九十八話 再生
「良いから早く」
そこまで言ったところで、レティの頭が消えて、倒れ込んだ。
「え?」
理解が追い付かない。
レティとさっきの男と同じようなのがもう一人現れた。
そして、アタシたちに気が付いたレティが声をかけてきたと思ったら、頭が消えていた。
首から上が綺麗になくなっている。
体は何も言わない。
ただ転がっている。
「バカ! 真咲! 隠れて!」
状況が理解が、目に入っただけで分からない。
呆然としているアタシを家の影まで引っ張っていって、座らされた。
そして、パンッと両頬に強い衝撃がして、ようやく目の前にいたゆりなと目が合った。
「どうしよう、レティが、どうしよう、ゆりな」
「……落ち着きなさい」
ゆりなの言葉も震えていた。
レティがやられる。
それは私たちを動揺させるには十分な素材だ。
「確認する。レティシアは魔族。頭や心臓をただ無くしただけじゃ死なない。いいね?」
「あ、うん、レティが言ってた! 魔族や魔物は魔石を体外や砕かれたりしない限り死なないって」
「だから、レティシアは死んでない」
ゆりなが言葉をそこで切った瞬間、隠れていた家屋の壁が消えた。
「真咲、あんたの力は相性が悪すぎる。私が目をくらませるから、レティシアを回収して」
「ど、どうやって?」
「どうやってもいい。引きずってでも拾ってきなさい」
「わかった、やる」
レティをどうにかしないと状況は悪くなると思う。
今回のことの総指揮はレティなのだから。
「合図は三二一で」
アタシは頷いて答えた。
「三」
頭を出して、外を覗く。
敵の位置を確認する。
「二」
ゆっくりとこちらに向かってきている。
レティが動いてないから気にしてないような動きだ。
「一」
息を呑む。
「行くよ!」
先にゆりなが飛び出して、私はその陰を進む。
「あの男の周囲を砂埃で囲め!」
ゆりなが叫べば、男の周りで砂埃が舞い、渦になって囲んだ。
今ならいける。
そう確信して全速力でレティの元に向かった。
「クソ、何だよ、私の神様からの授かりものまで消せるのかよ!」
その声が聞こえてちらりと見れば、渦になっていた砂埃がどんどん消滅していっている。
「あの男を土壁で囲め!」
小さな揺れと共に勢いよく土壁が盛り上がる。
そして、男の周りを囲む。
よし、レティの元に辿り着いた。
頭はなく、両手もない。
それにお腹から胸にかけても現在再生中で、服もボロボロになっていて血が大量についている。
こんな人間なら死んでる怪我で生きているのが不思議でならない。
「早く! 真咲!」
さっきから何度も土壁を出して、邪魔してくれているゆりなが叫んでいる。
アタシとも相性が悪くて、ゆりなとも相性が悪いとか最悪の相手だ。
レティを背負う。
とても軽い。
子供よりも体重がないんじゃないかってぐらいの軽さだ。
ゆりなのところに走るが、ゆりなは逃げない。
「もっと違う建物に逃げろ! そこはもうダメっぽいし!」
「分かった! ゆりなも早く!」
「もう一回足止めしたら行くから、早く!」
ゆりなに言われて、そこから二件ほど離れたところにある家屋の影に隠れる。
頭だけ出して確認したところ、ゆりなも来ているのが見えていたし大丈夫だろう。
レティを土の上に下ろして、状態を見るが、頭の再生がまだ始まっていない。
「……大丈夫なのかな」
「そうじゃないと困るのは私たちよ」
ゆりなが来て、レティの傍らに座る。
「どう?」
「動き自体は亀みたいなものだけど、攻撃が厄介。私よりもチートな攻撃があるなんて思ってもなかった」
あまり声を上げないように二人で寄り添おうとしたが、壁にもたれかかるのは気が引けた。
今さっき隠れていた場所で壁が消えたばかりだから。
壁から離れて、身を低くする。
自然と声のボリュームが下がった。
「攻撃が厄介。私が言葉を言う前に出してくる。それにあの消えるの一個だけじゃなくて、何個も出せるみたいだけど、見えないから分からない」
「アタシの目で見えるかな」
「私はあんたの目じゃないから分からないけど、生きてない攻撃って見えるの?」
「……一か八か賭けちゃう?」
「分が悪い。私は百パーセント勝てる賭けしかやらない主義」
遠くで何かが壊れる音がした。
思わず頭を押さえて、丸くしてしまう。
「大丈夫かな」
「屋敷に行かれたら問題かも」
レティ、早く起きてと祈るように見れば、手は元に戻ってないし、お腹もまだグロテスクな傷口になっているのに、顔が再生され始めていた。
「ゆりな」
「うん、見てる」
不思議な光景だ。
どんどん顔が出来ていく。
「時間稼ぎに戦った方がいい?」
「無理。壁が無理だったから、きっとあんたの力だって飲まれる。隠れていた方がまだ時間を稼げる」
ゆりなの言う事は尤もだ。
それでも何かしたいという思いは出てきてしまう。
「それに出て行かないのも勇気がいる。私たちしかいないから、私たちがレティを守らないといけないんだから」
確かにそうだ。
人を殺してしまったせいなのか分からないが、気が高まっているかもしれない。
落ち着かないといけない。
レティの顔は大体再生し終わってきて、一安心。顔が終わり、髪まで再生されて行ってるけど、ショートヘア位の長さで再生が止まった。
レティがゆっくりと目を開けた。
「状況はどうなってるのかしら?」
少しだけ枯れたような声でレティが言葉を発した。
「レティシアが連れてきた奴から隠れてるところ。私たちの神様からの授かりものでも全部消えてなくなってる」
「そう、ユリナでも無理な相手ね」
確認のようにレティが呟く。
そして、大きな破裂音が空に響き、赤い煙が風に揺られてこちらの空に流れてきた。
あれはレティとジェシカが決めていた、屋敷が危なくなった時に出す合図だ。
「屋敷が危ないわ。二人とも屋敷に行きなさい」
「え、ちょ、レティ一人で無理だよ! そんな体じゃあ」
「大丈夫よ、考えあってのことだから」
いつものように自信ありげな笑みを浮かべるが、顔が青いせいで無理しているようにしか見えない。
「マサキ、私をあの死体のところまで影で渡せる?」
レティが指差したのは、ユリナが首を捩じ切った死体の一人だ。
「渡せるよ」
「それじゃあ、渡した後、すぐに屋敷に向かいなさい」
「いや、その怪我のレティシア一人にしていくのは……」
「平気だから、安心しなさい。あの力を屋敷まで持っていかれたら、全部失うことになるのは分かるわよね? 大丈夫よ、私がここできっちり殺して、向かうから」
アタシとゆりながこれ以上言っても、話は平行線で進展なさそうだと諦める。
「分かってくれて嬉しいわ」
本当は辛いだろうに、それでも微笑んでくる。
「ユリナ、屋敷にはすぐいけそうかしら?」
「試したいこともある。成功したらきっと一瞬でいける」
「ダメだったらどうするのかしら?」
「ダッシュで向かう」
嫌なことが聞こえた。
お願いします。
どうか成功してください。何か分からないけど。
「それじゃあ、マサキ。そろそろ送ってちょうだい。近づいてきてるわ」
「分かった」
答えると同時にレティの体が影に沈んでいく。
「従者たちの戦いももう決着はつくわ。そうしたら反撃開始よ」
レティが勢いよく影の中に飛び込んだ。
きっとこれで大丈夫だ。
後はアタシたちが屋敷に向かうだけだ。
「それでゆりな、どうやって向かうの?」
「空間を移動できるならやっぱりワープでしょ」
言われてみれば、そうなのだが、それをどうやってやるのかが問題だ。
「それって、なんか空間の力っぽくて、ゆりなのとは違うくない?」
「私のだって一応空間を操作している。だから使えるって解釈してる」
どういう理屈なのか分からないが、私たちにとってやれるという自信は大きい。
それだけあれば、他の理屈は退けてしまってもいいぐらいには。
「真咲、捕まってて」
「うん、わかった」
ゆりなに抱き着く。
これだけ近ければ問題ないだろう。
「私たちを屋敷に運べ!」
ゆりなが言葉を発したら、視界が下から消えていく。
そして、上から新たな視界が広がり、見えた場所は屋敷とモーリッツさんとジェシカが傷を負いながらも護っている姿だった。
活動報告にも載せましたが、26話と27話は大幅な改稿を行いました
よろしくお願いします
謝辞
いつも読んでいただきありがとうございます。
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これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします




