九十五話 炎と氷を操る者
アルフレッドのおっさんもお人形ちゃんも張り切って行ってしまった。
俺も精々楽しませてもらう事にしよう。
目の前の相手は男だと思うが、貧相な体つきだ。
頭は継ぎ接ぎになってるし。
帝国って奴はろくでもない奴らなんだな。
そう思いながら、ゆっくりと歩いてそいつに近づく。
ふらふらとしてるし、大丈夫なのか?
「おい」
声をかけてみるが目はどこかに向いているのか全く反応らしい反応はない。
外れだったか。
雑魚ばっかで飽き飽きしてたところだったのに、全く残念でならない。
まぁいいや、さっさとやってどっちかの方に向かえば。
手のひらに炎を宿す。
これを防げないなら、即死だろう。
相手に向かって投げつけた。
ふらふらとしていたわりに、こちらの攻撃に対しての反応は良かった。
すぐに目の前に飛んできた炎に対して手を伸ばす。
どうやって防ぐのかと笑みを浮かべて、見ていると、そいつの手が炎が触れるか触れないかのところで急にこちらのコントロールが奪われた。
炎はそいつの体を一周回った後に、こちらに返ってきた。
その程度の火力であれば問題はない。
返ってきた炎は拳で打ち払う。
「いいもん持ってんじゃねぇかよ」
雑魚かと思ったがそうでもない。
実力はどれほどか分からないが、少しばかり楽しめそうだ。
地面を強く踏んで、手を払う。
空中地面から氷柱が生え、先端は相手の方に向けられる。
「お前の実力、見せてみろよ、なぁ!」
一斉に放ってもいいが、それだと相手が死にかねない。
折角の面白そうな相手だ。
こんなところで殺してしまうのは惜しい。
好敵手にはなりえないが、久方振りのおもちゃに出会たんだ。
これぐらい遊んでも構わないだろう。
氷柱は順番に相手の方に向かって飛ばしているが、両手で防がれている。
コントロールを奪った氷柱を飛んできている氷柱にぶつけて、砕かれての相殺。
なかなかやるなと楽しくなってきた。
コントロールを奪うのが失敗したら、そのまま体を貫いて死ぬほどの大きさと速度にしているのに死を恐れていない。
いや、無表情で処理をしているのも、感情というものが消し去れているのかもしれない。
頭の継ぎ接ぎが怪しい。
頭の中を弄るとそういうことが出来るのだろうか。
よく分からん。
そういうのはお嬢とかが得意な分野だ。
俺の役割ではない。
俺の役割は単純な暴力。
それでいい。
だから、相手にはこれぐらいで死んでもらっていては困る。
「他にもなんかやれんだろ? ほら、出し惜しみしないで見せてみろよ」
さらに氷柱を追加してやるが、それ以上のことを見せてはくれない。
ただこちらの炎や氷のコントロールを奪うだけであれば、殺しようは無数に存在する。
見たことのない力だが、さほどの脅威ではない。
これなら、お嬢のお気に入りの二人の方がよほど面白い神様からの授かりものを持っている。
特にマサキの方だ。
あいつは神様からの授かりものに神造兵装、それらの組み合わせでやれる幅が広い。
弱点もあるが、普通の相手であれば弱点になりえないのが強い点ではある。
ユリナの方はやれる幅がとにかく広い。
言葉さえ発せられれば、どんな相手でも殺せる。
必殺な力であるが、それを悠長にさせてくれる相手であるかが重要だ。
もちろん、俺らみたいな相手なら無理だ。
それが出来る相手であれば、蹂躙できるだろう。
ただ、二人ともまだ自力が低い。
能力はあっても自力が低いせいで、力を全く生かせていない。
早くアンナに鍛えてもらって、強くなって戦いたいものだ。
氷柱を飛ばすのをやめて、相手の出方を伺う。
さて、どうするんだと思っていると、相手がこちらに向かって手を払った。
強い風が吹き、手を顔の前に置く。
すると、手が切れて、血が滲むように出てきた。
感心した。
どういう原理か全く理解できないが、風とかそういうものを飛ばしてきたんだ。
ただ、こちらの物をコントロールを奪うだけじゃない。
何かしらをコントロールするというのがこいつの神様からの授かりものなのかもしれない。
解析はいい。
そういう力があるという事だけが、分かれば。
地面に手を付けば、二重螺旋が先端を尖らせてこちらに向かってくる。
「ほら、どうした! もっと本気を出せよ!」
脆い。
少し力を入れるだけで砕けてしまった。
こんなのをいくら壊したところで満足できない。
こちらから振りかぶる様に炎と氷をそれぞれ投げてやれば、当然のように奪われる。
返されてもそれは問題はない。
今度は相手の真下から氷柱を出現させる。
逃げられる大きさではない。
さて、どうする。
相手は逃げなかった。
生えてきた氷柱が体に触れたところで、突然形を変えた。
氷柱が椅子の形状に変わって、相手が座った。
手が触れなきゃダメなんじゃないのか。
いや、この場合は能力が成長したという方が正しいのだろうか。
それとも解釈が広がったか。
うちの二人もやっていることだ。
その二人はお嬢の言葉もあって、能力の開発と想像力を鍛えることに余念がない。
おかげで盾にしか使えてなかった力も攻撃に転嫁しようとしている。
こういうのはいい。
どんどん成長してくれ。
俺が殺してしまう前に。
気が付けば周りで戦う音が聞こえない。
二人とも決着を決めたか、そろそろ決着なのだろう。
そうしたら、逆にこちらに来てしまうか。
楽しい時間も終わりだ。
こいつの殺し方は決まっている。
基礎が魔族だったら死ぬことはないだろうが、人間であることが悪い。
「ちょっとは楽しめたが、それ止まりだな」
相手の周りを炎で包む。
炎の温度を少しずつ上げていく。
人間であれば、熱で死ぬ。
空気がなくても死ぬ。
どこまで耐えれるか知らないが、いずれは死ぬ。
中で相手が炎の壁に触れようと動くが無駄だ。
炎のドームを動かすのは造作もない。
いつまでも触れられない炎を追いかけて、相手は動く。
そう、コントロールを奪わないと相手は死ぬ。
赤い炎に包まれた相手は徐々に全身から汗を噴き出した。
汗の量はどんどん増えていく。
それに比例して相手の動きは鈍っていく。
どんどん追いかけるスピードも遅くなっていく。
もう限界だろう。
炎の色が黄色に変わる。
温度が上がり、もう相手も立っていられない。
倒れてしまって痙攣を繰り返している。
いくら力があっても意識がないなら、使い様がないだろう。
炎の範囲を絞る。
近づければ、どんどんと皮膚を焼く。
皮膚が焼けているのに反応がない。
焼け死ぬ前に死ねたのなら、生きながらにして焼けるよりはマシなのかもしれないな。
俺には分からんが。
そして、炎が相手を包む。
どれだけ焼いたか分からないが、飽きてきたのでそろそろ良いか。
ゆっくりと炎が消えていく。
残ったのは脆くなった骨だけだ。
さて、こっちは終わったし、合流するかと思っていると、二人がこちらに近寄ってきた。
「ちゃんとやってきたんだろうな?」
「ええ、もちろん」
「筋肉頭、あなたは?」
「そこに転がってるだろ」
落ちている人骨を指差す。
「食べたんですか? 相変わらず雑食ですね」
「食うわけねぇだろ。お前じゃあるまいし」
「私は食べません。拾い食いなんて卑しいこと」
「拾い食いじゃねーよ」
「さて、二人ともレティシアお嬢様の元に向かいましょうか」
アルフレッドのおっさんに言われて、氷の壁を解けば、遠く離れた場所に鎧を脱いだアンナが立っていた。
謝辞
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