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バレた秘密

 城中のアルの執務室。

 庭で会った時からアルの表情は変わらない。

 怒っている様だ。第1王子の側近と話していたのがいけなかったのだろうか。

 無言の目線だけで、付いてくるようにと促されて現在に至っている。

 私とヒラリーは何も言えず小さくなっていた。

 アルの執務室はまだ新しい入居者を迎えたばかりの様だった。執務机と補佐机それに応接様のソファーが置いてあるだけの馴染みのない部屋だった。

 1年ほど前に国王が二人の王子に執務室を与えたと聞いた。

 アルはグレッグ以外の従者とメイドを部屋から追い出した。そして、私たち二人を見て「で?」と聞いた。

 庭での出来事について話せと言っているのだろう。

 それにしてもアルは、私たちの話を何処から聞いていたのだろう。

 私とヒラリーが黙っていると、再びアルが口を開いた。

「君たちはどうしてジョイールの側近のサーシャリアと話していたの?」

 第1王子の側近のサーシャリアと関係のないはずの私たちが彼と話していたのだ。アルもグレッグも不審感しかないようだ。

 ヒラリーは黙ったままだ。

 仕方ないので私が返事をした。

「私たちが魔女の痕跡を調べていたら、サーシャリア様の方から話しかけてきたのです」

「ふーん、それにしては話しが弾んでいたようだね」

 皮肉を込めた返事が返ってきた。

 話しが弾んでいたように見えたと言うことは、もしかして私たちが話していた内容も聞いていた?

 アルは私ほどではないけれど耳がいい。少し離れていても内容を聞き取ることは出来ただろう。いったい何処から聞いていたのだろうか?

 私はヒラリーに代わってアルに尋ねた。

「殿下はどの辺りから聞かれていたのですか?」

 ヒラリーの顔に明らかに動揺が見えた。ヒラリーは話の内容が聞かれたとは思っていないのだろうか。

 アルはしばらく考えていたが、「サーシャリアが魔女の洞窟事件で俺が死ぬシナリオだったというところからだ」と言った。

 それを聞いてグレッグが驚いた。

「そんな話しをしていたのですか!」

 グレッグには聞こえていなかったようだ。

 魔女の洞窟の話しからだと、ほとんど初めから聞こえていたのでは・・・

「乙女ゲームっていったい何だ?」

 ああ、やはり転生者の辺りから聞かれていたらしい。

 私は隣で身体を硬くして黙っているヒラリーを見た。

 黙っているヒラリーの肩に、アルが手を置いた。そして、ヒラリーが一番知られたくなかった一言を発した。

「転生者って何だ?」

 ヒラリーの身体がピクリと動いた。

 転生者。そこから聞かれていたら誤魔化しようがない。ここから先は私が話すことは出来ない。ヒラリーが話さなければいけない。

 ヒラリーはしばらく下を向いて黙っていたが、急に顔を上げてアルとグレッグを見た。そこまで知られてしまっては仕方がないと、吹っ切れたように向き直った。

「転生者ってなんだ?」

 アルは同じ質問をヒラリーに繰り返した。

 ヒラリーはアルを真っ直ぐ見て言った。

「転生者は、生まれる前の記憶を持ったまま生まれ変わった者のことです」

 流石のアルもヒラリーの話に驚いた様だ。同様に横のグレッグも驚いている。

「生まれる前の記憶をもっている?」

「そうです。私の前世は日本という国に住んでいました。そして、多分死んだのでしょう。気付いたらこの世界に生まれ変わっていました」

 開き直ったのか、ヒラリーは正直に話した。

「なるほど、生まれる前の記憶があるということだな」

 アルが納得した様に頷いた。

 えっ!納得するの早くない!?私の方が驚いてしまう。

「で、ゲームというのは」

「驚くかもしれませんが、この世界は、前世で私がしていたゲームの世界なのです」

 流石に荒唐無稽な話しと思ったのだろう。自分の住んでいる世界が、よく解らないゲームの世界と聞いて驚かないはずがない。

「ゲームの世界というのは、作られた世界ということか?」

 半分呆れたようにアルが聞いた。

「そうです。私は前世でこの世界が舞台のゲームをしていました」

 なかなか理解するのは難しいと思うけれど、アルはそれでも理解しようと努力しているらしい。

「それで、サーシャリアも転生者なのかな?」

「彼はそう言ってました」

 ヒラリーは即答した。

 驚きながらも、アルは再び尋ねていた。

「同じゲームの?」

「彼の知っているゲームとは少し違います」

「たとえば?」

「私の知っているゲームには聖女は一人でした。それに魔女は出て来ませんでした。ところが彼のゲームでは、聖女が5人いて、魔女も出て来ます。今日のパーティで聖女が5人覚醒しました。この世界は彼のゲームが主流になっていると思われます」

 ヒラリーは隠す事なく話した。

「同じ世界でも、ゲームは2つあるんだね」

 アルには信じられない話しだが、それでもそれを受け入れるつもりのようだ。

「そうですね」

 次の質問をする前に、アルは少し躊躇ったように見えた。

「で、俺はどちらのゲームでも、あの洞窟事故で死ぬはずだったのだろうか」

「そうです。殿下はあの事故で死ぬはずでした。でも、私が思い出したから助かったでしょう?」

「それは、君がゲームを思い出したから?」

 アルは不思議な顔をしている。

「私の知っているゲームでは、グレッグ様の過去のエピソードとして出てきました。その為、殿下がいつ死んだのかわかりませんでした」

「過去のエピソード?」

「グレッグ様は殿下をなくされて、心を閉じてしまっていたのです。殿下を亡くされたシーンの話しを思い出したのです。洞窟事故としかわからなかったのですが、私たちが見つけた洞窟がそうなのかもしれないと思いついたのです。殿下に忠告しようと思っていたら、もう洞窟に出掛けた後でした」

「それで、イルカが俺を助けに来てくれたの?」

「そうです。前日見つけた洞窟がその現場かどうかはわかりませんでした。それで、念のためイルカに行って貰ったのです」

「それで俺は助かったんだね」

「そうですね。結果的に間に合って良かったです」とヒラリーが言った。

「ありがとう。君たちのおかげで俺は死なずにすんだ」

 アルがヒラリーと私に軽く頭を下げた。その様子を見ていたグレッグも一緒に頭を下げた。

「そんな、頭を上げてください」

 ヒラリーが恐れ多いというように二人の様子にオタオタしていた。

 アルは顔を上げると、グレッグに言った。

「これで、あいつが言っていた意味がわかった気がする」

「サーシャリアが言っていたとは?」

 グレッグはアルが何時のことを言っているのかわからないようだ。

「俺が城に戻る前に、陛下が俺たちの側近を決めるようにと、何人か集めたことがあっただろう」

「あの側近を決めるときの事ですか?」

 グレッグが思い出したように言ったので、アルは頷いた。

「あの時、あいつは一番に手を上げて第1王子の側近になると言ったんだ。そしてその後、『泥船に乗る気はないからね』とボソッと呟いたのが聞こえた。あの頃俺は暗殺者から逃げていたから、狙われている俺より、ジョイールの方が楽だと思ったと考えたのだと思っていたが、俺が死ぬと知っていたからだったんだな」

 アルの顔が悔しさで歪んだ。しばらくその状態で考えを巡らせていたが、スッと顔を上げると、いつもの冷静なアルに戻っていた。

「サーシャリアが転生者で、彼のゲームが主流ということは、彼はこれから先の流れを全て知っているということだね」

「そうだと思います」ヒラリーは頷いた。

「ヒラリーはどのくらいゲームの内容を覚えているの」

 アルの問に、ヒラリーは申し訳なさそうに小さな声で呟いた。

「ごめんなさい、ほとんど覚えていないんです。だいいち魔女も出てなかったし」

「あ、でもヒラリー様、サーシャリア様が言っていたじゃないですか。森のイベントと地下のイベント。そして、卒業イベント。かぶっているイベントはないんですか?」

 私がそう尋ねると、ヒラリーの顔が明るくなった。

「あるわ、森のイベントも地下のイベントもあったわ」

 ヒラリーがいつものヒラリーに戻った。

「森イベントとは?」とアルが尋ねた。

「それは卒業前の魔獣退治試験の事だと思う」

 考えながらヒラリーが答える。

「卒業前だと、まだずいぶん先だね。地下イベントは?」

「時期はわからないけど、聖女が攫われて地下に閉じ込められるのよ」

「何時かわからないんだね」

「ええ、相手の動きを見るしかないわ」

 ヒラリーは覚えていないことを申し訳なく思ったようだ。みるみるシュンとなった。

 そんなヒラリーの様子に気付いて、「それじゃあ、君たちは同じ転生者として、時々サーシャリアと話しをするといい」と言った。

「はぁ?」

 ヒラリーは驚き、グレッグは不快におもったようだ。

「彼も同じ転生者としてこれからも会いたいと言っていたじゃないか」

「それはそうだけど・・・」

 ヒラリーがグレッグを見た。

 グレッグは何か言おうと口を開きかけたが、アルがそれを押し止めた。

「敵を知るためには、敵の中に入ることも重要だよ」

 確かにそうだ。全体の流れは彼の方がよく知っている。

 後で聞いた話しだと、乙女ゲームでも彼は攻略対象の一人らしい。モブと死んだ人はあまり表に出てこないから、ここはヒラリーの努力にかかっている。

 アルもそう思ったのか、「俺は死者で、話しには出てこない役だから好きに動くことにする。イルカはそのゲームに出ていたのか?」とヒラリーに聞いた。

「私がモブだったから、モブのモブのイルカは影も形もなかったわ」

「モブ?」

「主要人物じゃないって事よ」

「ふーん、そしたら俺とイルカはゲームには出てこないんだな」

 アルはそれを確認すると、「イルカ、俺たちは自由に動くことにしよう」と勝手に私を自由行動の仲間に決めてしまった。

「王子だからって、私のイルカを勝手に使わないで」

 この勝手なアルの決定を、ヒラリーが猛抗議してくれたが、アルの気持ちは変わらなかった。

 こうしてアルと私のパーティが出来た。


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