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九十七話 消滅

 そこにはボロ布を纏い、スキンヘッドにされた男が立っていた。

 顔つきはアジア系。

 見たことない顔だから知り合いではないと思うのだが、


「ゆりな、見たことある?」

「ない」


 簡潔な言葉を話した後に、目を合わせてどうするか考える。

 ま、やることは決まってる。


「そこで止まって!」

「今すぐに止まりなさい。止まらないなら力づくで止めるから!」


 止まってくれたらいい。

 けど、止まらないのであれば、きっとあれも敵なんだ。

 もう人殺しなんてしたくない。

 けど、やらないと、アタシも戦えるんだって見せないと、ゆりな一人で無茶しちゃう。

 男の人は止まったが、地面に手を付いて。

 不思議な行動を見てると、アタシたちの目の前の地面がうごめく。

 そして、巨大な棘となってアタシたちを襲ってきた。


「大丈夫!」


 盾を展開して受けきる。

 アタシの盾は無敵だ。

 ガレオンさんや、レティの攻撃を物ともしなかったのだから。

 分かっていたことだけど、棘は盾に当たると砕ける。


「どう、ゆりな。私、強いっしょ」


 ゆりなに向くと、ゆりなはまだ盾を見つめたまま固まっている。

 何がどうしたんだろう。

 もう怖い物なんてないのに。


「ねぇ、どした」

「伏せて!」


 声を出す暇もない。

 伏せてと同時に足にゆりなが剣の鞘で足を引っ掛けて引っ張るものだから、思いっきり転ぶ羽目になったが、転ぶと同時に頭の上を何が通過していく感じがした。


「いたっ」


 顔から無事に着地して、地面とキスをしてしまった。


「もう酷いよ」


 顔を擦りながら上げると、アタシの盾から棘が生えていて、さっきまでアタシの頭のあったところよりはるかに遠くまで伸びていた。


「文句の前に感謝を言われたいんだけどね」


 ゆりなは不満そうな顔をしているが、アタシだって痛い思いしたんだもん文句も言いたいよ。

 てか、頭さっきあれめっちゃ掠めて行ったけど、アタシの頭大丈夫なのかな。


「ね、ね、ゆりな、アタシの頭大丈夫? 髪とかなんか変になってない?」

「髪の毛は切れて飛んでたかも」

「ええ、大丈夫なの、それ!」

「さぁ、知らない。自分で確認したら?」

「こんなところで出来ないじゃん」


 ゆりなが目の前の相手に向く。


「そうね、屋敷の鏡で確認しないと」


 アタシも立ち上がって、鎖を出す。


「うん、そうだね。ねぇ、ゆりな、アタシの盾役に立たないけど、大丈夫?」


 そう聞くと、ゆりながハッと鼻で笑う。


「私の神様からの授かりもの(ギフト)は最強よ」


 相手が動きを見せた、その時、


「ボロ布を纏った男の首を捩じ切れ!」


 ゆりなが叫んだ瞬間、男の首があらぬ方を向いたと思ったら、勢いよく回り始める。

 そして、いつしか限界を迎えて、首が落ちる。


「ね、最強でしょ?」


 ゆりながそう言って笑みを浮かべるが、どこか悲しそうに見えた。


「ねぇ――――」

「貴方たち、早く屋敷に行きなさい!」


 ▼


 従者たちが頑張ってくれている。

 ならば、私も頑張らないといけない。

 領への帰路を急いでいると、ボロ布を纏った不審な男二人が見えて、思わず歩みを緩めてしまった。


「あなたたち、見たことない顔だけど――――」


 そこまで言って、こちらを向けた二人の顔。

 頭の継ぎ接ぎに私たちとは違う顔立ち。

 そして、一人は側頭部に付けられた魔物の目。

 声をかけるのではなかったと後悔した時には遅く、後退しようとした時には右腕が消滅していた。


「っ!」


 痛みはない。

 突然消えていた。

 何が起こったのか理解できないが、突然消えた。

 一人の男は先に進んで、もう一人は私に目を合わせていた。

 肘から先を無くした腕は血が溢れてくる。

 手は再生するからいい。

 けど、どうして消えたのかが分からない以上手が出せない。

 姿勢を低くして、左手を地面にめり込ませる。

 そして、思いっきり土を投げ飛ばした。

 どうするのかしら。

 そう思って観察していると、最初は小さな球体だったものが、一瞬に近いスピードで、継ぎ接ぎの男程度の大きさまで膨れ上がり、土を消滅させてしまった。

 なるほど、理解はした。

 しかし、目に見えない感じが厄介だ。

 どうすると思考を巡らせようとしたところで、腹部が消える感覚に襲われて、飛びのく。

 ちょっと削れてしまった。

 ドレスは前半分が消えて、胸がはだけてしまっているし、表皮まで消えてしまっているので、なかなか人が見たら卒倒しそうな光景になっている。

 とりあえず、動き回った方がいいかもしれない。

 止まっていてはただの的だ。

 背中から翼を出して、跳躍力といざとなった時の目隠しを得る。

 村の方にこの継ぎ接ぎの男は行かせたくないのだが、抑える手段がない。

 ずっと相手から位置を変えて、攻撃の手段を狙っているのだが、側頭部についている魔物のせいで死角がない。

 後ろまでカバーさせているのには困る。

 後は私に血が足りてないせいで、この継ぎ接ぎの男の魔物の目に追いつくほどの移動速度しか出せないところにある。

 今も攻撃のために動き回っているが、しっかりと魔物の目は私の姿を追って、消滅する球体をどんどんこちらに向けて撃ってきている。

 こちらからは見えないし、本来の力は出せない、攻撃方向が読めないと三重苦を背負っての相手だ。

 血については敵から回収するつもりであった。

 しかし、従者たちの戦場にいる敵から集めた際、問題がありそうだったからやめておいた。

 いや、怖くて逃げた。

 自分の吸血衝動がどれほどのものになっているのか理解していない。

 もしかしたら、あの場にいる全員から血を吸いつくそうとするほどの衝動に襲われた場合、私にそれを抑えておく心の強さがあるのかどうかで言えば、ない。

 純血であるせいで、吸血量が非常に多く、破壊と吸血衝動は私を狂わしかねない。

 翼が削られて、左肩もえぐられて、皮一枚で繋がっている。

 右手は再生したが、代償も大きい。

 血を流し過ぎた。

 動きは鈍り、精彩を欠く。

 逃げるようにしか戦うことが出来ない。

 村に勧めてはいけないと思いながらも、相手を確実に歩ませてしまう。

 血が欲しい。

 普段は感じなかった飢餓による吸血衝動。

 抑えながら相手するには負担が大き過ぎる。


「ぐっ!」


 左手を支えていた、右手。

 両腕が消滅の球体に巻き込まれて消えてしまう。

 不味い。

 攻撃の手段はあるが、確実性は消える。

 下がるしかない。

 しかし、下がってどうするという葛藤に挟まれる。

 ここで退けば村の中に入ってしまう。


「はぁー……はぁー……はぁー……」


 さっきから来ている、失血による吸血衝動。

 血の匂いはここまでしてきている。

 誰かが村の中で人を殺したんだ。

 匂っている。

 そのせいで、吸いたくて吸いたくてしょうがなくなる。

 再生速度も遅い。

 血が潤沢にある時は、一瞬で再生することも可能なのに。

 泣き言を言っている自分が情けなくなってしまう。

 どれだけ動いたのかも分からない。

 多くの血を失い、攻撃の機会をうかがうだけで何もすることが出来ず、一方的に嬲られるだけ。

 翼はどちらもボロボロで、皮膜は破られていたり、半ばまで破られている。

 腕はまだ再生しきれていない。

 腹部は治ったが、ドレスはもうボロボロで土だらけだ。

 もう着ることも出来ないだろう。

 後ろに大きく後退すると、もう村の入り口だった。

 結局ここまで下げらされてしまった。

 消滅の力は神様からの授かりもの(ギフト)で間違いない。

 それに他にも帝国が改造を行っている。

 その改造もきっとまた神様からの授かりもの(ギフト)によってもたらされたものなのだろう。

 そういうところにばかり知恵が回って嫌になる。

 後ろを見れば、マサキとユリナが何か言っていた。

 何で、あの子たちが。

 いや、私がこの場を頼んだんだ。


「貴方たち、早く屋敷に行きなさい!」


 叫べば、マサキとユリナが驚いた顔をしてこっちを向いた。


「レティ、どうしたの! その怪我! 一体」

「良いから早く」


 そこで私の意識が飛んだ。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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