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じじい’ず 続き

「ねえ、見てよ。あの『じじい‘ず』が来てから、馬車が続々到着しているわ」

 ヒラリーは顔を窓ガラスに貼り付けるように外を見ている。

 別荘の北側2階の私たちの客室から、馬車置き場がよく見えた。

『じじい‘ず』の到着以降、アルとグレッグも祖父をないがしろには出来ないため、不本意ながらも彼等の元へ行っていた。

 どうやら『魔女が現れた』と言うメイドの話しは、瞬く間に広がったらしい。

 その為、近隣の領主達が次々と別荘に集まってきた。

「あら、あの馬車は・・・」

 外を覗いていたヒラリーが驚いた様に呟いた。

 ヒラリーの反応に、私も窓の外を見た。

 ヒラリーが見ていたのは、馬車置き場に入って来たばかりの馬車だった。馬車はあえて別荘の建物から離れた場所に停車しようとしていた。

 その馬車は全体が黒く窓がなかった。馬車の持ち主を示す目印も付いてないように見えた。

 しかし、1キロ先の人の顔を認識出来る私の目は、馬車の扉の上に小さく目立たない紋章を見つけた。どうやらその紋章も黒く塗られており、パッと見た感じでは、それが紋章と分らないように見えた。

「剣と炎をあしらった紋章が付いてますね」

 私が紋章の説明をすると、ヒラリーは目を丸くした。

「あんた、あんなに遠くに止まった馬車の紋章がよく見えるわね」

「いつも鍛錬をしていますから・・・」

 しまったと思いながら小声で言い訳したが、ヒラリーは馬車に夢中で、私の声など聞こえていないようだった。

「私の記憶が正しければ、あれは魔法省の馬車だわ」

「魔法省ですか?」

「イルカに見えた紋章が間違いなければ、窓のない奇妙な馬車を使うところは魔法省だけだわ」

「何故窓がないのでしょう?」

「知らないわ」

 私が知るわけないでしょうとばかりにヒラリーは言った。

「魔法省の馬車がどうしてここに来たのですかね」

 この問にも知らないわと帰ってくるかと思っていたら、「魔女が現れたと聞いたからでしょうね」と答えてくれた。

 魔法省と言えば、魔法に関しては国の最高機関だ。

 魔法省には国内の優秀な魔法使いが集まっていると聞いている。

 魔法省の馬車を見ていると、中から銀色のマントを纏った人物が三人出て来た。

「銀色のマントを纏っていますね」

「銀色のマントなら王立学校の最高学年の学生だわ。きっと卒業後に魔法省に入るのが決まっている方達ね」

「銀色のマントは学生なのですか?」

「銀色のマントは、最高学年の魔法科の生徒の中でも優秀な者だけに許されているのよ。魔女の話に魔法省が学生を手配したのでしょうね」

「ヒラリー様、男の人の一人は私と同じ黒い髪をしていますよ」

 私が驚きながらそう伝えると、ヒラリーは「何ですって!」と叫んだ。そして馬車から降りてきた人物をよく見ようと目を細めた。

「あの方は魔法科最高学年のアンドレ様だわ!」

「アンドレ様ですか?」

「私が黒い髪に興味があるのは知っているわよね」

「黒い髪に興味があったから、私を側に置いているとお聞きしていますが」

 私がそう言うと、窓の外から視線を外さずにヒラリーは話しを続けた。

「そうよ、だから黒い髪の人はすぐ目が行くのよ。アンドレ様の噂は学校に入る前から聞いているわ。小さな頃からとても魔力が強い方らしいわ。私たちは学年も違うから会うことはないけれど、学校では勉強も魔法も出来て顔も良いから、女子にとても人気があるのよ。学年の違う私たちが、こんなに近くでアンドレ様を見られるチャンスなんてそうそう有る者じゃないのよ」

 ヒラリーはアイドルを見るように興奮気味に叫んだ。

 その時後ろから控えめに咳払いが聞こえた。

「ヒラリーは黒い髪が好きなのですか」

 驚いて振り向くと、すぐ後ろにグレッグが少しムッとした顔で立っていた。グレッグの横にアルがいたが、彼はニヤニヤしながらグレッグを見ていた。やきもちをやいているのだろうか、グレッグがこんな顔をするのを初めて見た。

「グレッグ様、いくら婚約者と言っても勝手に淑女の部屋に入ってくるのはどうかと思いますわ」

 ヒラリーは慌てて誤魔化すようにグレッグに言った。

「ノックはしたよ。三回して返事がなかったから、中を覗いてみることにしたんだ」

 グレッグに変わりアルが言った。

「そしたら、君たちは窓の外を見ていて、俺たちに気付かなかった」

「それは失礼致しました」

 ヒラリーも王子を相手にそれ以上は何も言わなかった。

「フーン、最高学年の魔法使いの三人が派遣されたってことだよな」

 アルは私の横に来て外を覗きながら呟いた。

「アンドレの他は、銀色の髪を後ろで束ねているのがハンター、そして金髪の美女がアンジェラ。みんな卒業後は魔法省に入る予定になっている。おおかた今回の魔女騒ぎを聞いた魔法省が彼等を派遣したんだろう」

 ヒラリーは珍しくグレッグが怒っている様子が気になったのか、窓辺から室内に移動して、ソファーに座るように勧めた。そして、近くに控えていたメイドにお茶の用意を頼んだ。

 私もヒラリーのところに行くために窓辺を離れようと室内に目を向けたとき、強い視線を感じた。おや?と思って窓の外を見ると、アンドレと呼ばれていた黒髪の青年と目が合った。瞬間、背筋がゾクリ感じるような不快感が襲った。

 私の様子に気が付いたアルが目を手で隠した。

「あいつの目を見てはダメだ。心を覗かれる」

 あの目は多分魔性の目なんだと私は思った。

「噂ではあいつの母親は魔女ではないかと言われている」

 アルが私の耳元でボソッと呟く。

 その呟きが聞こえたのか、グレッグがアルを見た。

「殿下、臆測でそのようなことを・・・」

 ヒラリーにはアルの呟きが聞こえなかったみたいで、突然言われた言葉に驚いた様にグレッグを見た。

「そうだよ。単なる噂だよ。ほら見てごらん、アレド伯爵が令嬢を連れて来たようだよ」

 再び窓の外を見ると、アレド伯爵と聖女もどきが馬車から降りてくるところだった。

「あの聖女候補が来たと言うことは、ジョイールも来るんだろうな」

 第一王子の顔が浮かんだのだろう、うんざりした様にアルはため息をついた。そして思い出したように付け加えた。

「そうそう、先ほどのアンジェロも聖女候補なんだよ」

「「えっ!聖女候補って何人もいるの?」」

 私とヒラリーの声がハモった。

「俺も詳しい話しは知らないけれど、今の聖女様の能力が落ちたときに国に張り巡らせている結界が緩むのを防ぐため、今のうちから何人かの聖女候補を選んでおくと聞いた」

 へぇ、そうなんだ。と感心していると、ノックの音が聞こえて従者が入って来た。

「殿下、そしてその他の皆様、ファスト様とネスト様からお話があるそうなので、1階のホールにお集まり下さいとの事でございます」

 従者は伝言を言い終わると、丁寧にお辞儀をして出て行った。

「『じじい‘ず』から話しが有るみたいだね。遅れるとうるさいからホールに行こう」

 アルが儒者の出ていった扉に向かって行く。その後をグレッグが続き、ヒラリーと私も慌てて後を追った。


 1階のホールにはかなりの人が集まっていた。

 ホールの横の壇上に『じじい‘ず』が立っていた。

 ホントによく似ている。私は気配が違うので見分けられるが、顔だけだったら入れ替っても分らないだろう。

「諸君、一昨日の夜、湖のボート小屋の近くで魔女を見たと言う話しを聞いた。先ほど魔法省から派遣された、ハンター君とアンドレ君、アンジェラ嬢の三人にボート小屋付近に痕跡がないか調べてもらったところ、かなり薄くなっているが、痕跡が残っていたそうだ。この別荘の近くにはもういないと分っているが、今日、明日と湖の周りを調べる事になった。魔女の痕跡を見つけ次第、我々の元に連絡を入れるようにお願いしたい」

『じじい‘ず』の話しが終わると、すぐに解散して、皆で湖の周りを探索することになった。

 アルとグレッグとヒラリーと私の四人で対策を練っていると、アルトが寄ってきた。

「アルト、君も呼ばれたのか」

 グレッグがアルトを手招きした。

「殿下にグレッグ、大変な事になったね」

「大変と言うより、面倒な事に巻き込まれたと言った方があってる」

 アルが本当につまらなさそうに呟いた。

「魔女は本当にいたのだろうか?」

「いたと思う。昨日俺たちが別荘に来たとき、変に空気が淀んでいた。今は消えてしまったけどね」

 今朝もあの湖の台のところには瘴気の様な物が漂っていた。アルが浄化したので瘴気は消えたけれど、他の場所だったら残っているかも知れない。

「とにかく湖の周りと回って見るか。アルトは誰と組んでいるんだ?」

「僕は殿下の側近ですから、殿下の側にいたいと思っています」

「そうか、それなら早速出掛けよう」

 こうして私たちは湖の周りで魔女の痕跡を探すことになった。


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