かれていたのだろう。私たちは黙って顔を見合わせた。


 森から出て来た私たちを見て、塔の前の兵士は身構えた。

 案内の兵士が塔の警備兵の元へ行き、塔に来た理由を話した。

 そういうことならと、塔の警備兵は、案内の兵士が一緒に行くのならと、私たちを塔の中に案内した。

 入り口を入ると、右と左に扉が有った。

「左の扉は侵入者が隠れていた地下に行く扉です。右の扉の先に上に登る階段があります」

 案内の兵士が扉を開けた。そこには上に続くらせん状の階段があった。

「この階段を上っていきます。足下が暗いので気を付けてください」

 案内の兵士は、入り口の横に置かれていた松明に火をつけた。

 外観からは窓が見えたから、明り取りの窓が有るように思うのだが・・・上を見上げると、かなり上の方にあった。

 らせん階段の中心は石の円柱が上まで延びている。その円柱の周りを螺旋状に階段が上に延びている。

 兵士の後について上に登る。

 円柱を一回りしたところに踊り場があった。踊り場の上方に明り取りの窓がある。2階から3階、4階と踊り場があり、上方に明り取りの窓があった。

 アルは階段を上りながら、円柱を注意深く見ていた。

 頂上に着いた。

 爽やかな風が、汗を掻いた首筋を撫でていく。

 青空を見ながらヒラリーは大きく伸びをした。

「すごい!ここに上ると遠くまで見えるのね」

 塔の上からは、城下の町が遠くまで見える。

 アルはあるはずのないスカーフ止めを探すふりをした。

 屋上の片隅でキラリと光る者が見えた。

「アル、あそこで光っている物はなに?」

 私はてっきりアルが転がしたスカーフ止めだと思っていたが、アルはそんな事はしていないと呟いた。

 光る物の正体を探るため、私はアルに付いて行った。

 そこに落ちていたのは、銀細工にアメジストが付いたブローチだった。

「ありましたか?」

 兵士が私たちの横に来て、拾ったものを覗き込んだ。兵士はブローチを見てスカーフ止めだと思ったようだ。

「ありましたね。すみませんもっと早く気付いていれば、殿下に足を運ばせることはしませんでした」

 兵士は申し訳ないとひたすら謝っている。兵士が謝る必要はないのに、それは私たちの物ではなくて、本当に落とし物なんですと、思わず言いたくなってしまう。

 兵士の勘違いをそのまま受けて、アルはブローチをポケットに仕舞うと「帰るぞ」と言った。

 私たちは、塔を出て執務室に戻った。

「北の塔は確かめたけれど、これからどうされるのですか?」

 ヒラリーはアルに聞いた。

「どうもしないさ、今日はこれで解散しよう」

「解散ですか?」グレッグは意外な顔をした。

「まだ何かあるのか?」

「地下通路の出口が北の塔だけなのはおかしいと思いませんか?」

「私もそう思うわ」と、ヒラリーもグレッグの意見に賛成した。

「確かに俺もあの通路はおかしいと思う。でも、まだ兵士達が警備をしているなかで調べるのは難しい。変に動いて興味を持たれるのも困る。だから、今日はこれまでにしておこうと思う。次に集合するときまでに俺も調べておくから、とりあえず今日は解散する」

 アルが断言したので、それ以上異議を唱えることは出来なかった。

 私も、あの出口だけというのは不思議に思う。昨夜アルと通った地下通路はもっと複雑に入り組んでいるようだった。

 よほど難しい顔をしていたのだろうか。気が付くとヒラリーが私の顔を覗き込んでいる。

「ヒラリー様、何でしょう?」

「なんでしょうではないでしょう。帰るわよ」

 ヒラリーはアルとグレッグに暇を告げると、私の手を引いて執務室を出た。

 アルの執務室から少し離れてところで、ヒラリーは立ち止まって言った。

「イルカ、塔はあと3つあったわよね。北の塔と同じなのか、残りの塔も調べるわよ」

「今からですか?」

「バカね、今夜あんたが調べるのよ」

 またですか、勘弁してくださいよ。見つかったら国外追放どころではありませんよ。首と同体が離れる事になるかもしれませんよ。

「侵入者は捕まったから、今日は警備も手薄なはずよ」

 鼻息荒くヒラリーはやる気満々だ。

 やる気満々なのはいいけれど、行くのは私なんですけど・・・それに、侵入者は二人しか捕まっていません。もう一人残っています・・・そんな中に行けというのですか!と、思わず叫びたい。

「とりあえず、帰るわよ」

 ヒラリーは我が道を行くとばかりに拳を突き上げた。近くを通ったメイドが驚いたようにヒラリーを見て通り過ぎた。

 どうにかして、今夜の侵入は避けなければ・・・私はため息と共に城を後にした。


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