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入学の日

 入学式の朝、私は待ち合わせ場所の食堂に行った。

 早い時間だというのに、食堂には思ったより多くの人がいた。

 入学式に遅刻しないために、みんな早起きをしたようだ。

 1・2年生だけの2棟4階建ての寮の食堂だけど、1・2年生だけで何人いるのだろう。

 1年のクラスは3クラス。1クラス30人くらいと聞いているから、1年生全員で90人。その半分も女子はいないから40人。

 みんなが集まったらこの位にはなるかと納得した。

 ヒラリーが起きてくるにはまだ早いだろうと、朝食のトレイをもらってテーブルを探していると、奥のテーブルにヒラリーの姿が見えた。

 ヒラリーの周りを数人の女の子が取り巻いている。

 何かあったのかとヒラリーのテーブルに近づいた。

 気配を察したわけでは無いと思うけれど、ヒラリーと目が合った。ヒラリーは何故かホッとした顔で手を振った。そして「イルカ」と呼んだ。

 私はテーブルのみんなを見回して「ヒラリー様、そして皆様、おはようございます」と声をかけた。

「イルカ、この人達は私と同じ1年生よ」

 ヒラリーは嬉しそうにしているけれど、それ以外の令嬢達はあからさまに嫌な顔をしていたので、ああ、ヒラリーと同じ階にいる人達だと思った。ヒラリーの部屋は上位貴族だけの階だから、私の様な平民とは話したくないのかも知れない。

 私はヒラリーに軽く合図をしてトレイを持ってそのテーブルから立ち去った。そして、少し離れたテーブルについた。

 落ち着いて食堂の中を見回すと。ヒラリーのグループともう一つ違うグループが目に付いた。その中心にヒロインが見えたので、同じ1年生のグループのようだ。

 ヒロインは改めて見ると本当に美少女だった。金色の髪に碧い目、聖女と噂されてもおかしくない気もする。

 私はヒロインのいるグループを観察する。

 同じ棟で見かけていないので、多分もう一つの棟なのだろう。

 ヒロインの隣に座っている身分の高そうな女の子がそのグループを仕切っていた。ヒロインはその女の子に話しかけられる度におどおどしているように見えた。

 ヒロインはアレド伯爵家の遠縁の男爵家の出となっているが、ヒラリーのゲームだと平民の出身で、アレド伯爵が後見になっている。ヒロインの周りを囲っているのは皆上位貴族の様に見える。ヒロインが肩身の狭い思いをするのは分る気がした。

 しかし、今みたいに上位貴族に囲まれていたら、これから先ゲームが進んで、ヒラリーが文句を言いたい場面に遭遇しても彼女たちが守ってくれるだろう。だったら、ヒロインは彼女たちに任せて、気にかける事態にはならないだろうと少し安心した。

 一人で朝食を済ませ食堂を出たところでヒラリーに捕まった。

「イルカ、何故一緒のテーブルに着かなかったの?」

 えっ、ヒラリーは気付かなかったのだろうか?

「ヒラリー様以外の方々は、あからさまに私を差別した目で見ていましたよ」

 ヒラリーはそれを聞いて憤慨してくれた。

「そうなの、失礼な人達ね」

「ヒラリー様はどうして彼女たちと?」

「よく解らないんだけど、朝部屋を出たら寄ってきたのよ」

「この棟の1年生では私の身分が一番上だと言っていたわ」

「そうなんですか。では、もう一つのグループの方々は・・・」

「あのグループを仕切っているのは、ゲームではグレッグ様の婚約者になった公爵令嬢よ。私がグレッグ様を取ってしまったものだから、何かと対抗してるんじゃないかしら」

 あのヒロインの隣の女の子が本来ならグレッグ様の婚約者になる予定の人だったのか。

「しかし、そうするとヒロインと一緒のいたのはどうして?」

「しらないわよ。ゲームでは率先してヒロインを虐めていたのに・・・」

「ヒラリー様がグレッグ様と婚約してしまったから、話しが少し変わったのでしょうか?」

「そうかも知れないわね。それより入学式に遅れないように広間に行きましょう」

 この学園には講堂がなく、今日はいくつかある広間の一つに1年生全員が集まるようになっていた。

 広間には可動式の壇があり、壇上は王室関係者以外は登ってはいけないという注意を昨日聞いた。

 1年生はクラス毎に並んだ。個々に生徒番号がありその番号順に並ぶ。生徒番号は王族関係者以外はランダムで、貴族も平民も関係なく決められているらしい。

 私とヒラリーのAクラスはどうやら特別なようで、王子様二人と同じクラスだった。もちろんヒロインも同じクラスだ。

 Aクラスは王族に公爵や侯爵などの主要貴族の子女が集められているようだ。その中に何故私がいるのか理解できない?

 私は入学式が始まるまで広間を観察する事にした。

 1年生の小さな身体には広間はとても広く感じられた。この世界では建物の天井が高く作られているが、この広間の天井はもっと高く感じた。

 上を見上げると天井に細かな模様が描かれているのが見えた。

 ポカンと上を見ていると「何見てるんだ?」と声をかけられた。驚いて声のした方を見ると、目の前にアルがいた。

「えっ!」と驚いてまじまじと顔を見てしまう。

「お前アホ面して何見てるんだと聞いているんだ」

 はぁ~っ!アホづら!?

 思わず殴りたくなったが、アルは王子様だ。それに知らない事になっている。

 私は呼吸を整えると「天井の模様を見てました」とアルの顔をひたと見て言った。

「ほう、あれが見えるのか?」

「目はいい方ですので」と答えると、まわりがザワザワし始めた。

「イルカ、止めろよ。この方を誰だか知っているのか?」

 丁度隣のクラスに並んでいたアルトが、ウインクにしか見えない目配せをしながら私の袖を引っ張った。

 ん?ウインク?

「イルカどうしたの?」

 かなり後ろに並んでいたヒラリーも騒ぎを聞きつけてやって来た。

「ヒラリー」

 グレッグがヒラリーを呼び止める。

「グレッグ様、おはようございます」

 ヒラリーの顔がパアッと明るくなった。ヒラリーは学校に着いてから一度もグレッグと話をしていなかったから嬉しいのはわかる。

「第二王子殿下がイルカに声をかけられたのだ」

 グレッグがヒラリーに分らないよう私にウインク?をした。そして、第二王子殿下と私のさっきのやり取りをヒラリーに教えた。

 またウインク?

 ヒラリーは驚いて、私の頭に手をやると無理矢理頭を下げさせた。

 私も戸惑いながらヒラリーに頭を押されるまま「殿下と気付きませず申しわけございません」とヒラリーと一緒に謝罪の言葉を述べる。

 アルは平に謝る私に「グレッグ、初めて会ったのだから、私を知らないのは仕方の無い事だ」と少し棒読みのまるで用意していたセリフの様に言った。

 この時、私はこれは知り合うきっかけの為のお芝居だと気付いた。

 何も知らないヒラリーは、殿下に許されたと思ってホッとした様子で頭を上げた。そして私の横にいるアルトに目がいった。瞬間ヒラリーは自分の横にいるグレッグを見て、私の横のアルトを見た。

 驚きに目が点になっている。

 そりゃあ驚くだろうな。なんたって目の色以外はそっくりなんだから。

「グレッグ様がお二人?」

 なんたって推しの顔が二つ揃ったのだから、ヒラリーにとっては眼福ではないだろうか。

「ヒラリー様、こちらはグレッグ様の従兄弟のアルト殿ですよ」と私が紹介をしてもヒラリーの表情は変わらない。相当驚いたのだろう。口が開いたままだ。

「ほう、グレッグの従兄弟はよく似ているな」

 お芝居は続いているようだ。第二王子殿下がアルトを初めて見たように言う。

「はい、よく間違われます」

 とグレッグ。

「そうか、ではアルトも私の側近に加えることにしよう」

「本当ですか?ありがとうございます」

 アルトのそのセリフでこの一芝居が終わった様だ。

 何も聞かされていない私たちは良い迷惑でしかない。

 三人は何事もなかったかの様に自分の場所に戻っていった。と思ったら、第二王子殿下は私の前に並んでいた。第二王子殿下の前がグレッグ、後ろが私。この順番はどうなっているんだ?と叫びたくなった。

 後で知った事だが、両殿下の前と後ろを警護できる生徒で固めたらしい。

 なので、A組の順番は生徒番号順ではなく、第一王子付のスコート、第一王子のジョイール、第二王子付きのグレッグ、第二王子フェアルート、そして私となっていた。

 生徒番号順でいけば、1番は第一王子、2番は第二王子になっている。ちなみに3番はグレッグ、4番はスコートで私は5番だった。やはり番号の基準が分らない??

 式典前の顔合わせの一芝居も終り、国王陛下のお出ましになるファンファーレが鳴り響いたので、私たちは壇上に目を向けた。

 国王陛下が壇上に現れた。

 1年生全員を見回して挨拶を始める。

 私は前が背の高いスコートなのでその隙間から国王陛下の顔を見た。

 髪は第一王子と同じ淡い金色。目は第二王子のアルと同じ藍色をしていた。

 顔立ちはどちらの王子とも似ていなかった。

 国王陛下は全体を見回した後、ある一点を見つめて話しをしていた。

 何処を見ているのか気になったが、顔を後ろに動かすわけにはいかないので、この列の最後尾近くに並んでいるヒラリーに後で聞く事にした。

 国王陛下の次は学校長の挨拶があった。

 その後は、各教室の担当教師の紹介があった。

 教師紹介の時、私の順番が前にある原因が分った。

 単純に剣を振れる者だからであるらしい。各クラスの前から順に剣を使える者を並べているといっていた。後は本当にランダムらしい。

 剣を使える者は、Aクラスは6人、BクラスCクラスに5人ずつ。1学年で16人が選ばれていた。ちなみに女子は私一人だけだった。

 何故に私がと思ったが、この学園に入学出来る条件に剣が使える者または魔法が使える者となっているらしい。私は魔法が使えないので、剣で入学した事になっている。

 今、魔法が使えなくても、二年後の3年生に上がるときに魔法の検査があって、その時に魔法が使えたら魔法クラスに編入される事もあると聞いた。

 とりあえず二年間は一般授業とは別に剣の授業を受ける事になっていた。

 入学式は来賓の挨拶を聞いて終わった。

 明日からは授業が始まる。

 剣のクラスは一般授業の前に始まると申し伝えが有った。

 翌日の授業の確認をアルトとして、剣の合同練習場にいく渡り廊下のところで待ち合わせる事にした。

 私はヒラリーと一緒に広間を出た。

「イルカは明日朝から剣の授業が始まるのね」

「そうみたいです」

「いいな、私も剣を習っていれば良かった」

 ヒラリーは剣の授業でグレッグと私が会える事が悔しそうだ。

「他の授業では毎日会えるじゃないですか」

「それはそうだけど・・・」

「なるべく近い席になると良いですね」

「イルカも私がグレッグ様の席の隣になるよう願っていてくれる」

 私は「はい」と頷いた。

「ヒラリー様の為に、神様にお願いします」

 恋する乙女のヒラリーは協力者がいる事に満足したようだ。

「ありがと、入学式も終わったし、教室に行ってみましょう」

 私たちは話しをしながら教室に向かった。

 教室は広間を中心に三方に別れていて、北側が1・2・3年生。南側が4・5・6年生。東側が7・8年生になっていた。

 一年のクラスは女子寮のある西側の棟の二階にあった。

 教室の扉を開けると、私たちと同じように教室を見に来ていた人達に遭遇した。その中に王子達の姿もあった。

 今朝食堂で会ったヒロイン達のグループが王子達を囲んでいた。

 その中に入って行くのは難しそうに見えた。

 私はぼんやりと、ヒラリーは拳をわなわな震わせてそのグループを見ていると、気配を感じたのかグレッグがヒラリーに気付いた。

 囲みの中から第2王子と一緒に抜け出て来た。

「ヒラリー」

「グレッグ様」

「お前はイルカと言ったか」と第2王子のアルが私に声をかけてきたので「はい、フェアルート王子殿下」とわざとらしく答えた。

「女だてらに剣の授業を取っているのだな」

 あんたが指示したんでしょ!と言ってやりたいが、「はい、明日の授業からご一緒いたしますので、よろしくお願い致します」とバカ丁寧に返してやった。

 アルはニヤリと笑うと「手合わせを楽しみにしている」と言った。

 私とアルが掛け合いをしている間、ヒラリーはグレッグと何やら話しをしている。二人を見てアルは「グレッグ、婚約者と久しぶりに会って嬉しいのは分るが、そろそろ帰るぞ」と教室を出て行った。

 出て行く間際に私の肩をチョンと小突いたので、用事でもあるのかと思い、私も「ヒラリー様、私たちも寮に戻りましょう」とヒラリーの手を引いて教室を出た。

 教室を出て少し行った所でグレッグが待っていた。

「殿下がヒラリーと会う時間を取ってくださったので、ヒラリー少しその辺を散歩しないか」

 グレッグがヒラリーに話しかけながら私に先に行けと手を振る。

 お邪魔しましたと軽く笑って私は二人から離れた。

 廊下の角を曲がった階段のところにアルがいた。

「優しい王子様ですね」と笑って言う。

「俺がお前と話したかったんだ」

「まあ、そういうことにしておきます」

 私とアルは階段を上り校舎の最上階から屋根に出た。

 この学校は街より高台に建っているらしい。

 屋根の上から川の向こう側の街の広がりがよく見えた。

 アルは一言も喋らずに街を見ていた。

 私も黙って街を見ていた。


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