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波乱の教室

 騎士科の朝は早い。

 制服を着て、食堂に行く。

 エドナがいるかと思ったが、食堂には誰もいなかった。

 どうやら2年生とは時間が違うようだ。

 食堂の係は私の為に、一人分の食事を用意してくれていた。

 朝食を済ませると、アルトと待ち合わせている場所に急いだ。

 待たせないようと思っていたのに、アルトはすでに来ていた。

 申し訳なく感じた私は早々に謝った。

「待たせてごめんなさい」

「大丈夫だよ。僕も今来たところだ」

 グレッグとそっくりだからだろうか、アルトも優しい。同じ従兄弟でもアルとは性格がかなり違うようだ。アルは王子様だから仕方ないのかも知れないが・・・

 アルトは持っていた包みを私に差し出した。

「なに?」

「剣の授業の時に着るようにと預かった」

 開けて見ると、練習用のシャツとズボンが一式入っていた。

「やった!練習用の衣類が欲しかったんだよね」

 スカートで参加するのは抵抗があったので、いつぞやヒラリーが作った忍者装束一式を持ってきていたが、それを使わなくて良いと知りホッとした。

「それは良かった。イルカは練習着を持っていないからと預かったんだ」

「誰から?」

 私の問にアルトは笑って誤魔化した。

 その様子で、性格の違うもう一人の従兄弟から頼まれたと分った。ほんの少しでも優しくないと思って悪かったかなと、心の中で謝っておくことにした。

「ありがとうって、言っておいて」

「ん、それより早く行こう。着替えの時間を考えたら授業に遅れるよ」

 やはりアルトは優しい。

 アルトはすでに練習着を着ていた。

 別の袋に制服を入れているので、授業が終わったら更衣室で着替えると言った。

 明日からは私も練習着を着て参加しようと思った。


 着替えを終え訓練場に入ると、みんなが集まっていた。どうやら私が一番最後だったらしい。

 まだ、先生の姿が見えないからセーフだと思うことにした。

 私はAクラスの人達が集まっているところに行った。

 グレッグが笑顔で「おはよう」と言ってくれたので、私も「おはようございます」と笑顔で返したが、他は私の顔をチラリと見ただけで何も言わなかった。

 二人の王子はそれぞれの側近と話している。

 一人ポツンと離れて立っている子爵子息のクロードの側に行ったが、クロードは、昨日のことがあるからだろうか、私が側にいるのが迷惑そうだ。

 Aクラスには王子様が二人いるからだろうか。どうもやりにくい。

 BとCのクラスは自己紹介をして、仲良くしているように見えるのに、このクラスは何だ?と思ってしまう。

 この国では、上の者から話しかけられない限り、下の者は話しかけてはいけないという習慣がある。だから、平民の私が挨拶したくても、同じクラスの誰にも私からは挨拶できないのだ。無視されるのは良いのだけれど、何も出来ないのは困る。学校の中だけでも、世間の習慣は止めて貰えないだろうか。

 誰も何も言わないので、ただぼんやりと先生が来るのを待つことにした。


 待つこと10分。やっと先生が現れた。

 遅いぞとばかりに睨みつけたが、先生は私などに眼中にないとばかりに、王子達の方を見ていた。

 先生の後ろから重そうな荷物を持った二人が付いてくる。

「おはよう、今日から剣の授業を始める。みんな練習着を着てるな。それでは練習用の剣を配る。各自取りに来るように」

 先生の後ろに付いてきていた二人が、荷物を下ろし床に広げる。

 剣は全部同じ大きさらしい。

「王子達も同じ剣を使ってもらいます。剣は人数分ある。全て同じ物なので喧嘩しないように取ってくれ」

 先生がそう言うと、王子の側近に付いている二人が先に動いて、王子と自分たちの剣を取った。その後にみんなが続いた。

 Cクラスには私と同じように平民の出身者がいるようだ。私は彼等と一緒に剣を貰いに行った。

「全員剣を持ったな!」

 先生の声が響く。

 みんなは受け取ったばかりの剣を振り上げた。

「ではみんなの実力を見たいと思う。王子達を除いて、それぞれ相手を見つけて、打ち合いをして貰う。時間は五分だ!まず相手を探せ、自分より弱いと思う者を探すと有利かも知れないぞ」

 先生の一言で、私の周りに人が集まった。

 女だと思ってなめられているような気がする。

「ほう、女だからと弱いと決めてかかっていてはいけないぞ。彼女はローレイル騎士団所属だから強いぞ」

 と私の周りに集まった生徒を見ながら先生は言った。

 ローレイル騎士団と聞いて、数人の生徒が離れていった。

 ローレイル騎士団は、ローレイル侯爵が王城に勤めていたときに指揮していた騎士団で、侯爵が役目を降りて領地に戻るときに、一緒に領に付いてきた者達のことだ。

 この騎士団が王城に使えていた頃は、他のどの騎士団よりも強い事で有名だったらしい。領地で剣の稽古を騎士団長に教えてもらっているときに、いろいろ昔話を聞いていた。その騎士団所属と紹介されることは、イルカにとっても名誉なことだった。

 結局私の相手はクロードになった。

 グレッグは第一王子の側近のスコートを相手に選んだようだ。アルトはCクラスの人を相手に選んでいる。

「では、五分間打ち合え。俺はその間お前達を見ながら、これからの班を決める」

 これからの班とはどういうことなのだろうか?と考えていたら、クロードの剣が横をかすめた。

 危ない、危ない、私は打ち合いに集中することにした。

 クロードの剣は面白かった。アルやグレッグの剣とは何処かが違った。

 打ち込む剣先を交わしているうちに、何処が違うのか何となく分ってきた。

 クロードの剣には魔法が乗ってるようだ。

 1・2年生は魔法を使ってはいけないと聞いているけれど、クロードは無意識に使っているのだろう。剣に魔法をかけるなんて、ちょっとした才能ではないだろうか。

 打ち込んでくる剣を受け流しながら考える。私は魔法の気配を感じながら、とにかく時間が来るまで受け流そうと思った。

 クロードの剣を全部受け流しているのが良くなかったのだろうか。クロードの顔に焦りが見えた。急にクロードの剣の先に力が増したような気がした。

 私は切り込まれる直前に、危ないと感じて後ろに二メートルほど飛び退いた。

 私がさっきまで立っていた場所は黒く焦げていた。

「はい、そこまで!」

 先生の声が響いた。

 私はホッとして剣を収めた。

 先生は黒く焦げた地面を見ながら、「みんなのだいたいの実力は分った」と言った。

「これから二つの班に分ける。第一班はジョイール王子が率いる班、そして、第二班はフェアルート王子が率いる班だ。今から名前を呼ぶ者は第一班だ」

 次々と名前が呼ばれていく。

 私は呼ばれなかったので、アルの班になった。もちろんグレッグとアルトも一緒だ。

 クロードは一班になった。名前を呼ばれた後で「授業が終わったら教員室に来るように」と言われていた。

 たぶん、さっきの魔法について聞かれるのだろう。

「今回の班は二年間変わらないから、そのつもりでいるように。今日はこれまで」

 先生はそう言って訓練場を去って行った。実質、先生がいたのは15分ほどだった。

 私たちは更衣室に引き上げた。

 着替えを終えると、私は教室に向かった。


 1年A組の教室の前にヒラリーが立っていた。

 私を待っているはずはないと思ったが、一応聞いてみることにした。

「おはようございます。ヒラリー様。私を待っていて下さったのですか?」

「そうよ、私の隣の席がイルカだから待っていたのよ」

 私の席の隣がヒラリー?

 ヒラリーとは番号が相当離れているはずなのに?と思いながら教室に入る。

 黒板に座席表が貼ってあった。

 私の席は左端の前から五番目。番号順で言ったらそうなると思いうが、隣の列は後ろの番号から始まっていた。

 そのため、第一王子の横は聖女候補、第二王子の隣はあの公爵令嬢。公爵令嬢の前は、食堂で見かけた公爵令嬢の取り巻きの令嬢達だった。

 何だか陰謀を感じる。

「陰謀だわ・・・」と、隣でヒラリーが呟いた。

 私の前の席の席は第二王子のアルなのだけど、公爵令嬢を避けて窓の外を見ている。

 うわーっ、めっちゃ機嫌悪そう。

 公爵令嬢が何とか振り向かせようと話しかけても、聞こえないふりをしている。

 第一王子と聖女候補は、王子の方が積極的に話しかけているようだ。

 この席順も二年間替わらないとか先生が言い出したらどうしょう。気が重い。

 横を見ればヒラリーもすごい顔をしている。

 ヒラリーの視線の先には、グレッグが隣の令嬢と楽しそうに話しているではないか。

 グレッグは優しいから、隣の女の子に話しかけられたら、誰かさんみたいに無視することは出来ないのだろう。

 ヒラリーとしては面白く無いようだが、何事も起らないことを願うしかなかった。

 急にアルが後ろを振り向いて、「イルカ」と呼んだ。

 突然だったので驚いた。

 アルは公爵令嬢に背中を向けた格好で私を呼んでいた。

「お前確かイルカという名前だったな」

 ああ、昨日名前を聞いたから知っているというフリなのかな?

「何でしょう殿下?」と、私も話しを合わせて返事をする。

 横で公爵令嬢がものすごい顔で睨んでいるけれど、私は気付かないふりをした。

「今朝の剣の授業だけれど、俺もお前の実力を知りたいから、手合わせできないか」

「殿下にそのように言って頂いて嬉しいのですが、同じ班になりましたので、授業の中で知って頂きたいと思います」

 私はアルの提案をやんわり断った。

 だいたい、隣に顔を向けたくないからと、わざわざ後ろを振り向いて話しかけなくても良いのに・・・

 その時、教室の前扉が開いて先生が二人入って来た。

 眼鏡を掛けたひょろっとした男の先生と、少し年配の女の先生だ。

 まず、教卓の前に立ったのは男の先生だった。

「おはよう。私は今日から二年間、君たちの担任となるサイロです。教科は歴史を教えます。よろしくね」

 先生はゆっくりとした口調でそう言って、教室を見回した。

 どうやら、このクラスの担任のようだ。

「席は、今回は私が決めましたが、次からはくじ引きにしますね。これは殿下も例外ではないのでお願いしますね」

 普通に話すのを1としたら、サイロ先生は1.5倍くらいゆっくりとしている。

「席替えはいつの予定ですか」と、アルが聞いた。

 公爵令嬢には申し訳ないけれど、本当に席を替わって欲しいようだ。

「発言の時は手を上げるようにしてくださいね」

 これまた、ゆっくりとした口調で話す。性格ものんびりしているのかな?王族でも特に態度を変えないようだ。サイロ先生はアルを見た。

「席替えは、一ヶ月毎に行います。特に自己紹介などはしませんので、席替え毎に近くの人と話すようにして下さいね。そうすることでクラス全員を知って貰えたらと思います」

 サイロ先生は、穏やかな顔でみんなを見回した。そして、隣に立っていた女の先生に教卓を譲って「こちらは、クララ先生です。一限目の算数の先生です」と言った。

「初めまして、これから二年間、みなさんに算数を教えるクララです。この学校では、家門を省いて呼ぶようになっています。それは、先生も生徒も同じです。だから、私のことはクララと呼んでください」

 嬉しいことに、クララ先生は標準速の話し方だった。

「では、クララ先生お願いします」と、サイロ先生は教室を出て行った。


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