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八十三話 フィリーツ領の新たな展開

 温泉は毎日通う人が多く出た。

 私はユリナとマサキに連れていかれる。

 アルフレッドはすっかりと楽しみになったようで、毎日通っているらしい。

 すぐに噂になり、村の中でも入ってみたいという声が聞こえてきて、屋敷の中でだけ楽しんでいるわけにもいかない状況になった。

 そこでルールを設けることにした。

 領民は一律で一回の利用ごとに一銅貨を支払うこと。

 これは私、領主であるレティシア・ヴァリアス・アドガルド・フォン・スカーレットであっても破ってはいけないということにした。

 マサキの知識でいうところ、番頭というらしい。

 字も習った。

 それをマサキにやってもらう事にした。

 彼女の場合、領民たちと関係も良好なところもあるからいい働き場所なのかもしれない。

 それにあの子が言い出したことだ。

 責任を持ってもらうのは悪いことではない。

 あとはレザードにも来てもらって、どうだろうかと話したところ、うちで運営させてくれないかと言われたが丁重に断った。

 一回断れば、レザードもすぐに身を引く。

 相手も私の性格をよく理解しているし、この独占欲も親の代からよく聞いているだろう。

 ただ、宣伝はしておくので、どうか商店を一つ開かせてくれないかと言われて、この地方で売ってないものを売ってくれるのであればとちゃんと適正な価格で売る様にとは釘を刺しておいた。

 その商店は現在職人たちが頑張って建設している。

 それにもう一つ作る施設が出来た。

 宿屋だ。

 温泉で人を釣ったとしても、ここには泊める施設がない。

 だから、温泉に人が入っても、止まるところがないようでは不便を感じて遠ざかってしまう可能性もある。

 他所からの人を引き入れるのは、こちらで宿屋が出来た時という事にしている。

 ただ、これを言った時に、


「ここ食堂とかないのにどうするの?」


 ユリナが聞いてきたのに、すぐに答えられなかった。

 確かに食べるところはいる。

 自分があまり食事をしないたちだから、すっかり食事の大切さを忘れていた。

 人間は食事をしないと生きていけないんだった。

 だから、宿屋の一階を食堂にしてもらうようにして、大きさも倍ぐらいになるけど、構わないと告げて職人たちに仕事を投げることにした。

 ちゃんとその分の工賃を相場よりも少し多めにしてあげたし、工期も言われただけ伸ばしてあげたのだから問題はないと思う。

 新たなる収入源を得るために起こしたことではあるが、私がやることは他にもある。

 まずは国境にある塀をしっかりとしたものに変える必要が出てきたため、聖女であるフィオリに書類を送って、簡単に侵入できないような作りに変えてもらうと思っている。

 それもこれも先の襲撃にある。

 こちらの馬車には確かに帝国の旗が掲げられていたが、それでも襲撃されたということは向こうのネズミは耳がいいという事だ。

 だから、それが今後ないようにしてほしいということを嫌味たっぷりと書き綴った手紙を渡してあげた。

 最後に帝国に逃がした男だ。

 こちらもようやく準備が整った。

 レザードの商会に頼んで融通してもらい、帝国の城近くの小さな酒場を買い取ってもらい、そろそろ店が開けるという連絡が来た。

 そちらの売り上げが出ればいいのだけど、どちらかと言えば情報収集の方が大きい。

 上手く情報が手に入ったらフィオリに売るのもいい。

 万が一にもないが、もし帝国が侵攻してくるのであれば、この領は格好の的だ。

 だから、少しでも多くの情報が欲しい。

 そして、酒場を開くにあたって一人給仕を勤めれる人物が欲しいと言われて、今現在頭を悩ませているところだ。


「何を悩んでいるのでしょう、お嬢様」

「これよ」


 そう言って、人が欲しいという旨が書かれた紙をマリアに見せる。


「こちらにも余ってる人材はいませんのに……私が行きましょうか?」

「ダメ、ダメに決まってるでしょ」


 従者を向かわせるなんて以ての外だ。

 手放せるわけがない。

 それに今信頼できる人物はそれぞれにやることがある。

 信頼できる人物が少ないとこういう時に不利になる。

 本当に人は大事だ。


「わ、私、はどうでしょうか」


 執務室の掃除をしていたマリューネがこちらを青い顔をして見つめてきていた。


「それはいいのだけど……」


 最初はこちらをなめた態度を取っていたのだけど、今ではすっかりとこちらの顔色を窺うようになってしまった。

 あの時はついつい楽しくて悪い癖が出てしまった。

 ユリナは「脅し過ぎ」って睨んだ来たのも今では懐かしい。


「もし、あなたが王国の間者だと知られたら酷い目に遭うけどいいのかしら?」

「だ……」


 マリューネが止まった。

 勢いで乗り切ろうとしたような感じはするけど、酷い目に遭う事を想像してしまったのかもしれない。


「……大丈夫です、やります」


 幾ばくも無いうちに復帰するとは思わなくて、こちらが驚いてしまった。


「小汚い酒場よ。ここみたいな生活はもちろんできない。男性にいやらしい目で見られるかもしれないし、そういう行為をされることだってあるわよ」

「……大丈夫です」


 彼女の瞳の意志は強い。

 これ以上何を聞いても、無駄になりそうだと思って質問はやめる。


「私と従属の契約を結ぶこと。あなたの向こうでの行動に様々な制限を付けるし、口にできる事も制限させてもらう。これを飲むならあなたを向こうに派遣しましょう」

「……結びます」


 怯えてはいる。

 体の震えは見える。

 けど、その意志は固いようで私はそれを崩す手段を持ち合わせていない。

 だから、彼女と従属の契約を結ぶことにした。

 そして、王国のことを話さない、他にも怪しまれるような行動をしないように言葉や行動に様々な制限を課して、いつでも帝国に行けるように準備しておきなさいと言って、部屋に帰した。


「良かったのでしょうか、お嬢様」

「マリアは不服?」

「はい、あの女は以前にお嬢様の秘密を勝手に送ろうとした裏切り者です。信用も信頼も地の底に落ちているものとばかり思っていました」


 マリアの言葉は厳しいが、そう見られておかしくないことをしていたので、否定はできない。

 それは彼女が短慮だった部分もある。

 あんなにも美味しい条件はない。

 それにコロリと騙されているから、次も簡単に騙されてしまうかもしれない可能性はある。


「けど、あの子、ここにいても息苦しそうだったし、あの飛びつきようを見せられたら、ね」


 それもそうだ。

 死を突き付けられるぐらい脅された場所で生活しないといけないんだ。

 それが自分のせいであれ、そんなところで生活しないといけないのは精神的にどんどん追い詰められていくものだろう。


「それに都合が良かったのよ。マリューネ、あの子、私の脅しが嘘ではないって分かってるみたいだから、きっとしっかりと働いてくれるわ」

「そうですか? あのような輩は離れたらすぐに好き勝手しそうですが」

「普通ならね。けど、きっと彼女にあれ以上は必要ないわ」


 行き過ぎた脅しであったが、今はそれでよかったと思う。

 彼女の中でその恐怖が生きている限りはきっと私たちの役に立ってくれるはずだ。


「やっとお店も出来て、領らしくなってきたわね」


 窓の外から領を眺めようとするが、庭にある立派な木によって見ることが出来ない。


「私たちも忙しくなるでしょうか?」

「ええ、もちろん、働いてもらうわよ、私の可愛くて愛しい従者たちには」

「ご命令があれば何なりと」


 マリアが膝を付いて、礼をする。

 もう少しで氷の季節を迎える。

 そうするとこの領は、鯨が来る関係で他の地域との交流が難しくなる。

 それはすなわち職人さんの行き来がしにくくなるという事だ。

 鯨をどうにかするというのも手だが、そうすると兎に手が回らなくなる。

 それに鯨の雪というのは兎にしても、精霊たちにも好まれる。

 精霊が活発になれば、土地が豊かになり、作物の成長も良くなる。

 さらに雪解けの水が地下に溜まり、井戸や温泉に流れてくる水に影響が与えていると言われたら、下手な対処は出来ない。

 私たちの領は、魔物がいなくなれば立ち行かなる危険性も秘めている。


「氷の季節、今年も無事ならいいわね」


 小さな声で呟いた。

活動報告にも書きましたが二十話と二十一話の改稿を行いました


謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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