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王様と聖女と真実の愛

「イルカ」

 突然アルが私を呼んだ。

 横を見ると視線はまだ街の方を向いてる。私を見て声をかけたわけではないようだ。私は返事をすべきか迷った。ここで返事をしないと不自然に思われたので「何でしょう殿下」と答える。

「殿下はよせ。二人の時はアルでいい」

 アルの視線は前を向いたままだ。私を見てはいない。

「では、アル殿。何でしょうか?」

「俺が王子で驚いただろう」

「そうですね。何処かの良いとこの坊ちゃんとは思いましたが、王子殿下とは思いませんでした」

「フッ、同学年に二人も王子がいて賑やかだろう」

 アルは他人事のように話している。

「そうですね」

「知っているか?」

「何を、ですか?」

「この国の王は聖女と結婚するのが習わしになっている」

「そうなのですか?」

「お婆さまもそのまた上のお婆さまも聖女だった。だけど今の王、父上は聖女と結婚できなかった」

「聖女様がいなかったのですか?」

「いや、聖女はいた。だけど結婚できなかった」

 私はアルはいったい何を言いたいのか分らなかった。

「8学年になるまでずっと同じクラスで過ごしていたそうだ」

 聖女がいて同じクラスでずっと学生時代を送っていた?

 少し興味がわいた。

「一緒のクラスにいたのに?聖女様は王族と結婚するのが決まっているのでしょう。どうして結婚しなかったんですか?」

「聖女もいずれは王妃になると知っていた」

 知っていたのにどうして?

 私が黙っていたのでアルは話しを続けた。

「この学園は卒業前に魔族の森に行って下級魔族を倒す卒業試験がある。その時王太子であった父と聖女は一緒にパーティを組んで協力して下級魔族を倒していた。普通はそこで何事もなく試験が終わるはずだった。ところが試験の最中に魔王が現れたらしいらしい」

「魔王が?」私は思わず聞き返した。「魔王は千年くらい現れていないと聞いていますが」

「俺もそう聞いている。でも現れたらしい。卒業試験の最中に現れたから学校側も慌てた。その時父と聖女が試験を受けている事を知っていた王宮でも大騒ぎになった。王太子と聖女を守る為国中の兵士が動員された。そして魔王を退けることに成功した」

 私は教会の孤児院で育ったけれど、そんな話しは聞いたことがなかった。

「それが王様と聖女が結婚しなかった事と何か関係があるのですか?」

「聖女は戦いの最中に消えてしまった。戦いが終わり聖女が行方不明になったと捜していたら、卒業式の前日に戻って来て、真実の愛を見つけたから王太子と結婚できないと言ったそうだ。どうやら動員された兵士の中に運命の相手を見つけたらしい。父は聖女に振られたのだ。聖女が自分の妻になるとずっと思っていたから、かなりショックを受けて、聖女を城に閉じ込めたらしいけれど、いつの間にかいなくなったそうだ。聖女は見張りの付いた王宮から突如と消えてしまったそうだ。王太子は諦めきれず方々を探したけれど、聖女は見つからなかったらしい。

 しかし、王太子は聖女がいなくなったことを嘆いている暇はなかった。聖女がいなくなって、それまでなりを潜めていた貴族達が、自分の娘を妃にしようとその時の王に迫ったらしい。父は聖女でなければ誰でも良いと思ったんだろうな。その時候補になっていた中から公爵令嬢と侯爵令嬢の二人を妃に迎えた」

 なるほど、それで王子が二人生まれたのか。

「そのご令嬢方が第一王子殿下とアル殿のお母様達なのですね」

「どちらも王子を産んだけれど、正妃の椅子は与えなかった。どうしてか分るか?」

 アルはフンと鼻を鳴らした。

「まさか、王様はまだ聖女様を諦めてないのですか?」

「振られた女の子となんかさっさと忘れたら良いものを、うだうだと未だに諦めきれずにいるらしい。今日の入学式で国王はあらぬ方向を見て話しをしていただろう」

「そうですね。後で確認したら王様の見ていたところには、扉と飾り窓しかありませんでした」

「今回の新入生に聖女候補がいるのは知っているよな」

 ヒロインの事を言っているのだ。やはりヒロインは聖女候補なのか。

「父はまだ聖女を諦めていないから、俺たちと同学年に聖女候補がいることが気にくわないらしい」

「気にくわないのですか?」

「まったく、自分が失恋したからと言って、俺たちも聖女とくっつかないように願っているらしい。まあ、俺は聖女なんて興味ないけれどな」

「えっ、王様になりたくないのですか?」

 私はまじまじとアルを見た。アルは相変わらず街の方を見ている。

「俺がグレッグの婚約者を決めたのは知っているな」

 そうだった、グレッグの婚約者はアルの気分次第できまったようなものだ。

「あの時、グレッグの婚約者候補にローレイル侯爵令嬢とコンレイル公爵令嬢がいたんだ」

「そうなのですか」

「俺の見た限り、どちらの令嬢も甘やかされて我が儘にしか見えなかった。グレッグの話を始めに聞いたときは、こんな我が儘令嬢と婚約させられるグレッグは可愛そうだなくらいにしか思わなかった。だから本当はどっちでも良かったんだ。だけど、グレッグがお見合いする少し前に王と大臣達が話しているのを聞いてしまった。聖女候補が本当に聖女であれば、聖女が選んだ方を王太子にすると話していた。俺は王太子にはなりたくないから、聖女に近づかなければいいと安心していたら、聖女が選ばなかった王子はコンレイル公爵令嬢と婚約させてはどうかと言っているではないか。俺はあんな女冗談じゃないと思った。だからグレッグの婚約話を聞いていたので、コンレイル公爵令嬢とグレッグを婚約させようと思っていた」

 なんとそういう裏話があったのか。

「でも、アル殿はヒラリー様を選びましたよ。どうしてですか」

 コンレイル公爵令嬢がグレッグの婚約者になっていたら、ヒラリーの言うところのゲームのシナリオ通りになったはずなのに。

「お前がいたからだ」

 アルが私を見た。

「私ですか?」

「そうだ、俺はお前に興味を持った。もっと近くで観察したいと思ったのだ」

「私を観察するために、グレッグ様の婚約者をヒラリー様にしたのですか?」

「性格はどっちも酷かったからな。本当はコンレイル公爵令嬢にしたかったんだけど、俺がお前に興味を持ったからヒラリーにした」

 ヒラリーの性格を考えるとグレッグが気の毒と思っていたけれど、もう一人の候補者も大して変わらなかったらしい。なんて可愛そうなグレッグ様・・・しかし、ヒラリーはグレッグ推しなのだから大切のするかもしれない。そう考えるとグレッグ様に取ってはヒラリーの方が良かったのかも・・・

「じゃあ、アル殿は王太子になりたくないのであれば、その公爵令嬢と婚約しないといけないんじゃないですか?」

「するわけないだろう。前にお前が言ったように俺たちはまだ若いんだ。まだ先は長い。今決めなくてもいいと考える事にした。だから、本当は王太子になりたいとは思わないけれど、周りには王太子になりたいともなりたくないとも言わないつもりだ。周りが勝手に騒いでいる間に、自分の事は自分で決められるような大人になろうと思っている。あの女だって、聖女になるかどうか分らないし、8年の間に考えれば良いことだ」

 そうだ、私たちはまだ10歳だ。これからいろいろなことを学んで考えも変わる。今決める必要なんてない。

「そうですね」

「少し長くなったな。帰るか」

 アルはそう言って突然屋根から飛び降りた。浮遊魔法でも使っているのだろうか。見ていると難なく地上に降りた。私は地上に降りたアルを目で追っていると、グレッグが近づいて行くのが見えた。

 グレッグが一人でいるということは、ヒラリーと話しは終わったのだろう。私はヒラリーを探した。グレッグが見える範囲にヒラリーが見つからなかったので、アルが降りたのとは反対側を探すことにした。

 いた!私は人影がないのを確認しながら、校舎と校舎が近い場所を選んで降りた。アルの様な魔法は使えないから足場を探しつつ段階的に降りた。そして何気ない振りをしてヒラリーの見えるところに出て行った。

「イルカ!やっと見つけた。何処に行っていたの?」

「何処にも行っていませんよ。そこの木に登っていただけです」私は校舎の横にある高い木を指さした。

「ヒラリー様とグレッグ様がお話をしている間鍛錬をしていました」

 私の言い訳をヒラリーは信じたようだった。

「そうだったの。殿下に気を遣って頂いたからグレッグ様とお話が出来たわ。グレッグ様は常に殿下に付いていなければならないから、二人で話す機会があまり取れないって言ってらしたわ」

「そうですか。そんな忙しい中に時間を取って下さったのですね」

「殿下がしばらく一人になりたいから、ヒラリーの相手をしておけと言われたらしいわ」

「理解ある殿下で良かったですね」

「そうなのよ。でも、グレッグ様は次からは分らないと言ってらしたから・・・あまりお話出来ないかもしれない」

 ヒラリーは少し寂しそうな顔をした。

 二人で寮に向かっていると、ザワザワと人波が食堂の方向に動いて行くのに気付いた。

「もうお昼時なのね。私たちも食堂に行きましょう」

 ヒラリーは寮の入り口ではなく、外からも入れる食堂の入り口に向を変えた。

「そうですね。ところでヒラリー様はお昼も今朝の方々とご一緒されるのですか?」

「ああ、そうだったわ。お昼を一緒に食べて、その後、同じ棟の上級生の方々にご挨拶に伺う予定になっていたわ」

「では、私は一人で食事致しますね」

「イルカも一緒に来れたら良いのに」

 ヒラリーは不服そうな顔をするが、あの人達が簡単に私を仲間に加えるとは思わなかった。授業が始まったら変わるだろうか。

「昼食の後、私は学校の敷地内を少し見て回ります。剣道場の場所も見ておきたいので」

「ああ、イルカは剣の朝授業があったわね」

 私とヒラリーは食堂に入ると昼食のトレイを受け取り、それぞれ別のテーブルに向かった。


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