城の地下2
「ヒラリー様、困りましたね」
ヒラリーと私は王城の正門前で立ち往生していた。
昨日の不審者が見つかっておらず、いつにも増して城に入る者のチェックが厳しいようだ。
フェアルート王子に招かれて来たと言っても信じて貰えずに、門の前で30分以上足止めをされていた。
ヒラリーが王城に来る事は滅多になく、門兵が覚えているはずはなかった。
誰か知っている人でも通りかかったら、私たちの身分を証明して貰うのだが、あいにくそう都合良くは行かないようだ。仕方ない、アルには悪いが昨夜の通路を使わせてもらうしかないと思っていたら、救世主となるのだろうか、サーシャリアが城の中から出て来た。
「君たち、さっきから何をしているんだ」
「サーシャリア様、ちょうど良いところにいらしてくれました。この者が私たちを通してくれないんです」
ヒラリーは不満顔で門兵の男を指さす。
「サーシャリア様、この者達をご存じなのですか?」
門兵は門兵で、相変わらず胡散臭そうに私たちを見ながらサーシャリアに尋ねた。
「さしずめ第2王子に会いに来たんだろう。通してやったら」
サーシャリアは興味なさそうに言った。
「その通りでございます。この者達は第2王子と約束していると言っているのですが・・・」
サーシャリアは門兵をチラリと見て、「君は彼女たちが誰なのか知っているの?」と聞いた。
「ローレイル侯爵家のヒラリー様と名乗っておられますが、第2王子の面会予約の中に、彼女たちの面会の約束はありません」
「そんな事言っていたら、第2王子に叱られるよ。こちらの女性は第2王子の側近のグレッグの婚約者で、もう一人は、こんな格好をしているけれど、第2王子の側近の一人だよ」
サーシャリアの説明を聞いて門兵は驚いた。
「早く通してあげないと、あとで第2王子から苦情がでるよ」
門兵は慌ててヒラリーと私を通してくれた。
サーシャリアは私たちの後に付いてきた。
「いつまで付いてくるのよ」と、ヒラリーは助けて貰ったお礼も言わずに、サーシャリアを睨んだ。
「おや、さっき助けてあげたのに」サーシャリアが眉を上げる。
「さっきは助かったわ、ありがとう」
ヒラリーは棒読みのセリフのように、サーシャリアに言った。
「まあ、いいでしょう。これは貸しですからね」
サーシャリアはニヤリと笑ってそう言うと、城の中に戻って行った。
ヒラリーは「フン」と鼻で笑った。
フェアルートの執務室は、先日一度訪れていたので案内されることなく見つけることが出来た。
執務室に入ると、私たちの姿が見えた途端「遅かったね」とアルが言った。
執務室にはアルとグレッグの二人だけだ。
「城の入り口で門兵に止められていたの」
ヒラリーが説明をする。
「ああ、不審者がまだ見つかっていないから、入ってくる者に目を光らせているみたいだな。良く通して貰えたね」
「サーシャリアが助けてくれたのよ」
ヒラリーの話に、アルが訝しがった。
「サーシャリアが?」
「貸しだと言っていたから、単純に喜べないわ」
ヒラリーも複雑なようだ。
「そのうち何か言ってくるだろうね。それより、城の中はこんな状況だから、今日は北の塔に行くのは無理だよ」
確かに、不審者が捕まらないと城の中を自由に歩くのは難しいだろう。
「まって、表からいけなかったら、地下から行けば良いのよ」
ヒラリーがどや顔になっている。
「どういうことですか?ヒラリー様」
昨夜、アルと地下の道を通ったことはヒラリーには話していない。
「私はゲームの中で、北の塔から地下を通って城に戻って来たのよ。だからその逆を行けば北の塔に行けるでしょう」
ヒラリーはゲームで北の塔を抜け出すのに、地下を通って城の中に戻ってきたことを思い出したようだ。
「では、ヒラリー様は地下の道を知っているのですね」
私が念を押して尋ねると、「私が道を知るわけないでしょう。私は出て来たところを知っているから、そこから地下に入ればいいと思ったのよ」
なるほど、出て来たところを覚えているから、地下に入って北の塔の方向に進めばいいと言うことか。
「わかった、今日は庭を通ることが出来ないから、ヒラリーの言うとおりにしよう。それで、その地下への入り口はどこにあるの」
アルとグレッグの行動は早かった。二人はすでに扉の前で待っていた。
「出て来たのは、パーティが行われているホールの隣の控え室だったわ。でも、どのホールだったかは覚えていないわ」
「なんのパーティだった?」
「聖誕祭のパーティよ」
ヒラリーの返事を聞いてアルが頷いた。
「聖誕祭のパーティはいつも一番広いホールで行われる。そこに行ってみよう」
アルを先頭に私たちは移動した。
「多分ここだと思う」
アルは広いホールの扉を開けた。
「控え室はホールの前と後ろにある」
ヒラリーはホールの中を見回した。
「良く覚えていないわ。とにかく行ってみましょう」
まず前の控え室に入った。
控え室は思ったより広かった。
「この部屋は、国王がホールに入る前に使う部屋だ」
「この部屋じゃないわ。もう少し狭いところだったと思う」
「じゃあ後ろに行ってみよう」
私たちは前の控え室から出て、後ろの控え室に向かった。
控え室のドアを開けた。そこは前の部屋ほどは大きくないけれど、何のない部屋だった。
「ここでもないわ。もっと狭くて、壁がレンガで出来ていたと思う」
「壁がレンガ・・・」
ヒラリーの説明にアルが考える。
「もしかして・・・」
アルは部屋から出ると、初めに見た前の控え室に向かった。
控え室のドアの少し離れた所にドアがあった。それは使用人用のドアのように見えた。
アルがドアを開ける。
中は狭く部屋全体の壁はレンガだった。壁には作り付けの棚が2つ付いている。右手と左手にドアがある。
「ここだわ、間違いない」
ヒラリーの目が光った。
「左の扉は廊下に出る扉で、右の扉はさっき見た控え室の扉だ。この部屋に隠し扉が有ると思う?」
アルが信じられないと頭を振った。
「たぶん、ここをこう動かして・・・」
ヒラリーがレンガの壁のレンガを1つ動かした。すると、棚が動いてポッカリと暗い闇が続くトンネルが現れた。
ヒラリーのどや顔を見ながら私たちは固まった。
一番先にアルが動いた。
「驚いたな。こんな所に地下の入り口があったのか」
「さあ、行きましょう」
ヒラリーは行く気満々だ。そんなヒラリーをアルが引き止めた。
「ここを開けたままだと、他の誰かが迷い込んで来るかも知れない。誰か一人残ってこの通路がわからないように閉じなければ・・・」
アルの心配をヒラリーが笑った。
「中から閉めればいいのよ」
「中から閉められるのか?」
グレッグは不安そうだ。
「開けるのと同じようにレンガを動かせば閉まるようになっているのよ」
「大丈夫?」グレッグは半信半疑なのだろう。
「この仕掛けはゲームで何度もやっているから大丈夫よ。だって、この仕掛けが解けないと地下トンネルから出られないのよ。時間が来るとゲームオーバーになるように設定されていたから、何度も挑戦してクリヤーしたのよ。間違うわけないわ」
ヒラリーは自信満々で言った。
私たちはヒラリーの言葉を信じて、全員地下トンネルの中に入った。
ヒラリーは宣言通り、中からレンガを動かして扉を閉めた。
扉が閉まった途端真っ暗になったので、アルとグレッグが手のひらにポウッと明かりを点した。
「ここから先の道はわからないから、とにかく進んでみよう」
私たちは地下トンネルを進むことにした。




