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新たなゲーム!?

 一連の騒動の後、5人の覚醒した聖少女達は、国王の従者に呼ばれて何処かへ連れて行かれた。

 この予期せぬ出来事に、パーティは早々にお開きとなった。

 会場に残っているのは、警備の兵士と私たちくらいだろう。

 私とヒラリーは庭に出て、魔女がいたと思われる場所に立っていた。

 あんなことがあった場所なので注意されるかと思ったら、警備の兵士達は気にしていないようだ。私たちが現場を見ても良いかと尋ねたらどうぞと言われた。

 魔法省のお偉いさん達が来て、徹底的に捜索した後だからだろう。

「イルカ、魔女の痕跡は残っている?」

 魔女が立っていた辺りを見ていた私に、ヒラリーが聞いた。

「まだ近くにいるような変な感じはしますが、この場所では何も感じないですね」

「近くにいる感じがするの?」

 変な感じが残っていた。まだ近くに居るような、居ないような。ヒラリーの問いかけに何と応えたらいいか迷っていた。

「表現するのは難しいのですが・・・でも魔法省の方達が調べた後なので、私の勘違いかもしれません」

 私は曖昧に言葉を濁した。

「しかし、信じられないわ。なぜ魔女が現れるのよ!」

 ゲームの内容と違う展開に、ヒラリーは困惑している。

 イベントの場所は同じなのに、覚醒した聖女が一人だけでなく、聖女候補5人全員が一斉に覚醒したのだ。

「ヒラリー様は、魔女は出ないって言ってましたよね」

 周りに聞こえないように声を潜めて尋ねた。

「そうよ、あのゲームに魔女は出てこないわ!」

 少し興奮したように、ヒラリーは断言した。

 やはりヒラリーの知っている乙女ゲームとは少しずつ違っているようだ。

 その時、

「ねえ、君たちってもしかして転生者?」

 突然の問いかけに驚いて振り向くと、眼鏡を掛けたやけに気取った少年が立っていた。

 この顔は見覚えがある。たしか第1王子の側近のサーシャリアだ。

 学校に入学した頃、学年は違うけど、第1王子の側近だとアルから教えてもらった記憶がある。

 第1王子の側近のサーシャリアは私たちより2つ年上の魔法科の生徒で、魔法技術がとても優れているらしい。第1王子の側近にも自分から志願したそうだ。その彼が、私たちを見て転生者と聞いてきた。いったい何を根拠にそう思ったのだろう。

 私とヒラリーが黙って固まっていると、「ごめん、ごめん、脅かすつもりはなかったんだ。でも君がはっきりと『ゲームに魔女は出てこない』と言っているのが聞こえたから、そうかなと思ったんだ」

 こいつはゲームの存在を知っている!?

「あ、引いてる?大丈夫だよ、僕も転生者だから気にしないで。この事は誰にも言わないから、僕の事も内緒だよ」とサーシャリアは軽くウインクした。

「あなたは転生者なの!」

 ヒラリーの顔が喜びとも驚きともわからない表情に変わった。

 サーシャリアはまじまじとヒラリーを見つめた。

「君が転生者なら、読めてきた」

「どういうこと?」

「君は第2王子の側近グレッグの婚約者だったね。疑問だったんだよ。僕の知ってるゲームでは、グレッグの婚約者はコンレイル公爵令嬢なんだ。たしか君は公爵令嬢の取り巻きの一人で、あまり目立たない存在だったはずなんだ。だから、君がグレッグの婚約者に決まったとき、疑問に思ったんだ。そしたら、2年前に魔女の洞窟崩落事故があっただろう。僕の知っているシナリオでは、あの事故で第2王子は洞窟で死ぬはずだった。でも、第2王子は死ななかった。もし、グレッグの婚約者の君が転生者だったら、第2王子が死なないように何とかしたのではないかと考えていたんだ」

「・・・・・・」

 サーシャリアの話しに、ヒラリーは警戒したようだ。

 ヒラリーは何もしていない。あの時動いたのは私だ。

「僕が君を転生者だと疑い始めたのにはもう一つ理由があるんだ」

 ヒラリーは黙って話しを聞いている。

「あの洞窟崩落事故の時、君は、今は魔法省に勤めているアンドレと会っただろう?アンドレが心の中を覗けるって知っている?あの時アンドレが君の心の中を覗いたらしいんだ」

 ヒラリーがギョッとした。

 そういえばあの時、ヒラリーは真っ直ぐアンドレを見ていた。

「でも、何故か覗けなかったらしい。ただ、『どうして無駄にビケイが多いのかしら』という君の考えが見えたらしい。それを姉たちに話しているのを偶然聞いたんだ。この世界ではまだ美形という言葉は流行っていないから、君は転生者かもしれないと思ったんだよ」

 ん?姉?新しい登場人物に私の眉が上がった。

「私が作った造語とは考えなかったの?」

 ヒラリーは緊張しているのか、姉という単語が聞こえなかったようだ。

「いや、その次に会ったときアンドレを見て『イケボ』とも考えていただろう」

「よく知っているわね」

「たまたま聞こえたんだよ」

 姉の側にいて?と突っ込みを入れたくなった。

「・・・」

 ヒラリーは無言だ。

「君の知ってるゲームはどんなの?僕の知ってるゲームには聖女が5人出てくるんだ。男性キャラは5人いて、その中から一人選択するんだ。聖女達のリーダーになって、聖女達と力を合わせて魔女と戦うんだ」

「そのゲームは知らないわ。私が知っているのは乙女ゲームの『花咲ける学園の恋』よ」

 ヒ、ヒラリー、そんな事言ったらもう転生者と認めているも同じだよ。

「乙ゲーか。僕がしていたゲームは『戦う聖乙女の学園の恋』だよ」

 同じ転生者とわかってサーシャリアは嬉しそうだ。

「それは知らないわ」

「乙ゲーの反対と思ったらいいよ。乙ゲーは聖女が主人公だろう。そして攻略対象と絆を深めてハッピーになる話しだろう。僕のゲームは」

 おや、僕のゲームになってる。

「リーダーと聖女5人が魔女と戦いながら絆を深めていくんだ。聖女の中の好きな子を決めて、ペアで戦うと絆が深まるんだ」

「フーン」

 ヒラリーはそのゲームは興味が無いみたいだ。

「ゲームのクリエイターが同じなのかな?」とサーシャリアは首を傾げた。

 クリエイターって何だ?私の知らない単語だ。

「作者は・・・確か大桃雛子・・・」ヒラリーが答える。

 おい、おい、本当に転生者同士の会話になっているけど大丈夫?

「あっ、同じだ。じゃあ同じ設定で2つのゲームを作ったのかも」

「ジョーダン、同じ設定でゲームの主人公だけを変えて?」

「国の名前も一緒。話しの流れも魔女が出てくるか出てこないかだろう。多分イベントもかぶっていると思うよ」

「同じ設定って、手抜きじゃない。そういえば今日のパーティイベントで聖女が覚醒するはずだったんだけど・・・」

「覚醒したじゃないか。ゲームの通りだよ」

 確かに、覚醒した人数だけが違う。

「僕のゲームではこのパーティで5人の聖女が覚醒するから、間違ってはいないんだ。このパーティで覚醒した聖女を集めて、魔女に対抗するための聖乙女戦隊を作るんだ。今頃、みんなが集まって対策を立てているところかもしれないよ」

 サーシャリアが自慢するように言った。

「聖女が戦うって、聖女って回復と治癒の能力だけじゃないの?」

 ヒラリーは聖女が戦うという設定に納得していないみたいだ。

「たしかに光魔法の使い手は、回復や治癒魔法がメインだけど、光魔法も光の剣とか矢とか攻撃できる面もあるんだ。それに、何と言っても魔女と戦うのは光魔法が使える聖乙女でないとだめなんだ」

「そうなんだ」

 思わずヒラリーと一緒に頷いてしまった。

「これから地下イベントや森イベントも出てくるだろう。こんな話し誰とも出来ないから、話せる相手が出来て嬉しいな。これからも時々会って貰えないかな?」

 サーシャリアは私たちが納得したのに気を良くしたようだ。

「あなたのゲームではラスボスが大魔女になるの?」

 ヒラリーの乙女ゲームは魔女の出ないゲームだったから、ラストが気になったようだ。

「そうだよ。君たちの卒業イベントで発生する予定だよ」

「卒業イベント・・・」

 乙女ゲームのラストを思い出したのだろう。ヒラリーが苦い顔をした。

 その様子に気付かないサーシャリアは「君の卒業イベントはどんなの?」と聞いた。

「教えたくないわ」

 ヒラリーが拒否をすると、

「フーン。乙ゲーは卒業パーティで婚約破棄からの国外追放とかそういうのがあるんだっけ?」

 こいつ知ってて聞いているのか?

 ヒラリーの手がグーになった。もう一言いったら殴られそうだ。

「私はメインキャラではないから、どうなるかわからないわ」

 少し震える声でヒラリーが言った。

「そうか、今はグレッグの婚約者だけれど、もともとゲーム上ではモブキャラだったね」

 ヒラリーの事をモブだと言い放つこいつは、私たちをバカにしているのか!

 私もヒラリーの横で戦闘態勢を取る。

「そうだ、さっきから一言も話さない君も転生者?」

 ようやくサーシャリアが私に気付いたようだ。

「いえ、違います。私はヒラリー様の小間使いです」

「そうなの。モブのモブはなかなか表に出てこないから、君の事が記憶になかったんだね」

 サーシャリアは指で眼鏡を押し上げながら、私を見て軽く笑った。

 本当にこいつは・・・澄ました顔をしてなんてこと言うんだ。

「婚約者のいる君と二人で会うのは避けた方がいいから、会うときは君も一緒の方がいいね」

「そうですね」

 怒りを飲み込んだヒラリーの言葉が棒読みに聞こえた。

 ここで癇癪を起こしたら、せっかく知り合った転生者を逃すことになる。今後の為にも仲良くした方がいいと思ったのだろう。

「じゃあ、僕はそろそろ行かなくちゃ。連絡は、そうだな『うわさ鳥』を飛ばすよ。返事はその鳥に言うといいから。じゃあ、またね」

 私たちの気分を害したことに全然気づかないサーシャリアは、軽く手を振って、澄ました顔で城の方に戻って行った。

「キザな奴、イルカ、塩まいてちょうだい」

「でも、彼の言うことは本当でしょうか?」 

「多分ね。仲間が増えるのは嬉しいけれど、人間的に問題がありそうだわ」

「そうですね」

「さあ、私たちも帰りましょう」

 帰ろうとした私たちの後ろから声が聞こえた。

「ちょっと、待て!」

 振り向くと、アルとグレッグが恐ろしい顔で立っていた。


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