九十二話 蹂躙される者
神様からの授かりもの。
その力どれぐらいの物なのか理解していない。
それよりもこの世界はあまりにも理の外側の力に溢れているように思える。
神造兵装に勇者の武器。
神造兵装は神の力の模造品。
勇者の武器は神の武器。
だったら、神様からの授かりものとは一体何なのだ。
神様からの授かりものっていうぐらいだから、きっとそれは神の力とか、それに近しいものではないのか。
ランクとかそういうものがあるとすれば、模造品に過ぎない神造兵装なんて目じゃないのでは、と。
私には真咲のように神造兵装で器用なことは出来ない。
今みたいに神造兵装と神様からの授かりものを組み合わせて使う事も出来ない。
ただ、私には世界に強制できる。
私の言葉は真咲の神様からの授かりものを無視して、殺せる。
そして、私の世界への強制力は、模造品なんて目じゃない力だと証明してやる。
「この領で、姿を隠している者たちを暴け!」
上手くいくとは思っていない。
けど、いつか真咲も言っていた。
私たちの力は想像力次第で可能性は無限大だ。
信じればきっと出来るはず。
いや、出来るからやるんだ。
一陣の風が駆け巡る。
そこにはさっきまで姿が見えなかった二十名ほどの者がいて、布のようなものを被っていた。
出来た。
出来たんだ。
小躍りしそうな体を抑え込む。
そしてこれから私は手を汚す。
もう覚悟は決まっている。
真咲が決めたんだ。
年上の私がいつまでもうじうじしてるなんてありえない。
ごめん、レティシア。
「あの布を被っている者たちの首を捩じ切れ」
そう世界に命令すると、布を被っている者たちの首が一斉にあらぬ方向を向きだす。
絶命するまで数秒とかからなかった。
布のおかげでどんな顔をしているのかこちらには見えないのが幸いなことだが。
「手、汚しちゃったね」
「そうね」
「日本だったらアタシたち捕まっちゃうね」
「そうね」
生きている人の気配は他にない。
ここには私たちしかいない。
「頭痛は大丈夫?」
「あーうん、もう閉じたし大丈夫」
「それならいいけど」
真咲は手のかかる子だ。
いい子が過ぎる。
自分のことへの優先度がとにかく低い。
どうしたらそんな人格形成されるのか、気になるところだ。
「ずっと気になってたんだけどさ」
「何?」
「ゆりな、この目の文字読むときリッパーって言ってたけど、よくよく考えてみたらさ」
「あってる」
「えー? けど」
「あってるから!」
後になって間違いには気が付いていた。
あの時は意固地になってとりあえず、分からないだろうと思ってそれっぽくいってみて、押し通そうと必死だった。
真咲と違って大学まで行っていて、勉強の成績も良かった。
だから、出来ないと思われたくなってそれっぽくいってしまった感は拭えなかった。
どうしてそんな意固地になっていたのかと言えば、きっと肉体の年齢に精神年齢が引っ張られていた。
これに間違いないはず。
それで押し通す。
「ま、カッコいい名前もらえたしいいんだけど」
そう言って、真咲が鎖を巻き始めると離れたところでザっと砂を踏む音が、私たちは振り向いた。
▼
一体戦場で何が起きている。
全く理解が追い付かない。
この戦い、最初から乗り気でなかったのは認めよう。
副団長のフェディルも私が乗り気でないことを分かってくれているし、フェディル自身も今回のこの侵攻に納得していない部分があるらしい。
おそらくだが、こうした王国領の小さな村を襲うことが納得できていなかった。
戦う力もない、ただ殺される人たち。
無抵抗な人間に剣を振るうなど、騎士としてあるべき姿なのかと考えてしまう。
ただ、やらねばならぬ仕事だ。
ここで逃げ出せばそれこそ敵前逃亡だと背中を撃たれることになる。
ずっとこの仕事が決まってからは、私は嫌だった。
胸騒ぎが止まらない。
そのような感じで。
当たらなければいいと思っていた。
けど、実際はどうだ。
最悪の形で実現した。
「相手は一人だ! 周りの光は幻影だ! 怯むな、数で抑えこめ!」
フェディルが部下に檄を飛ばしながら、抑え込もうとしているが、全く歯が立たない。
今回全体の指揮を執っているのは、第四騎士団の団長であるアラガルド・リール・ラギアだが今この場にいない。
奴らは百人ほど連れて、村の方に行ってしまった。
だから、今この場で指揮を執っているのは第四騎士団三番隊隊長なのだが、その姿を見ることは叶わない。
なぜなら、作戦開始と共に巨大な氷壁によって私たちの団と第四騎士団は完全に分断されてしまったからだ。
どこかに切れ目があるのかと部下に馬を走らせてみたものの、どこにも抜け道を見つけることが出来なかった。
団は混乱を通り越して、パニックになりかけていた。
私たち第五騎士団にとっては初めての実戦であり、遠征である。
訓練ばかり続けていたせいで、ただ飯食いだの好き放題言われ続けてきたやっと望めた実戦で合ったのだが、初めての戦場であるがゆえに、そこで起きることを知らなかった。
嘘だと思うことが戦場では起きる。
そして、戸惑いは並となって全体に伝播していく。
小さな不安な声は波となって全体を伝播していくうちに大きな波となってしまった。
私が声を上げる前に先にフェディルが声を上げた。
「落ち着け! 我々が望んだ戦場で何をしている!」
力強く石突を地面にぶつければ、良い音が周囲に広がる。
全員がこちらを向いたところで、フェディルが横目でこちらを見る。
「構えろ! 敵が来るぞ! たった一人の相手だが、手柄は手柄だ! 打ち取れ!」
そういうと、慌てて隊列を整えて、構えようとしたのだが相手の速さの方が私たちよりも一足早かった。
「一人で戦おうとするな! 数で攻めて確実に仕留めろ!」
次々と団員たちが倒れていく。
足を折られて、中には手まで折られている者もいるが、命までは取られていない。
なぜだ。
疑問が口に出そうになるが、飲み込む。
フェディルには今は目の前のことに対処してもらいたい。
もう剣戟の音がここまで響いてきている。
敵は近い。
「イーラ団長!」
「あぁ、迎え撃つぞ!」
逃げ場はない。
だったらやるしかない。
後方に逃げれないのであれば、前に出ることでこの状況を変える必要がある。
健を抜いたところで相手の姿見えた。
白金のような輝きを放つ甲冑に身を包んだ者が、光とともにこちらに押し寄せていた。
「あなたが指揮官ですね」
そう呟いたや否や、一足で目の前に来た。
「イーラ団長!」
気が付いたフェディルがこちらに来ようとしたが、光に阻まれてしまう。
しかし、迂闊だ。
相手は槍。
こちらは剣で優位に戦いを進めるのであれば、槍の間合いで戦えばいい。
そのはずなのにそうしない。
だから、チャンスだと思って踏み込んだ先、剣を振るうために防御などできないタイミングで槍の石突が置いてあった。
相手が槍がいつの間にか縮んだように見えるが、何が起きているか理解する前に動かないといけない。
腹に食い込んだ石突、よろめき後退しようとしたところで、中段に振り上げられた足が見えた。
手で少しでも抑えようとするが、その蹴りはとても重く、抑えようとした腕の骨が嫌な音を立てる。
腕が折れた。
蹴りが強すぎて、吹き飛ばされて地面に転がる。
立ち上がろうと腕を付こうとするが、鎧は凹み、腕も同じような方向に曲がってしまって、思うようにならない。
背中を強く踏まれてうつ伏せにさせられる。
「もうこれで終わりです」
何が起こったのか理解する前に地面に叩きつけられる。
腕が徐々に痛みを発し始めてきていた。
なんだ。
なんでこんな辺境にこんな化け物がいるんだ。
その疑問に答えてくれる者はいない。
顔を上げる。
もう立ち上がっているものは数名で、フェディルも苦悶な表情浮かべて地面に倒れてしまっている。
悪夢に近い光景だ。
私たちの騎士団がたった一人に蹂躙されて、終わりを迎えようとしているところだった。
謝辞
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