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じじー‘ず

 朝食は昨夜の食堂とは違った小さな部屋に用意されていた。席が4人分あると言うことは、アルとグレッグも一緒らしい。

「グレッグ様達も一緒みたいね」

 テーブルの上を見たのだろう。それまで不機嫌だったヒラリーの顔がパァーっと輝いた。

 私たちは扉の側で二人を待つことにした。

 しばらくして、執事がアルとグレッグを案内して入って来た。

「おはようございます。殿下、グレッグ様」

 ヒラリーが2人を迎えてスカートを軽くつまみ礼をとる。私もヒラリーの後ろで同じようにスカートをといきたいが、あいにく私は側近用のズボン姿なので胸に当て頭を下げる。

 アルは軽く頷き、グレッグは「おはよう」と笑顔を見せた。

 アルが先にテーブルに着く。その次にグレッグ、ヒラリーと続く。

 本当なら私の身分では同じテーブルに着くことは出来ないはずなのに、3人は当たり前の様に私をテーブルに誘う。

 周りで世話をする者達の視線を感じるが、これはヒラリーと初めて公爵邸に行ったときから変わらない。私は身分に関係なく同じテーブルにつく。

 昨日もそうだったけれど、使用人達は不思議に思っても誰も何も言わないところを見ると、本邸から来ている従者から別荘の担当に話しが行っているのだろう。

 食事が終わり、談話室に席を移すことになった。

 廊下に出ると使用人達が慌ただしくしている。

「何かあったのかな?」

 グレッグがクビを傾げた。

 廊下の向こうからサンドラとアイリスが歩いてくるのが見えた。

 相変わらずツンツンしている。

 グレッグがサンドラを呼び止めた。

「サンドラ、執事やメイドが慌ただしくしているけれど、何か有ったの?」

 グレッグに声をかけられて、初めて気付いたように私たちを見た。

「おはようございます。殿下にグレッグ」

 丁寧にスカートを持ち上げて、アルとグレッグに挨拶をする。ヒラリーと私は眼中にもないとばかりに完全に無視された。アイリスがサンドラの後ろで、申しわけなさそうにヒラリーに頭を下げる。

「私も先ほど聞いたのですが、お昼からお爺さま達がいらっしゃるそうですわ」

 サンドラの言葉にアルとグレッグが驚く。

「お爺さま達が?何故?」

「さあ、私は分りませんわ」

 サンドラの後ろからアイリスがおどおどと小さな声で呟いた。

「魔女が現れたと聞こえました」

 サンドラがキッとアイリスを睨む。その視線を受けてますますアイリスは縮んだ。

「魔女!その話は誰から聞いたの?」

「昨日の朝、メイド長から執事長の方に連絡があったそうですわ」

 サンドラは詳しくは知らないと言った。

「分った。執事長に聞いてみよう」

 アルはそう言って、グレッグを連れて廊下を歩いて行った。

 サンドラは残されたヒラリーと私を見て、

「お爺さま達がいらしたら、貴方たちはお帰り頂くかも知れませんわね」と意地悪く言った。そして、スカートの裾を翻しながら顎をツンと上げて廊下を去って行った。

 ヒラリーは顔を真っ赤にして唇をかんでいる。手をわなわなと震わせているところを見ると、爆発寸前の火山の様だった。

「ヒラリー様、あんな意地悪女はほっといて、談話室でグレッグ様を待ちましょう」

 私は努めて優しくヒラリーに話しかけた。

「イルカ!あの女!何様!あーゆうのを悪役令嬢と言うのよ。まったくあれで高笑いでもしていたら、ゲームの悪役令嬢そのものよ。確かに私は我が儘だけど、あそこまで意地悪ではないわ!」

 確かに!ヒラリーは私が思うより自分自身の事が分っているようだ。

 今のところヒラリーの我が儘は私にだけ向いていて、他人に向けることは滅多にない。学校の公爵令嬢にも、グレッグが興味を示さないので、いまのところ安定している。

 それなのに、あのサンドラは初めて会った時からヒラリーを目の敵にしている。

 その為、ヒラリーは悪役令嬢どころか、サンドラのかもにされていつもの調子が出せていない。

「今に見てなさい、どっちが上か教えてあげるから」

 グレッグが絡むとヒラリーの変な闘志に火がつく。

 ヒラリー、虐められてもただでは起きないのはわかったから、あのサンドラに輪をかけたような悪役令嬢だけにはならないで欲しい。ここでの経験が悪い方向に傾いたら、私たちは国外追放まっしぐらになるかも知れないのだから・・・と私は内心ヒヤヒヤもので成り行きを見守っている。


 談話室で待つこと十数分、アルとグレッグが戻って来た。

「『じじー‘ず』が昼から来るらしい」

 部屋に入ってくるなり、アルがゲンナリした顔で言った。

「『じじー‘ず』って何ですの?」

 ヒラリーが顔に?マークを貼り付けて尋ねた。

「僕らのお爺さま達だよ」

 グレッグの声も疲れている。

 来る前から疲れさせるお爺さま達ってどういう感じなのかな。だいたい、『じじー‘ず』なんて呼ばれるくらいだから、お茶目なお爺さまではないのだろうか?

「グレッグの公爵家のお爺さまとサンドラ達伯爵家のお爺さまを差して、俺たちは『じじー‘ず』と呼んでいるんだ」

「どんなお爺さま達なのかしら」

「あってのお楽しみとしか言えないね」

 アルの声にお爺さまに会えるという喜びは感じられない。

「だいたい、あの二人が来ると知っていたら、昨日のうちに帰るのに」

「しかたないよ。例の魔女の話を執事長が二人に知らせたんだから」

「余計なことを・・・」

「殿下に何か有ったら困るからだと思いたい」

 グレッグが思いたいと言うことは、殿下やグレッグを心配して来るのではないと言うことかな。

「あの、『じじー‘ず』が俺たちの心配をするわけがないだろう」

「それはそうだけど・・・」

 やはり、アルもグレッグもお爺さん達が心配して来るとは思っていないらしい。

「いったいどんな方なのです?」

 ヒラリーがグレッグに尋ねた。

「どんなって、二人とも隠居しているのに、あれこれとうるさい人達だよ。説明するより会ってみたら分るよ」

「そうなんですの」

 ヒラリーはグレッグの様子を不思議な面持ちで見ていた。

 二人はお爺さま達があまり好きではないようだ。


 昼一番で着いたのは伯爵家の馬車だった。

 元伯爵が馬車から降りるのを、私たちも迎えに出た。

 シルバーグレーの髪に同じ色の口ひげを生やした、背の高い体格の良い男性だった。目の色はグレッグと同じ鳶色だが、目つきは鋭い感じがした。

 伯爵家の馬車が着いて数分してから、公爵家の馬車も別荘の玄関前に着いた。

 ヒラリーと私は公爵家の馬車から降りてきた人物を見て驚いた。

 なんと!元公爵と元伯爵はそっくりだった。どうやら一卵性の双子のようだ。

 なんでも元公爵の方が元伯爵より数分早く生まれたそうだ。たった数分の違いで、公爵と伯爵になるのはおかしいと、元伯爵が元公爵にいろいろな面で文句をつけているとアルが説明してくれた。

 それでも、子供の頃はどっちが公爵になるかは決まっていなかったらしい。

 元伯爵曰く、元公爵が画策をして有利な爵位を取ったのだそうだ。

 そんなことで、とアルは言っていたけれど、当人達にとってはいろいろあるのだろう。

『じじー‘ず』は何かに付けて波乱を呼びそうである。


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