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土の魔法

 湖の周りを手分けして調べる事になったけれど、どうやらすでに担当する場所が決まっているようだ。

 サンドラが調査担当を書いた紙を配っていた。

 まるでこの場を仕切っているかのように、私達の前に来て、ヒラヒラと1枚の紙を振りながらニヤリと笑った。

「これを決めたのはお爺さまよ」

 お爺さまを強調したところを見ると、文句は言うなと言うことらしい。

 ヒラリーが奪うように紙を取った。

 サンドラはツンと顎を上げて私たちの前から去って行った。

 私たちに割り当てられた場所は、一番遠い対岸だった。

「これは絶対わざとだわ」

 ヒラリーの額に怒りのマークが付いているようだ。

 私たちから離れて、次のグループに向かうサンドラを見ながら、

「イルカ、あいつの足下の土を盛り上がらせて、転ばせなさい」と淑女らしくない低い声で呟く。

 私はサンドラの足下を見ながら、あの土を盛り上げて躓かせるなんて出来るわけないじゃない。それでも、ヒラリーの命令には逆らわない方がいいと思ったので、サンドラの歩いている地面をじっと見つめていた。そしたら、何故かサンドラが急にバタッと倒れた。

 それを見たヒラリーは、やはり淑女らしくない声で、「チッ!顔から行けば良かったのに,無駄に胸が大きいのね」と舌打ちをしてボソッと呟いた。

 ヒラリーはサンドラが転んだのが嬉しかったのか、私が見ても恐ろしい笑顔で、今にも笑い出しそうだった。止めて下さい、ヒラリー様。その顔はどう見ても悪人顔ですよ。間違ってもグレッグに見せてはいけない顔です。

 サンドラの影響だろうか、昨日からヒラリーの悪役令嬢度が上がったような気がする。

「ざまあですわ」再びヒラリー嬉しそうに呟いた。

 私は慌ててサンドラに視線を戻した。

 サンドラは、胸を支点に手足をバタバタさせてアウアウしている。まるで水族館のトドのようだ。

 手に調査範囲を示した紙の束を持ったままなので、起き上がれないらしい。背筋マックスで叫んでいる。

 紙を手放せばいいのに・・・

 笑ってはいけないと思うけれど、笑いが出そうだ。

 姉の横でオロオロしていたアイリスが、姉が紙を手放さないから立ち上がれない事にようやく気付いたようだ。姉から紙の束を受け取ってサンドラが立ち上がるを手伝っている。

 サンドラの様子を見ていたら、私の耳元で誰かが囁いた。

「今、魔法を使いましたか?」

 瞬間、ゾワッとしてヒラリーを突き飛ばしてしまった。

「何をするの!イルカ!」

 ヒラリーが私を睨みつけたと思ったら、急にポカンとした顔になった。

「アンドレ様」

 えっ?アンドレ?

 横を見るとアンドレ様が立っていた。

 私の耳元で囁いたのはアンドレ様?

「今、土の魔法の気配がしたのだけど・・・君が使ったの?」

 今度は私の顔を覗き込みながら聞いてきた。

 ヤバい、アルの話しだと目を合わせると、心を覗かれると言っていたのを思い出したので、私は視線を泳がせた。土の魔法は仕えないから、正直に言った方がいいのだろう。

「土の魔法ですって!私もイルカも土の魔法は使えないわ」

 先にヒラリーが否定した。

 黒髪のアンドレが気になると言っていた割に、ヒラリーはアンドレを警戒しているように感じた。

「そうか、魔法の気配がした気がしたけど、気のせいだったのだろうね」

 アンドレはヒラリーの目を覗き込んで、フッと笑った。

 笑った顔も素敵に見えるけれど、ヒラリーはアンドレを無視して「イルカ、行くわよ」と私の手を引いて歩き出した。

 アンドレから充分離れたところで、ヒラリーが言った。

「あの人に目を覗かれたら、気持ち悪くなった」

 そういえば、ヒラリーはアンドレの目を真っ直ぐ見ていた。

「聞いた話しだけれど、アンドレ様は目を覗き込んで、心の中を見るそうです」

 それを聞いて、ヒラリーは驚いた。

「まさか、心を覗かれたのかしら」

「良からぬ事でも考えていたのですか?」

「ゲームの事を考えていたのよ。アンドレは私たちが上級学年になったときに、魔法省の役人として現れるのよ。だから、何故ここで現れるのか不思議だなと思っていたのよ」

「それはヤバいですね」

 アンドレはヒラリーの心が見えたのだろうか?ヒラリーが異世界から転生してきたことがバレなきゃ良いけれど。

「だいたい私がグレッグ様と婚約したことが、すでにゲームと違っているから、これからのイベントも変わってくるかも知れないわ」

「イベントですか?」

 イベントってなんだろう?そんな事を考えていたら、ヒラリーは

「しかし、ゲームだからって、みんな美形って!嬉しすぎない」と突然方向性の違う事を考えていたようだ。

「問題はそこですか!ヒラリー様の心の中を見られたら困るでしょう」

 ヒラリーがあまりにも単純に考えている。

「覗かれたって構わないわ。どうせ彼等には理解できない事ですもの。それにね、私は大丈夫な気がするのよ」

 何処からそんな自信が出てくるのだろう。どっちにしても、アンドレには気を付けよう。


 その頃、アンドレはハンターとアンジェラと合流していた。

「アンドレ、あの子達と何を話していたんだ」

 ハンターの問にアンドレが答えた。

「土の魔法の気配がしたので聞いていた」

「それで」

 アンジェラが興味を示した。

「二人とも土の魔法は使えないと言っていた。本当かどうか目を覗いたんだけど・・・」

「見えなかったの!」

 アンジェラが驚いた。

「いや、見えたけれど、それが・・・」

「何が見えたの?」

「彼女から見えたのは『どうして無駄にビケイが多いのかしら』という疑問だけだったんだ」

「ビケイってなに?」

「それが分れば苦労しないよ。ただ、それ以上は分らなかった」

 アンドレはヒラリーの表面的な言葉は見えたけれど、その奥が見えなかった事が気になった。

「アンドレの魔法が効かなかったのかもな」

 ハンターがアンドレの肩を叩いた。

 アンドレの魔法が効かない者が少数いるのは分っている。それは、相手が覗かれないよう対策しているからだ。

 アンドレの魔法が何かも知らない少女がなんの対策も取らず、アンドレの目を見た場合、アンドレはかなりの情報を少女から引き出せる。しかし、あの少女からは何も引き出せなかった。アンドレは無防備でも心が読めない少女として、ヒラリーに注目する事にした。


 アンドレからヒラリーが要注意人物に指定された事も知らずに、私たちは湖の対岸を目指して歩いていた。

「イルカ」

 後ろから声をかけられて振り向くと、アルとグレッグが私たちを追って来ていた。

「殿下にグレッグ様」

 ヒラリーはグレッグに会えて嬉しそうだ。

「殿下の持ち場はこちらではなかったと思いますが」と私はアルを見た。

「俺たちの所はもうすんだから、ヒラリー嬢とイルカの手伝いをしようと追って来た」

「ヒラリー一緒にやろう」とグレッグがヒラリーに手を差し伸べる。

 ヒラリーはグレッグが追って来たのが嬉しかったようで、私の側から離れてグレッグと並んだ。

「イルカ、私はグレッグ様と一緒に歩くことにするわ」

 私はチロッとヒラリーを横目で見ながら「分りました」と答える。するとアルが「イルカは俺と一緒に捜索するから、二人は俺たちを気にしなくてもいいよ」とグレッグに言った。

「そういうことで、イルカは俺と一緒な」

 私は、ヒラリーとグレッグに軽く頭を下げると、先に歩き出したアルの後を追った。

 二人から少し距離を取って歩く。

 しばらく二人で歩いていると、アルが私に尋ねた。

「さっき、アンドレと話しをしていただろう。何を話していたの?」

「土の魔法を使ったのかと聞かれた」

 私の返事を聞いてアルは「やはり」と呟いた。

「アルも魔法の気配を感じたの」

「うん、サンドラが転んだとき、土の魔法の気配がした」

「サンドラが転んだとき」

「イルカ、何かしなかったか?」

「あの時は、ヒラリー様がサンドラ様の足下の土を動かして転けるようにって、無茶ぶりをされたのです。私は仕方なくサンドラ様の足下の土が少し盛り上がれば良いなと見つめていました」

「土が盛り上がれと見つめていた?」

「命令に従うふりをしただけですよ。そしたら、タイミング良くサンドラ様が転んだのです」

「なるほど、イルカは偶然だと思っているんだね」

 アルが納得した様に頷いたので、私は慌てて否定した。

「私ではないですよ」

 アルはフッと笑うと、「今はそういうことにしておこう」と言った。


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