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九十話 接敵

 レティシアの従者が戦い始めてから少し経ったフィリーツ領内。

 村の中は静かだった。

 いつもなら色々な人が領内を歩き、話声が聞こえていた。

 そのはずだった。

 けれど、戦いに巻き込まれることになり、今ではレティシアの屋敷の地下室にみんな避難している。

 レティシアが私たちのせいだとは言わなかった。

 私たち異世界転移者のせいではないと。

 けど、結局武力があるから戦争って起こるもんじゃないのって思ってしまう。

 レティシアは休戦協定がどうとか言ってたけど関係ないと思うんだよね。

 私たちの力がこの世界に過剰だから、破られる。

 そういうものでしょう。


「静かだし、暇だねーゆりな」

「そうだね」


 今の私は真咲は村の中心にいる。

 静かで誰もいない村の中心に。


「これだとちょっとだけ寂しいね」

「そうね」


 真咲がちょっと眉を下げた困ったような笑みを浮かべている。

 あんたがそんな顔をすることないじゃないと言いたくなる。


「ゆりな、もし、だよ。ここにその来たら、アタシ達さ……」

「殺さないといけない」


 レティシアにも言われている。

 殺す覚悟をしないといけないと。


「アタシさ、やっぱり、考えたけどさ……」

「真咲、あんたは誰も殺さなくていい。あんたの手は綺麗にしてて」

「え?」


 真咲が驚いたような顔をしているが、無視する。


「そんな! そんな事、ダメ!」

「けど、戦いじゃん。私たちは戦いに来てる。それに私のこの世界での目標は復讐なの。だから、やる。それだけ」


 もう何度も失敗してきた。

 傷つけることに対して怖がり、何も出来なかった。

 あの崖の上での戦いも結局私は何も出来なかった。

 ジェシカでも普通にやれていたというのに、なんで私は出来ないんだ。

 嫌になる。

 私がこれまでしてきたこと全てが無駄になる。


「ダメだよ! それじゃあ」

「そういうのもういいって」

「ダメ! ゆりながそんなことする必要ないって」

「は? だったら、どうするのよ」

「逃げよう」


 いつものへらへらした笑い顔はそこにはない。

 真剣な瞳でまっすぐにこちらを見てくる。

 苦手だ。

 この目は嫌いだ。

 私を逃がしてはくれない。

 私を正面からきちんと見据えたこの目は苦手だ。


「逃げれるわけないでしょ」

「それでも、二人だったら何とかなるかもしれないじゃん」

「何ともなるわけないでしょ、ここをどこだかわかってるの? 日本でも地球でもないのよ? 何も分からないところで生きていけるわけないでしょ」

「出来るって、二人だったら!」

「出来るわけないでしょ! あんた現実見なさいよ! この世界に私たちの居場所なんて最初からないのよ!」


 そうだ。

 たまたま私たちに理解のあるレティシアに拾われただけで、元々この世界に私たちの居場所はない。

 そんなところで生きていけるわけない。


「それでも!」

「もうそういうのいいから。それにいつまでも私のこと守ろうとしなくてもいいから」

「別にそんなこと考えてないし!」

「じゃあ、なんで私のことを止めようとするの?」


 真咲の言葉に詰まる。

 深い理由があって話すことが出来ない、とかではないんだろうな。

 きっととにかくそうしたいとか、理知的な考えではないはずだ。

 なぜかって、真咲だからに決まっているから。

 真剣な顔で悩んだ後、顔を上げる。


「分かんない。けど、アタシが止めた方がいいって、そう思ったから」


 言うと思った。

 本当にズルい言葉だ。

 そんな理屈もない言葉どう否定したらいいのよ。


「本当に、それはズルい。真咲、ズルい」


 喧嘩をしたいわけじゃない。

 私がただ黙っていただけだ。

 私のしたいことを。

 だから、きっと真咲は分からないのだろう。


「ねぇ、真咲。いいの、手を汚すのは」

「だから――――」

「最後まで聞いて」


 最後まで聞いてもらう必要がある。

 この戦いでもしかしたら万が一の可能性もあるわけだし。


「私は真咲、あんたを守りたいの」


 まともに顔を見えない。

 告白してるんじゃないから見ればいいのに、見えない。


「私はずっとあんたに守ってもらってきた。あの牢屋でもここでしゃべれない間も。だから、今度は私があんたを守りたいの」


 ずっと思っていた。

 私は真咲に助けられてばかりだと。

 どんな事でもこの子は私を庇ってくれる。

 それが嬉しく思う反面、自分の至らなさが嫌になっていた。

 ずっと私は助けられないと生きていけないのかと思えば、歯がゆさも生まれる。


「私はあんたのためなら手を汚したって構わない。私はあんたを助けるためだったら、この世界と敵対したっていい。私は優しくて、そうやって綺麗に笑うあんたを傷つけたこの世界が憎くて、憎くてしょうがない」


 言っちゃった。

 私自身この世界を憎んでいるわけじゃない。

 だけど、この子の体を傷つけて、もしかしたら心まで傷つけようとした世界が憎い。

 真咲が一番傷ついてるのは、自分の体が傷つけられたことじゃないのは知ってる。

 この子は傷つけられた体を見て、みんなが自分から遠ざかっていくことを怖がっている。

 女性器まで傷つけられて、体中面白半分で火傷の跡を残されたりして普通にしていられると思っているのか。

 普通は無理だ。

 私が無理だから、きっと無理なはずだ。

 私だったら、人に見せられない。

 そんな体恥ずかしくて、見せることなんてできるわけない。

 一生コンプレックスを抱えて生きて行かなきゃいけないのが辛すぎて、下手したら自殺する。

 それを彼女は考えているのかどうか不明だけど、そうではない。


「アタシのためにゆりながそこまでしてくれるなんてちょっと意外かも。だけど、さ、やっぱりゆりなだけがそんなことしなくてもいいよ。だからさ……」


 どこまでお人好しなのだろうと聞いてて思う。

 真咲が分からないのも当たり前だ。

 私がそういう態度を取っていなかったわけだし、こういう状況じゃなきゃ言う必要もなかったことだから。

 レティシアのお手伝いをしているだけの時ならこんなこと言う必要もなかったのに。

 本当にこの世界は何一つ思い通りに行かなくて、腹が立つ。


「だから、ゆりながもし手を染めることがあるなら、アタシもそうするよ」

「は?」


 なんでそうなるのか意味が分からない。

 やっぱりこいつ、アホなのかとマジマジと見てしまう。


「あんた、人の話聞いてたの? あんたがそんなことする必要ないって言ったよね?」

「聞いてた、聞いてた! けど、ゆりな自分一人だけそんなことしたら、絶対に気にするよね?」


 そう言われると、思わず目を逸らしてしまう。

 そうしないという保証はないというか、多分気にするだろう。

 私の手は汚れているから、綺麗な真咲の手を汚したくないから触らないでとかやりそうな気配はある。


「だから、その時はアタシもするから」


 ニコッと太陽みたいな笑みを真咲は浮かべた。

 もっと弁が立つ人間であれば、ここから真咲を言い負かして、別の道に引き込めるかもしれないが、私には無理な話だ。

 こうされると、どこか諦めに近い、けど、後ろ向きではない納得を得てしまう。


「……好きにしたら? 私はもう言いたいことは言ったし」

「うん!」


 本当に綺麗に笑う。

 地球にいた時もそうだったのだろうな。

 地球にいたら一生出会う事はなかった子だ。

 こんなにも綺麗に笑う子と出会えたこと、これだけはここに来た価値があるのかもしれない。

 そんなことを考えていると、真咲の顔が一瞬で真剣なのもの変わる。


「どうしたの?」

「何か来てる」


 そう言われて、周りを見たが人間誰一人、動物も家畜以外私には見えない。


「いないけど?」

「けど、見えてるの!」


 多分、見えてるのというのは精霊だかの方であろう。

 私に見えないのもそのせいだ。


「数は?」

「いっぱい!」


 具体的な数を教えてほしかったんだけど。


「ゆりな」

「分かってる、真咲。行くよ」


 お互いに獲物を抜く。

 この世界に着て初めての殺し合いが始まった。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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