うわさ鳥
パーティから一週間。
アルもグレッグも忙しいのか、アルの執務室で会った後、何の連絡もなかった。
そんな事もあって、ヒラリーと私は王都の屋敷でのんびり過ごしていた。
本来なら鍛錬をしていなければいけないのだが、二人で何をすることもなく、庭のベンチに腰掛けて、整えられた花壇を眺めてボーッとしていた。
ボンヤリしている目の前に、何処からかヒラヒラと白い物が舞い降りてきた。
私は思わず手を伸ばしてそれを捕まえた。
それは鳥の形をした紙だった。
「なあに?」
「なんでしょう。鳥の形に切られた紙切れのようです」
ヒラリーは私の手の中に紙を見た。
「へぇ、ホントに鳥の形をしているわね」
ヒラリーが私の手のひらの上に乗っている紙を摘もうと手を伸ばすと、その紙はヒラリーの手を避けるようにフワフワと舞い上がった。
「私から逃げてるみたい。まるで生きているみたいね」
ヒラリーは目で紙を追いかけながら感心したように呟いた。
鳥形の紙は逃げるわけでもなく、私たちの上をしばらく旋回していた。
何だろうと鳥形の紙を見ていると声が聞こえてきた。
「やあ、元気にしてた」
サーシャリアの声だ。
「サーシャリア様?」
ヒラリーがキョロキョロ周りを見回して呟く。
「そう、ぼくだよ。連絡すると言っただろう」
「もしかして、その鳥の形の紙が話してるの?」
「そうだよ。うわさ鳥というんだ」
「へぇ、よく出来ているわね」
ヒラリーは立ち上がって鳥形を取ろうと手を伸ばした。
「おっと、まだ捕まえたらだめだよ」
「どうして?」
「この鳥は、魔力の有る者に接すると、効力が薄れるんだ。ヒラリー嬢は魔力が強いでしょう。だから触らないで」
「わかったわ。それじゃあ、早く用件を言いなさいよ」
「怒らないで、用件をいうよ。『明日の午後三時に会えるかな?』」
ヒラリーは少し考えていたが、「お父様に聞いてみないとお返事出来ないわ」とうわさ鳥を見た。
「お父様か。とりあえず明日3時に迎えの馬車を君の家に行かせるから、お父様が良いと言われたら。それに乗ってきてよ」
「わかったわ。お父様がダメと言ったら馬車には乗らないけど、それで良い?」
ヒラリーが返事をすると、「いいよ、では明日」と言った後、うわさ鳥はひらりと落ちてきた。
私はそれを拾った。そしてじっくり見たけれど、やはりただの鳥形の紙だった。
ヒラリーが「燃やして」と言った。
「燃やすのですか?」
「そうよ、燃やしてちょうだい」
わかりましたと、うわさ鳥なる紙に火をつけて燃やした。
「1羽だけだったのかしら」とヒラリーは上空に目を向けた。すると、上空に似たような鳥形がヒラヒラと舞いながら何処かへ飛んでいった。
それを見つけたヒラリーは、鼻息も荒く呟いた。
「油断も隙もないわね」
「あの紙の鳥はなんですか?」
魔法だろうか。私の頭では理解できない物だ。
「たぶん式のような物なんだと思うわ」
「式ですか?」
「そうよ、あの紙に命を吹き込んで、自分では行けないところに飛ばして見聞きするのよ」
「紙切れにですか?」
私が不思議そうな顔をしたのを見てヒラリーは苦笑した。
「昔読んだ小説にそんなのがあったのよ。多分、あいつは魔法使いだから、それを応用したのかもね」
私はそんな小説読んだことないので、全然意味がわからなかった。
「それはともかく、明日どうされますか?」
「イルカ、あんたちょっとグレッグ様のところまで行ってきてよ。どうすればいいか聞いてきてちょうだい。その返事を聞いてからお父様に聞くことにするわ」
グレッグのいる公爵邸まで3キロはある。走って行けと言うのだろうか。相変わらず人使いが荒い。
「さあ、急いで行ってきてよ。誰にも見られないようにね。特にサーシャリアのうわさ鳥には気を付けるのよ」
ヒラリーは簡単に言うけれど、昼日中に人に見られずにどう行けというのだろう。
「馬車は使えないのですか?」
「ばかね、馬車なんか出したら目立ってしまうじゃない」
「では、暗くなってからでは・・・」
「だめよ。暗くなったらお父様も戻られているわ。その前に聞いておきたいの」
ここと公爵邸を結ぶワープゾーンが欲しい・・・と思うのは贅沢だろうか。
そんな事をグズグズ考えていると執事が現れた。
「ヒラリーお嬢様。お客様がお見えです」
「お客様?」
「はい、グレッグ様がお友達と一緒にいらしてます」
「グレッグ様が!ちょうどよかったわ。こちらにお通しして」
ヒラリーの返事を聞いて、執事は客を迎えに行った。
私がホッとしたのがわかったのだろうか。
「入れ違いにならなくて良かったわね」とヒラリーが言った。
執事がグレッグとフードで顔を隠したアルを案内して来た。
「こんにちはグレッグ様、アルト様」
ヒラリーが満面の笑顔で迎えた。
執事に庭にテーブルを出してお茶の用意をお願いした。用意が出来るまで、ベンチに座って待つことにした。と言ってもベンチは二人掛けなので、必然的にヒラリーとグレッグが座ることになった。グレッグはアルを座らせようとしたが、アルがそれを辞退したのだ。なので、私はアルと立って話しをすることにした。
少しして、メイドがお茶の用意が出来たと呼びに来たので、私たちは場所を変えることにした。
給仕は私がすることにして、他のメイドは全員下がらせた。
みんなのカップにお茶を注ぎ、椅子に座った。
「先日の話しの続きなんだが」とアルが話し始めた。
「城で会議が開かれて、魔女対策の為、5人の聖女で『聖乙女隊』という部署が作られた。隊長はジョイール王子、副隊長はサーシャリアになった」
「フェアルート王子は参加しなかったのですか?」
驚いた様にヒラリーはグレッグを見た。
「フェアルート殿下は参加しないと初めに断言されたんだ」
とグレッグが言うと、アルが「死んでるはずの者が出ても仕方ないだろうということらしい」と続けた。
「そうするとほぼほぼサーシャリアのゲームの通りになっているのね」
腕組みをしながらヒラリーは眉を寄せた。
「そうみたいだね」
「あ、そうそう、サーシャリアと言えば、さっきうわさ鳥が来て、明日3時に会いたいと連絡が来たのだけれど、明日、行っても良いかしら?」
ヒラリーがグレッグを見た。
「僕個人としては行って欲しくないけれど、情報を得るためにはしかたない。イルカも一緒に行くのでしょう」
グレッグはちょっとだけ不満そうな顔をした。
「イルカも一緒よ。なるべく情報を集めてくるわ」
「あ、それから、俺たちには関係ないけれど、近々聖女達のお披露目のパーティを開くような話しを聞いた」
アルが興味の無い声で言った。
「関係ないって、呼ばれないって事」
「俺たち『聖乙女隊』とは関係ないから、詳しいことが入ってこないんだ」
関係ないと言い切ると言うことは、ホントに『聖乙女隊』に興味ないのだろう。アルの目はお茶菓子に向いていた。
一つ摘まんで「あ、これ美味しいな」と言って、また別のお菓子に手を伸ばした。
小一時間ほど話しをした後にグレッグとアルは帰っていった。




