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飴を作る

 部屋に帰るなりヒラリーが言った。

「上手くサンドラと会えたようね」

 ヒラリーが私の後をコッソリつけていたのは知っていた。廊下でサンドラと遭遇したのを見ていたのだろう。

「あの女が、あんたに自分の小間使いにならないかと、失礼な提案をしていたでしょう」

 それほど大きな声で話していなかったのに聞こえていたようだ。

「聞こえていたのなら、私が断ったのも聞こえていたのではないですか」

「あんたが殿下の側近だからと断ったのは聞こえたわ。あの女が、そういう提案をすること事態腹が立つのよ。その後に、横の部屋に二人で入ったでしょう。中で何を話したの?」

 そうだった。部屋の中に誘われて入ったから,その後の話しはヒラリーには聞こえていないのだ。

 私はサンドラから聞いた事をヒラリーに話すことにした。もっとも、私もヒラリーに聞きたいことが会ったからだけど・・・

 フェアルート殿下がアルだと言うことをヒラリーは知らないから、フェアルート殿下が暗殺から逃れるために、公爵家にいたことははしょる事にした。

「公爵家としては、身内のフェアルート殿下が国王になって欲しいと思っている。だけど、フェアルート殿下を王にしたくない誰かによって、子供の頃から命を狙われている。そんな事もあって、今回の洞窟が崩れて閉じ込められたことが、魔女の仕業ではなくて、王子をなきものにしたいと考えている者が、魔女の仕業に見せかけたとサンドラ達は考えているらしい」

「そうなの!私はてっきり魔女が滝の洞窟にあるあの場所を壊しに来たのかと思っていたわ」

「魔女は洞窟を壊しに来たのは本当ですが、殿下のいた洞窟が壊れたのは、魔女が来る前だったようですよ」

「なに、それ!」

「当のフェアルート殿下は王座に興味がないようだけれど、ジョイール殿下が聖女もどきと仲良くしているのは、サンドラ達にとっては不愉快みたいです。聖女もどきの事を似非聖女と言っていました」

「そこは私と話しが合うわね」

「ジョイール殿下側も国王の座を狙っているから、今のうちに聖女もどきを取り込んでおきたいと思っているようですよ」

「確かにジョイール殿下は聖女もどきと仲が良いわね」

 ヒラリーは頷いた。

「でも、今度学園に入学する子のなかに、新たな聖女候補がいるようですよ。あの聖女もどきと仲良くしても、どちらが国王になるかはまだ解らないとサンドラは言ってました」

「聖女候補ってそんなにいるの?」

「知りませんよ。あ、それから、サンドラが私と別れた後のことなのですが、サンドラは誰かに「打合せ通りに伝えたわよ」と言っているのが聞こえました」

「誰かって、誰よ」

「わからないから、誰かですよ。相手の姿も見えなかったし、声も聞こえなかったからわからないのです」

「肝心なときに使えないわね」

 悪かったですね。私は超人じゃないから、ヒラリーの思うようには動けません。と心の中で悪態をつく。

「それより、ヒラリー様。ゲームの中にフェアルート殿下の敵が出て来たんじゃないですか?」

 一瞬ヒラリーが驚いた顔をした。

「まって、ゲームが始まったときにはフェアルート王子はもういなかったのよ」

「グレッグ様の話しの中には出てこなかったのですか?」

「グレッグは影のある無口な人として描かれていたわ」

 ヒラリーはブツブツ言いながら、ゲームの内容を思い出そうとしていた。

「あー、何かあったのよね,グレッグ様が聖女に思い出話しをしていた時・・・何か言っていたような。聖女が驚いて『まあ、そんな事があったのですね』と言っていたから」

 ヒラリーは部屋の中をウロウロと回り始めた。

 何か引っかかるものがあるのだろう。しかし、それが何かを思い出せないみたいだ。

「あー、もう!何かあったはずなのに思い出せないわ」

 そう叫ぶと、ヒラリーはソファーに倒れ込んだ。

「だいたいあのゲームの中には魔女は一度も出てこなかったのよ」

「そうなのですか?」

 それは意外だった。私の記憶は魔女狩りの話しを聞いたときから始まっていたから、ゲームの中にも魔女は出て来たと思っていたのだ。

「あー、頭使いすぎたら喉が渇いたわ。イルカ、お茶を入れてちょうだい」

 頭を使ったことが喉の渇きとどう関係しているのかわからないけれど、お茶の用意をすることにした。

「甘い物が食べたいわ」

 急に甘い物と言われても、部屋から出るわけには行かないので、厨房まで貰いに行く事はできない。

「お茶に砂糖をたっぷり入れたらどうです?」

「そんなの甘ったるくて飲めないわ」

 なんて我が儘なんだろう。

 少し腹を立てながら、ヒラリーの前に紅茶の入ったカップを置く。すると、ヒラリーは砂糖をスプーンで山盛り5杯入れてかき混ぜた。

 それを一口飲んだ途端、ヒラリーの顔が歪んだ。

「げーっ、甘くて飲めないわ」

 ヒラリーはお茶のカップをおいて、舌を出して「水、水」と言った。

「ヒラリー様、砂糖は貴重品なんですよ。ちゃんと飲んでください」

「私はもういらないわ。あんたにあげるから飲んでよ」

「そこまで甘い飲み物は苦手です」

 反論されたのが気にくわなかったようだ。

「わかった、じゃあそれを煮詰めて飴を作ってちょうだい。そうしたら食べるわ」

 なんと、甘いお茶を煮詰めて飴を作れと・・・なんて無茶ぶりをするのだろう。

「もう少し砂糖を入れて、煮詰めたらカラメル状になるから、そのカラメルを冷やしたら飴になるはずだから作ってよ」

 確かに、そうしたら飴は出来るかも知れない。

「でも、鍋がいりますよ」

「この部屋の横階段を降りると使用人入り口があったわよね」

 良く覚えていらっしゃる。確かに部屋から出てすぐの階段は使用人が使う階段だ。

「鍋を借りてきたらいいじゃない」

「鍋を借りに行くなら、厨房を借りて作ってきます」

 ヒラリーは私の火の魔法を当てにしているのだろうが、私の魔法はそこまでの火力がない。それだったら、厨房の竈を借りた方が早いと思った。

「じゃあ、そうしてちょうだい」

 いつもは使わない頭を使ったせいだろうか、ヒラリーの機嫌が悪い。私は砂糖でドボドボになったカップを持って、横の階段から下に降りた。

 使用人用の扉を開けて中に入ったところで、ばったりとマリとその先輩に遭遇した。

 事情を話して厨房に案内して貰い、料理人に言って、鍋と竈を使用してもいいかと聞いた。料理人は気前よく鍋も竈も使わせてくれたので、さっそく飴を作る事にした。煮詰まった砂糖水を入れる型も用意してくれた。

 30分ほどかけて、カップ一杯の紅茶砂糖水の飴を作った。それを持って部屋に帰ったら、アルとグレッグが来ていた。

 ヒラリーの機嫌は、飴がなくても良くなっていた。


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