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アルを狙う者

「イルカ、遅かったわね!」

 私が扉を開けて中に入った途端、ヒラリーから睨まれた。

 遅かったって、厨房に行ったのは知っているはずなのに。私が出掛けたことが、殿下とグレッグ様に知られてしまったから?とりあえず私に注意することで、何故部屋を出ていたのか詮索されないようにしたのだろうか?

「申しわけございません、ヒラリー様。厨房が混んでいましたので、遅くなってしまいました」

 飴と一緒に厨房から持ってきたティーポットとケーキを乗せたお盆を見せて、ヒラリーの命令で部屋を出ていたことを強調した。

「ヒラリー様が甘い物を食べたいと仰っていたので、厨房からお茶とケーキを頂いてきました」

 ケーキと聞いてヒラリーの目が光った。どうやら本当に甘い物に飢えていたようだ。

「ありがとう。さっそく殿下とグレッグ様にお出ししてちょうだい」

 アルとグレッグがいるのは、部屋に入った時点で気付いていたが、挨拶をする前にヒラリーから声をかけられたので、挨拶をするタイミングを外してしまっていた。

「殿下、グレッグ様、会議は終わられたのですか?」

 もらってきたばかりのお茶とケーキをテーブルに置いた。

「まだ終わっていないけれど、少し休憩を取ると言われたので、ヒラリーが心配してるだろうと思ってこっそり訪ねてきたんだ」

 グレッグは説明しながらソファーに座った。アルはすでに座っていた。

 一枚のお皿にケーキが4つ乗っている。とりわけ用の小皿は2つしかなかったので、アルとグレッグの前に置いた。

「お皿が足りないわ」とヒラリーが言ったので、「ヒラリー様と私は、ソーサーを使いましょう」とティーカップのソーサーを置いた。

「仕方ないわね」

 ヒラリーはしぶしぶ受け入れた。

 カップにお茶を注いでいると、「この間はありがとう。助かったよ」とアルが言った。

「間に合ってよかったです」

 何気なく返答した私の言葉にアルの眉が上がった。

「間に合ってよかった?俺が閉じ込められたのを知っていたの?」

 アルの問にギョッとした。アルが死ぬかも知れないとヒラリーが言ったとは言えない。

「いえ、私があの場に着いた時は、魔女が崖を壊していて、皆が右往左往しているところでした。その逃げ惑う人々の中にグレッグ様は見つけたのですが、殿下のお姿が見当たらなかったので、もしかして洞窟の中に取り残されたのではないかと思ったのです」

「そう。では、どうしてあの場所にイルカはいたの?」

「ヒラリー様とお二人を待っていたら、朝早くから滝の洞窟に出掛けたと聞いたので、私も行ってみようと思ったのです」

「フーン、どうして?」

 アルはどうしてこの話を聞きたがるのだろう?

「それは、私が見てきて欲しいとお願いしたからですわ」

 ヒラリーが横から助け船を出してくれた。

「あの日洞窟から帰って、すぐに会議があったでしょう。私たちは洞窟を見つけた当事者なのに会議にも呼ばれませんでしたわ。それでも、グレッグ様が来てくださると信じて待っていたら、滝の洞窟に出掛けたと聞いて驚いたのです。私達はのけ者にされたと思ったのですわ。だからイルカに見に行って貰ったのです」

 ヒラリーが話しを合わせた。

「のけ者にしたわけではないよ。お爺さま達は女の子を連れて行くべきではないと思われたんだよ。だから、出掛けたのは男ばかりだよ」

 グレッグはヒラリーに弁解をした。

「それでも、どうして出掛けたのか気になったので、私がイルカに偵察を頼んだのですわ」

「そうか、そういうことだったんだ」

 アルが納得したので、この話は終わった。

「それより、少し前に、イルカがサンドラと廊下で会ったそうですわ。私には、その時サンドラが話した事の方がきになりますわ」

 ヒラリーは、私を現場に行かせたことを話したくないので、サンドラから聞いた話しに話題を変えた。

「サンドラが何て?」

 アルもグレッグもサンドラの話に興味をもった。

「サンドラ様から聞いた話しでは、殿下が閉じ込められた崖崩れは、魔女が現れる前に起った。と言っていました」

「あの崖崩れが魔女じゃないって!」

 グレッグが驚いた。

「確かにあの時、俺とグレッグはあの変な装置のある脇の場所ではなく、少し奥を探っていた。その時、グレッグを誰かが呼んだんだ。そしたら天井が崩れてきた」

 アルが記憶を辿るように話し出した。アルの後を、グレッグも思い出すように続けた。

「僕は呼ばれたので、洞窟の入り口の方に少し移動したんだ。そしたら天井が崩れて、あっという間に殿下と離れてしまった。慌てて外に助けを求めて飛び出したら、魔女が現れたと騒いでいたんだ。その時は、まだ崖は崩れていなかった気がする」

「では、本当に誰かが殿下を閉じ込めようとしたのかしら」

 ヒラリーは考えこんだ。

「俺は昔から敵が多いから、あの騒動に紛れて殺そうとしてもおかしくない」

 アルは私たちが気にすることではないと明るく言った。

「それにしても、サンドラがいるかと別れた後に、誰かにその話をイルカに伝えたと報告していたそうよ」

「どういうことだろう?」

 アルもグレッグも不思議な顔をした。

「サンドラは私が殿下の側近になった事を知っていたから、その誰かから、殿下の周りを気を付けて警護するようにと頼まれたのかもしれない」

「そうだとしたら、サンドラが話していたのは兄様かもしれない」

 グレッグの表情が少し明るくなった。

「グレッグ様のお兄様?」

 ヒラリーが首を傾げた。

「先日あっただろう」

 ヒラリーと私が首を傾げたので、グレッグは焦ったような顔をした。

「ハンターだよ」アルが言った。

「あの最上級生の魔法科の方ですか?」

「そうだよ」

 そう言われてみれば、あったときに誰かに似てると思ったんだった。あの銀髪の先輩だ。グレッグの兄だったら、アルとは従兄弟になる。だからか・・・

「ハンター兄様だったら、殿下の周辺が危ないのはわかっているから、側近のイルカも周りに注意して欲しいと思ったのかもしれないね」グレッグは納得した様に頷いた。

「殿下は狙われているのですか?」

「そうだよ。だから学校に入る前は、公爵家で過ごすことが多かったんだよ」

「その首謀者は掴めているのですか?」

 ヒラリーが興味津々で尋ねている。

「僕たちも調査はしているけれど、まだわからない」

「しかし、今回はイルカのおかげで助かったけれど、崖崩れのことが魔女ではなく、その者の仕業だとするとやっかいだな」

 アルの顔が真剣になった。

「たまたま、私の耳がよかったから気付いたのです。私があの場にいなかったら本当に危ないところでした」

「本当に助かったよ。ありがとう。でも、誰かわからないけれど、俺を亡き者にしたい輩が動き出したと言うことは確かだね。今回イルカに助けられたことは、グレッグには教えたけれど、他の人には話していないから、ここにいる4人だけの秘密だよ」

「わかってるわ」私もヒラリーも強く頷いた。

「じゃあ、あまり長居をすると誰かに勘ぐられるかもしれないから、そろそろ行くよ」

 アルは立ち上がるとグレッグと一緒に部屋を出て行った。


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