九十一話 死神の目
精霊さんは場所までは教えてくれない。
何かいるとか、曖昧なことばかりで結構要領を得ない。
だから、アタシはもう一つの目を意識的に開けた。
左目に埋め込まれた精霊王の目。
そして、右目には埋め込まれた金色の目。
使いたくなかったがここが使いどころだろうと、自分の中に封印を解くことにした。
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「そっちの目は使わないの?」
目を移植してもらって、レティたちにこれからどうするか話してから数日後のことだ。
最初レティに言われたとき、何のことだか理解出来なかった。
「使ってるけど?」
「使ってないじゃない」
要領を得ない会話をしているとゆりながため息を吐く。
「そっちの虹色の目みたいになんか不思議な力があるんじゃないかってことじゃないの?」
「あぁ、なるほどー……」
そう言って、目を閉じたり開けたりしてみたが全く何も変わらない。
「何にも変わんないけど」
「諦めるの早すぎでしょ」
呆れた目でゆりなが見てくるが、どうしたらいいのか全く分からない。
「そうね……ヒントになるのはこれぐらいなのだけど」
そう言って、取り出したのは前に見せてもらったピーナッツが入っていたような殻だ。
それにもまた文字が書いてある。
こちらも英語だ。
「んー……リ……?」
読めない。
てか、知らない単語だし、何これ。
アタシが悩んでいるとゆりなが私の手からピーナッツが入ってたような殻を取ってしまう。
ゆりななら色々知ってるし、取られてもいいか。
前の時も読めたのはゆりなだし。
そう思って、ゆりなの様子を観察しているが、難しい顔をして一向に何も言わない。
「読めないんなら」
「読めるから、待ってて」
これ読めてない奴じゃないのかと思わず心の中でツッコんでしまう。
それからしばらく待っていた。
レティは飽きたのか書類仕事を開始してしまったけど。
「分かった」
ゆりなが声をかけると、レティが顔を上げてこちらを見た。
「意味はちょっと分かんないけど、リッパーって書いてあると思う」
「どういう意味なのかしら?」
ゆりなの言った単語は確かにそれらしく聞こえる。
レティに聞かれてもうまく答えられないけど。
それに何故かゆりなが顔を赤くしている。
「どうしたの?」
「何でもない!」
早口で怒鳴られた。
凄い理不尽に感じてならない。
今はゆりながいった言葉だ。
それなら聞き覚えあるような気がして、自分の記憶を探して思い出した。
「リッパーって、切り裂きジャックだっけあれもそんな感じじゃなかったっけ?」
「ジャック・ザ・リッパーね……切り裂くってことなのかしら……?」
訳から推測であるが、そんな簡単な効果なのだろうか。
この精霊さんが見えるようになる目みたいにもっとよく分からないものがあるんじゃないんだろうかと思ってしまう。
「その切り裂き……ってなにかしら?」
レティが興味津々という様子で聞いてくる。
興味あるだろうな。
レティって地球のこととか凄い聞いてくるし。
歴史とか語学とか、地理とかも興味あったっけ。
ゆりながレティに話してる間にいろいろと試してみることにする。
閉じたり開いたりを繰り返していくうちに、普通とは違う感じがしてきた。
目を閉じたまま、目を開けるイメージ。
心眼でも目覚めたのかと思っていると、そうでもないらしい。
普通に目を開けていたみたいなのだが、見える景色が変わっていた。
「どうしたのかしら?」
レティが近寄ってくる。
けど、そのレティの姿が黒い影のようになっている。
何だろう。
「いや、なんかレティの姿がアタシから見て、影みたいになってるんだけど」
それに頭がズキズキと痛み出す。
「大丈夫なの?」
近づこうとするゆりなをレティが手で制する。
どうして、そんなことをするのかよく理解できない。
「マサキ、私の言う事を聞きなさい。いいわね?」
どうしてそんなことを言うのか理解できない。
首を傾げて、不思議そうな顔を浮かべていたに違いない。
「そのままゆっくりと目を閉じなさい。何も言わないで、ゆっくりと、よ」
「いやいや、レティ一体どうしたの?」
そう言いながらレティの影の首を触ると、簡単に折れてしまった。
どういう事だろう。
レティの肩に手を置こうとしたら、レティの肩がめり込むように曲がる。
意味が分からない。
どういうことだ。
レティが黙ってしまったせいで混乱してきた。
ヤバい、どうしたら――――
「真咲、右目を閉じろ!」
ゆりなの切羽詰まった声が聞こえたと思ったら、見えない力で右目が閉じられる。
けど、見える。
瞼を閉じていても意味がない。
「マサキ」
ちょっとだけ苦しそうなレティの声が聞こえた。
「ゆっくりと、右目の瞼をイメージして閉じなさい。あなたなら出来るわ。ユリナ、目を開けさせてあげなさい」
何度か息を吐いて落ち着く。
大丈夫、大丈夫だ。
右目をイメージする。
大丈夫、このまま瞼を下げるだけだ。
目を閉じよう。
そう、こうやって……
「出来たかしら?」
レティの声で気が付いて目を開ければ、いつもの景色が広がる。
ここでは珍しいけど、アタシに日本を思い出させてくれるゆりなの顔。
「良かったー……戻ってこれたー……」
安堵して、長い息を吐いていると、視界の隅にレティが入ってきたが、なんだか様子が変だ。
マジマジと見てみる。
レティの首と肩があらぬ方向に曲げられていた。
「れ、レティ、それど」
そこまで言って気が付く。
アタシが触れた箇所だ。
「マサキ、気にしなくてもいいわ。おかげでそれの特性が分かったところよ」
「いや、無理っしょ! てか、それ、ごめんって謝って済むことじゃないよね? けど、ごめん!」
「落ち着きなさい、マサキ」
落ち着いてなどいられない。
だって、アタシがしてしまったことなんだもん。
「けど、アタシちょっとレティに触っただけだよ? それがなんでこんな……」
「それがその右目の力よ。あなたたちが言ってたリッパーっていうのにきっと他に意味があると思うわ」
「それとアタシの右目の特性って関係あるの?」
「あるわね」
そこでレティはいったん言葉を切る。
息を吐いて、肩を自分で無理矢理元の位置に戻した後に、首も同様に戻す。
改めて人間ではないことを教えてくれる。
「私の首と肩は……そうね、簡単に言えば魂と言っていいのかしら、それに触れられてやられたのよ」
「どゆこと?」
「憶測に過ぎないわ。マサキ、私の姿は普通に見えてた?」
「んーん、影人形みたいな感じ? だったかな」
「それが魂の形と仮定して、それをマサキは触れることが出来たの」
「えーっと、もしかして、触れれたら、ヤバい奴だったりする?」
「言葉が分からないから、合ってるかどうか不明だけど、そうね、人に使えば必殺よ」
そう、この時この目はもう使わないと決めた。
他にもいろいろと使い方と効果は確認したが、この目は誰かに使うことは二度とない。
そう決めた、はずだった。
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右目を開けてみると、姿が見えなかった人の影が分かる。
アタシもゆりなも武器はもう取り出している。
いつでも戦える。
この目を使うと頭が痛くてしょうがないから、嫌だったのにと愚痴を言いたくなるが我慢。
「来るよ!」
三人の影が襲い掛かってきたが、ゆりなは違う方を向いている。
だから、私は囲うように盾を展開させると同時に刃が振り下ろされた。
弾く音が周囲からして、ゆりなが反応した。
しかし、もう遅い。
遠ざかってしまう。
覚悟は決めたはずだ。
ゆりなは手を汚すと言った。
だから、私も同じように汚れてあげようと言った。
そこに躊躇いはない。
だから、逃げる一人に向かって手を伸ばした。
男、だと思う影の首が横に折れた。
そして、それが倒れ込んだところで、ゆりなに姿が見えたらしい。
「あんた、もしかして」
「うん、ごめんね、ゆりな」
先に私の方が汚しちゃった。
嫌わないで欲しい。
ゆりなに嫌われたら、さすがにちょっと堪える。
「謝らない! もう済んだでしょ! その話」
ゆりながきょろきょろと周りを忙しなく見る。
どうしたらいいのか考えてるんだと思う。
「うん……うん!」
私が返事をしたら、ゆりなは息を吐いた。
「神様からの授かりものなんていうものがあって良かったって思ってる。真咲、もうその目を閉じても大丈夫だから。私の神様からの授かりものでこいつらの姿を引っ張り出してやるから!」
にやりと獰猛な笑みをゆりなは浮かべていた。
謝辞
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