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ワープポイント

 湖沿いを歩いていた私たちの前に唐突に小川が現れた。

 この池のような湖に川があると予想してなかったので驚いた。私が驚いた事に気付いたアルが教えてくれた。

「この湖は小さいから、誰だって池と勘違いしてしまう。だから川があるとは考えないんだろうけれど、元々は自然に出来た三日月湖だったんだ。この場所に別荘を建てるときに、三日月湖だと上手く景観が取れないので幅を少し広げたらしい。だからこの湖の形は半円形に近いんだ」

「半円ですか?」

 三日月湖と言ったら、川が蛇行して出来た湖のことだ。この川が蛇行するほど大きな川には見えない。

「そうそう、太った三日月みたいな形をしているんだ。昔はここに本流の川があったらしいが、大雨が降ったときに氾濫して、別の場所に主流ができた。そして残されたのがこの三日月湖だ。別荘を建てるときに、本流から水を引いて入れるために川を作ったらしい。氾濫しないよう水量を押さえた小川として整備をしたと聞いている。向こう側には、湖から流れ出る小川もあるんだ」

 なるほど、太った三日月と言うより、胃袋の形をしていると言ってくれた方がわかりやすい。こっちの小川が食道で、あっちが十二指腸にあたるのか。

 太った三日月なんてロマンチックな言い回しをするアルに比べて、胃袋と思う私の思考は少々おかしいのかも知れない。そういえば、会社の同僚から言われたことがあったような。今居さんは女子力が崩壊していると言うより元々存在してないんじゃないですかと・・・だいたい、推し命のヒラリーは分るとしても、恋愛事に無頓着のアラサー女子が、この世界にいることがおかしいのよ。

 自虐ネタになりかねない昔を思い出していると。

「イルカ、図面によると、両脇の森から小川の上流まで調査範囲になっているわ」

 ヒラリーは図面を見ながら不服そうに口を尖らせた。

「一番奥のめんどくさいところを引き当てたみたいだね。ヒラリーはくじ運が悪かったんだ」と何も知らないグレッグがヒラリーを慰めた。

「グレッグ様、私たちはくじなど引いた覚えはありませんわ」

 そうそう、ヒラリーの言うとおりだ。

「えっ、サンドラが持ってこなかった?」

「いいえ、この地図を渡されたときには、もう決まっていましたわ」

 グレッグが何か言いかけたが、アルがグレッグを遮って言った。

「サンドラのやりそうなことだね。でも、俺たちが来たから大丈夫だよ」

「そうですわね。グレッグ様と一緒に回れるのなら私は何処でもよろしいのですわ」

 サラッと話題を変えられたことも気付かずにヒラリーは頷いた。グレッグがいればヒラリーは満足なようだ。

 さて、話しを小川に戻そう。

 川幅は3メートル、中央をサラサラと清流が流れている。水量は多くない。川底の岩が隠れるか隠れないかの深さだ。川の中に入れば向こう岸に渡れそうだ。

 護衛のため遠巻きに守っていた衛兵をアルが呼んだ。

 6人の衛兵が木陰から出て来た。

 アルが衛兵に向かって指示をだす。

「こっち側と向こう側とに分かれて、川下から上流に向かって探すとしよう」

「はっ、しかし、上流は森が深くなっています。我々だけで大丈夫でしょうか?」

 衛兵の一人が言った。

「ここは公爵領の中だ。それに今日は湖の周りに多くの人がいる。何かあっても叫べば誰か飛んできてくれるだろう」

 アルはそう衛兵に告げると二組に分けた。

 対岸グループは主に移動魔法・風魔法が使える者が選ばれた。

 アル曰く、ここはまだ浅いけれど、上流はどうなっているか分らないので、いざという時に合流できるよう飛べる者が集まった方がいいと考えたようだ。

 アルとグレッグとヒラリー、そして、衛兵が一人。私は木の葉を舞わせるくらいのしょぼい風魔法しか使えないけれど、跳躍力があるのでアルのグループに入った。

 それに、アルも気付いているのだろう。対岸には微かに瘴気の気配がしていた。

 私たちは対岸に渡った。

 せーので同時に二組のグループは小川の両側を上流に向かって歩きはじめた。

 川沿いの道をしばらく歩いていると、だんだん傾斜がきつくなってきた。

 川幅は変わらないけれど、川面はだんだん下になった。

 周りの木々も増えてうっそうとした森の中に入って行った。

 誰も文句も言わず、ただ黙々と先に進んだ。

 どのくらい歩いただろうか、急に森が途切れて開けた場所に出た。

 そこは大きな岩を四角く削り丁寧に敷き詰められた広場だった。真ん中を溝が流れている。溝の向こう岸も岩の広場が続いていた。溝の幅は3ートル。深さは二メートルくらい。溝の中は水が流れていた。

 溝の縁まで歩いていたら、川向こうを進んでいたグループが森を抜けて岩の広場に出て来たところだった。

 岩の広場の数十メートル先に、敷き詰められている岩と同じ様に四角に削られた岩を2メートルほど積み上げた崖が見えた。崖は見えている範囲に長く続いている。水の流れている溝の上にも架かっていた。そこにはアーチ型の水門があり、水門は開いていた。どうやら本流からこの溝を通って川に繋がっているようだ。

「川があります」先に崖に登った衛兵が言う。衛兵に続いてみんなが崖に上った。

 上ると目の前に大きな川が現れた。

 どうやらこの崖は川の堤防らしかった。

 崖の上は幅が1メートルほどあって、その上を歩けるようになっていた。

「この川が本流なんだろう」

 アレスが川の流れを見て呟いた。

 堤防を歩いて水門の上で立ち止まった。

「ここから小川に水を引いているのね」とヒラリーが感心したように言った。

 耳を澄ますと、川の流れとは別に水の流れ落ちる音が聞こえた。

「どうやら、この溝の先に滝があるみたいだ」

 私たちのグループは堤防を降りて、もう一つのグループと合流した。そして溝の水が流れ落ちる場所に行った。

 その場所から下を見ると、そこには数十メートルの滝が流れていた。

「この下に微かに瘴気の気配がする」とアルが言った。

 その場の誰もがキョトンとした顔でアルを見た。誰もこの瘴気を感じていないらしい。

 私はアルと同様に滝壺の近くに瘴気の気配を感じていた。

「降りてみよう」とアルが言ったので衛兵が驚いた。

「殿下、おやめ下さい。もし本当に瘴気があるなら、ここから先は魔法省に任せた方が宜しいと思います」衛兵の一人がアルを引き止めた。

 アルはその忠告をはねのけて、「お前は飛べるから、この事を別荘にいる者に伝えてくれ。そして、他の者は今登ってきた道を下って別荘まで戻れ」と衛兵に指示を与えた。そしてアルは滝壺に向かってゆっくりと降りていった。グレッグもそれに続く。ヒラリーは少し迷っていたが、グレッグの後を追っていった。私は滝壺に着地できるような足場を見つけると飛び降りた。

 最初に滝壺に着いたのは私だった。

 降りた所で上を見上げると、アルは浮遊魔法を使っているのだろう。安定して空中に浮かんでいるが、水しぶきと上昇気流でグレッグとヒラリーはフラフラしていた。私はヒラリーに声をかけて着地点を教えた。

 ほどなく滝壺近くの岩の上に全員が落ち着いた。

「どうやら瘴気はこの水の向こうから漂ってくるようだ」とアルが流れ落ちる滝の水を指さした。

 滝の後ろをよく見ると洞窟が見えた。

「滝の裏に洞窟があります」

 私はぴょんと岩を飛び移り滝の裏側に移った。その後をアルとグレッグ、ヒラリーが続いた。

 洞窟の中に入って行く。不思議な事に洞窟の中はほのかに明るかった。

「不思議だけれど、この岩が光を発光しているようだ」

 何気にアルが洞窟の岩を叩いた。

 アルが叩いたせいなのか分らないが、突然アルの横に道が現れた。

 この道はそれほど深くないらしい。道の先が洞窟の明るさでなく、何かが奥で光っているように感じられた。

 その光に向かって進むと、そこに不思議な物が現れた。

 三本の円柱が建ち、それぞれの上に輝き発光する丸い石が三つ空中に浮かんでいた。

「ワープポイント」とヒラリーが小さく呟いた。

 アルが不思議そうにヒラリーを見た時、後ろから人の話し声が聞こえてきた。

「ここには魔女の瘴気の気配がする。これから後は我々が調べるので、君たちは帰りなさい」

 振り向くとそこには、アンドレとハンター、アンジェラ、そして、魔法省のケープを纏った数人が立っていた。

「ここから先は、君たち子供が関わることではない。早々に戻るように」

 魔法省の人は冷たくそう言い放つと、私たちは外につまみ出された。

 ちょっと腹が立ったが、瘴気は残っていたけれど,魔女がもういないのは気配で確認出来たので、私たちは別荘に戻ることにした。


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