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八十八話 勇者降臨

寝坊しました

 氷の壁によって、三人とは離れることになったが、この壁を壊すのは並の兵器では無理だと確信して正面を向く。

 数にして百以上二百は届かないぐらいか。

 少ない。

 これぐらいならなんとでもなるが、殺してはならないのだけは念頭に置いておかないと。

 とりあえず、手足は折っておけば逃げることも抵抗も封じることが出来るだろう。

 健を切るというのも考えたが、これから何かに利用しようと考えるなら、骨折以上に時間がかかる。

 勇者の武器にかかれば、造作もないことだ。

 さて、と相手の方向く。

 私のこの姿を見て、動揺する人間は少ない。

 どちらかと言えば、周りを突然囲んだ氷の壁に指揮系統が乱れてしまって、何とか持ち直そうとしているが、こんなことが日常で起きるはずもない。多くの者が落ち着かない様子だ。

 名前だけ独り歩きして、語り継がれる英雄。

 それが今の私だ。

 さて、過去に囚われてる時間も惜しい。

 ここからはレティシア様の従者としての仕事の時間だ。

 胸元から指輪を取り出して、口づけをする。

 私に力を貸してくれた英雄たちの魂の一部が封じ込められてる。

 そんなものはいらないと言ったのに、自分から進んで魂の一部を封じていったお人好しの人たちだ。

 理由は、私たちが死んだらきっとお前は寂しがるだろうから、というもの。

 そんなことはない。

 受け取った時は否定した。

 けど、魔王討伐し、人間界へ帰還する際、この指輪があるから乗り越えられた。

 私は一人ではない。

 仲間がずっとここにいる。

 例え、何があってもここに私の大切な人たちはいるんだ、と。


「力を貸して、みんな」


 聖剣を使う時のように祈れば、光が溢れて、形を作る。

 徐々に光は人の形を成していく。

 聖騎士、救世主、聖女、エルフの王、伝説の義賊、稀代の魔女。

 どれも後世で付けられた名だ。

 私に剣を教えて騎士の称号を捨てて付いてきた元騎士、最初はお金で途中から栄誉の名で女性を囲いたいと言っていた槍使いの冒険者、神殿から選ばれた祭司の女性、政治的な理由で私たちのところに来たエルフの国の名手、エルフと他種族の混血から忌み嫌われいた盗賊、迫害に合って森の奥地に住み着き魔法と魔術を研究していた女性。

 どれもこれも、勇者の使命とはかけ離れた者たちばかり。

 だけど、私は彼らで良かったと思ってる。

 今の彼らは何も言わない。

 魂の一部で作られた模倣にしかすぎない。


「殺さないように行こう」


 私が槍を構えると、鎧を着た騎士が前に立ち盾を構える。

 後ろに私と槍使いが並び立ち、後ろには魔女と聖女、最後尾にはエルフの名手と義賊が並ぶ。

 私が石突で地面を叩けば、全身姿勢を低く構える。


「行こう」


 私が走り出せば、全体も走り出す。

 相手が慌てて銃を構えて、こちらに向けてくるが問題はない。

 私の鎧は抜けないし、そもそも光の英雄たちにも当たりはするけど、魂を破壊できるものでなければ意味がない。

 盾もそんな銃火で抜けるほどやわなものでもないし。

 なぜ、この隊列を組んだか。

 私たちにとって一番馴染みのある物だから、それしかない。

 騎士の盾に銃弾が当たるが弾かれていく。

 もう彼我の距離は折り返しだ。

 槍使いの穂先が私の足元に差し出される。

 そこに乗れば、槍使いがにやりと笑ったように思う。


「お願い」


 空中に投げ出されて、そのまま一回転。

 レーデヴァイン。

 この子の力は神の力だ。

 ただ呼び戻したりするだけの物じゃない。


「レーデヴァイン、大事な者たちを護る力を貸して」


 穂先が光る。

 この子たちには意思がある。

 大事なのは勇気を示すことだ。

 どんな悲壮な時でも、絶望が目の前に広がる時であっても勇気を示す必要がある。

 勇者は勇気をもって、人々に希望を見せなければいけない。

 そして、勇者の武器はそんな勇気を見て、勇者だと認めて、自分たちを使うに相応しい心かどうかを判断する。

 その点でジェシカは相応しくないと思われてしまった。

 あの時、私に武器を奪われたときに折れてしまった。

 レーデヴァインもまだ迷いがあったのを手に持てば即座に理解出来た。

 私に付くべきなのか、ジェシカに付くべきなのか。

 きっとレーデヴァインたちは見ていたから。

 ジェシカが、ただの一度も槍など使ったことなどない少女が死に物狂いで自分たちを使うに相応しくなるように励んでいたことを。

 どんな状況でも、折れることなく一心不乱に突き進み、不屈の心を見せていた。

 そんな彼女のことをレーデヴァインたちはどんな状況になろうとも彼女であれば折れずに勇気を示してくれる、だから、彼女はまだ使い手としての技量は低いがいずれ自分たちを使うことが出来る主人だと思っていた。

 それがどうだ、私に奪われ、彼女は折れてしまった。

 その時のレーデヴァインたちの失望たるや想像できただろうか。

 だから、ジェシカの呼びかけには答えず、私の手の内にいた。


「狙いはそう、そこです」


 地面にレーデヴァインを突き刺して着地すると、最前列に並んでいた騎士たちの手甲を突き破るようにして、地面から無数の槍が出現した。

 皮膚を切り裂き、血が出るほどの傷。

 ヘルムから覗く目は痛みで歪んで見える。

 そして、銃から手が外れた。


「今!」

『示せ。我らが主の威光を。見よ、彼の偉大さ』


 そう言って、聖女が錫杖を天に向ければ、天から光が降り注ぐ。

 敵が顔を覆い、逸らすほどの光量。

 私は背に光を受けているのでさほど影響はない。

 そして、強い光の後に、強い影が出来る。


『引き込め、我が同胞。光の子たちを朋に迎えろ』


 そういうと、前列が倒れ込み、影から伸びた腕に組み伏せられてしまう。

 義賊とエルフの王が出てくる。

 エルフの王も義賊もまだ倒れてない者たちに矛先を向ける。

 弓は正確に銃口に矢じりを向かって撃たれ、義賊は紐で石を包み込んで大きな風切り音を出して回している。

 石は手に当たればあらぬ方向に手指を曲げさせ、矢じりが突き刺さった銃の引き金を引いたものは暴発させてしまっていた。

 後ろにいる者たちの動きに疑問はない。

 だから、追いついた騎士と槍使いとともにさらに前に行く。

 これぐらいの技量の相手では私たちの歩みは止まらない。

 まだまだ相手は多くいるが、私の敵ではない。


「みんな、蹂躙しましょう」


 槍を構えて、突き進んだ。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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