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八十一話 温泉計画

 ゆりなとマリアさんと共にアタシたちは森の中を歩いていた。

 気分はピクニック。

 危ない野生の動物に遭遇しないで済むのはアタシの精霊さんのおかげでもある。

 どうやら、野生の動物さんたちの方がそういうものに敏感なようで、私たちの存在は分かっているようだけど、遠巻きに見るのみ。

 近寄っては来ないというのが、精霊さんたちを通して分かる。

 アタシとゆりなはいつも通り、中身があるような内容な会話をしているが、マリアさんは全く話に入ってこない。

 興味がないというよりも、拒絶を感じる。

 強い拒絶。

 それがどうしてなのか分からない。


「ねぇ、マリアさん」

「……」


 無言で歩いていく。


「マーリーアーさーん」


 そう言いながら、マリアさんの前に立つと、こちらを冷たい目で見つめてきた。


「何ですか、さっきから」

「いやーもしかして、マリアさんってアタシたちのこと嫌いかなって思ってさ」

「嫌いですよ、人間全般が」

「マリアさんが魔族だから?」


 アタシがそう聞くと、マリアさんが鼻で笑った。


「違います。そもそも私は魔族ではありません」

「え、マジ?!」


 レティの周りにいるから、ずっとそう思ってた。

 現にゆりなだってびっくりしている。


「私を扱えるのは今を生きる人には不可能でしょう。そして、私を扱えるのはお嬢様を置いて、他にはいない」


 そう言って淡々と歩を進めていく。


「そんな下等な生物、見下しもします。どこまでも劣化していく愚かな人たちに嫌悪も抱きましょう」


 それが意味するところをアタシは理解出来ない。

 マリアさんが生きてきた時代を知らないし、現在どんな風に人が変化しているのか私が知っているのはこの小さな村の中でしかない。

 だから、マリアさんの言葉の真意を理解できる日はアタシにはないのかもしれない。


「水、それに地下の熱源の場所までもう少しです」

「やっぱり!」


 火山が生きていたのであれば、もしかしたらという予想は当たっていた。


「しかし、かなり深い場所ですが、どう掘るのですか?」

「私の神様からの授かりもの(ギフト)でなら、多分出来る」


 答えたのはゆりなだった。

 彼女の神様からの授かりもの(ギフト)は強制力。

 世界に命令を与え、それを実行させるものだと、ゆりなは言っていた。

 切れと命令したら、切る。

 地面を掘ることも、命令次第ではいけるとゆりなは言っていた。

 どこかで試したのかもしれないが、可能であるなら頼る他ない。

 森から木々が薄れて、山への道に変わるところで、マリアさんが足を止めた。


「ここです」


 何もないただの荒れた台地。

 だけど、マリアさんが嘘を吐くはずではない。


「ゆりな、お願い」

「分かってる」


 マリアさんが印をつけて、私たちの方に歩いてくる。


「とりあえず、三十メートル、穴の径は三十センチで開けておくから」


 そして、彼女が神様からの授かりもの(ギフト)を使う。


「あの印に深さ三十メートル、径三十センチの穴を開けろ!」


 それだけ言うと、低い振動の後、穴が開く。

 落とし穴みたいだ。

 落ちたら、死んじゃうけど。


「とりあえず、これで場所は分かったから、温泉引く場所とか、他にも村での作業かな!」

「温泉なんて、気まぐれかと思ったけど、本気なのね」

「ったりまえじゃん! もう水浴びだけじゃ満足できないの、アタシは!」


 ゆっくり湯船につかって、のんびりしたい。

 もう何年もしていないことだ。

 ようやくその無念を晴らす時が来たのだ。


 ▼


 そうして、温泉計画は本格化する。

 温泉を引いてくる場所を、レティや村の人たちと協議して、取り決める。

 あとは掘った源泉を綺麗な状態でそこまで流すため、水路とか引き出すポンプの代わりにどうするかとか色々とものづくりに励むことになる。

 毎日の作業もあり、どれだけ頑張っても進捗はゆったりになる。

 それでも、村の人たちの協力もあり、確実に毎日前進していっている。

 確実に季節は巡る。

 私たちの温泉計画は掘るのは、ほぼほぼゆりなの神様からの授かりもの(ギフト)で済ませるから早いのだけど、それ以外もようやく形になってきているところ。

 ぎりぎり、雪が降る前に済みそうだと思っていた涼風の季節も終わりに近い時期。

 完成した。

 温泉施設が。

 さすがに銭湯みたいな建物を建てることは出来なかったから、ほぼ露天。

 男性と女性の入るところは大きく離しているので、見られる心配もない。


「やっと……やっとだー!」


 出来上がったが、まだ温泉を引いてない空っぽの湯舟。

 けど、それももうすぐいっぱいになるはず。

 ゆりなたちがそちらの方に行ってくれてるから。


「最初は口だけだと思っていたけど、やり切ったのね」


 傘を差したレティが出来上がったところを見て、笑みを浮かべていた。


「やり切るよ、もちろん。だって、アタシが一番入りたかったからね!」

「マサキの情熱がそれほどとはね。最初聞いた時はどんな与太話かと思っていたけれど」

「ひどっ!」

「けど、こうして形になると、そうね、感心しかないわ」


 そう言って、湯船の縁に座る。


「これが新しいこの領の収入源に繋がるか、私も楽しみよ」

「温泉だけじゃないよ、レティ。温泉があれば、そこに宿も付ければいいし、食べる場所だって欲しくなる。どんどん発展してくんだから」

「マサキの世界の話かしら?」

「そ、アタシのところの話。けど、実績ある話だからね? 温泉街、まぁ、宿屋とかが乱立すると潰れたりとかあるから、そこはレティの采配なんだけどね」


 廃墟とかでよく見るホテル。

 ブームというか、そういう時に建てられまくり、潰れてしまったが、この領ではそんなことは起きてほしくはない。


「そうね、これから入る温泉で考えようかしら」


 そう言っていると、アタシたちの間を水と火の精霊さんたちが山の方から下りてくる。


「来るわね」

「来るよ、来るよ!」


 アタシもレティも精霊さんが見える。

 だから、こういう事にはいち早く気が付ける。

 そして、温かい温泉が湯船に流れてきた。


「よーし、みんな帰ってきたら、一番風呂入ろう!」

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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