表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/153

七十九話 聖女との顔合わせ

「レティ! 今度はちゃんとお土産買ってきてね!」


 そう熱の籠った瞳で見つめられて、マサキに手まで握られた。

 王都と言っても、そう大したものはないのだけど。

 まぁ、緑しかないフィリーツ領にずっといるから、華やかな場所に憧れを持つのは分からないわけでもない。

 けど、私に頼むのは間違えている。

 なぜなら、私はある種の軟禁に近い形で控室に押し込められている。


「レティシアお嬢様、どうぞ」


 そう言って、アルフレッドが紅茶の入ったカップをテーブルの上に置いてくれた。


「ありがとう」


 そう、口元に笑みを浮かべる。

 正面には鏡という道具が取り付けられている。

 アユムが作ったものらしい。

 自分の姿が好きな時に見れるというのは便利なものを作ったものだ。

 これ持って帰れないだろうかと考えてしまう。

 マサキの言っていたお土産もこれでいいんじゃないかしら。

 口元に手を置くと、鏡の中の私も同じ動作をする。

 面白いわね、これ。

 それにしても、私の顔ってやっぱりいいわね。

 まじまじと眺めてしまう。

 普段は化粧をしないが、こうしてしっかりと化粧までするとより磨きがかかる。

 持ち運びに難がありそうだけど、やっぱりこれ持ち帰れないか、後で聞いてみましょう。


「マリアの方は上手くいっているでしょうかな」

「ええ、大丈夫よ。あの子が一番適任なのだから」


 マリアはこの部屋にいない。

 今はアユムの部屋に行ってもらっている。

 少しだけ部屋にあるものでどうしても欲しいものがあるから。


「レティシアお嬢様、その鏡という代物お気に召しているご様子ですね」

「ふふ、さすがに分かるかしら」


 わざわざ鏡の前にティーセットを用意しているし、見て分かるだろう。


「自分の姿を見るなんて、水鏡とかしかないから珍しいじゃない?」

「そうですな。これもアユム様の神様からの授かりもの(ギフト)から生まれたものなのでしょうかな?」

「どうなのかしらね。けど、今までこんな綺麗で歪みのない物を見たことがないから、もしかしたらそうなのかもしれないわね」


 色々とポーズを変えてみても、しっかりと私の姿を映し出す。

 そうやって、お気に入りの鏡で遊んでいると部屋に侍女が着た。

 私の出番らしい。


「行ってくるわね、後は頼んだわ、アルフレッド」

「ええ、お任せください、レティシアお嬢様」


 ▼


 あたしの生誕祭、そして聖女のお披露目という事で豪華なパーティーが開かれている。

 母様はもう起き上がる気力もないのか、ずっと床に伏している。

 いつも顔を見せると、あたしの頭を優しく撫でてくれて、その後に「あなたは聖女なのですから、しっかりと役目を果たしなさい」と厳しい声だけど、微笑んで目を細めてくれる。

 純白のロープに豪華な装飾で、ちょっと気を抜けば倒してしまいそうな杖。

 皆よりも高い位置で、金色に輝く椅子に座らせているが、ちょっとだけ居心地が悪い。

 目立ち過ぎて、人の視線が全部こっちを見ている気分だ。

 そんなことを思っていると、ホールのドアが開かれた。

 人の話し声で煩かったホール内が、一気に静かになった。


「あら、会場を間違えたかしら?」


 高く、けど良く通る声が私のところまで届く。


「こ、こです」


 入ってきた少女は口だけ笑みを浮かべる。


「そう。それなら良かったわ」


 堂々とした出で立ちで人の海の中に入っていく。

 銀髪の髪は編み込まれて一つにまとめられて、緩く肩にかけるように下ろしている。綺麗で輝いているようにも見える。

 母様は遠くの、王都から離れた山の方に住まわせていると言っていたが、ちゃんと私の侍女たちがしてくれる手入れとかもしているようだし、本当に山の方なのかなと思ってしまった。

 そして、一番の特徴はやはり血のような赤い瞳。

 吸血種という魔族の一つだと聞いていたが、こうして見ると本当に真っ赤。

 母様がたまに噎せて、血を吐くことがある。

 けど、あれよりも鮮やかな赤。

 透き通っていて綺麗な宝石がそこに埋め込まれている錯覚すら覚える。

 白い肌は少し母様を思い浮かべてしまうほど。

 あたしよりも少しだけお姉さんに見えるぐらいだけど、ずっと年上だと教えてくれた。

 綺麗で可愛い、それに色っぽさもあって、女性らしく見える。

 あたしはまだどう見ても子供。

 人よりも賢いのも母様から受け継いだ、この神様からの授かりもの(ギフト)の一部のおかげ。

 人の海が割れて、注目を集めているが、一切臆することもなく、堂々と歩いてくる。

 そして、階下まで来ると、ドレスの端を掴んで腰を落とす。


「お初にお目にかかります。アユムのご息女様、いえ、聖女様」

「母様聞いております。レティシア・ヴァリアス・アドガルド・フォン・スカーレット男爵、あたしは母アユム・レイエル・ナカハラの娘であり、魔王を討滅せし勇者の時代から空白だった聖女の座を頂いたフィオリ・レイエル・ナカハラです」


 言い切った後に、杖の石突で地面を打てば、カツンと乾いた音をホールに響かせた。


「母アユムより、神様からの授かりもの(ギフト)の一部、またスカーレット男爵との従属の契約を受け継いでいます」


 そういうと、スカーレット男爵の体の周りに鎖が浮かび上がり、その華奢に見える肢体を縛り上げていく。


「彼女は魔族です! しかし、何も恐れることはありません!」


 魔族であることを皆に伝えると、大きな動揺が会場を支配しようとする。

 けど、あたしが沈める。

 杖で先程より強く床を叩くと、こちらに一気に注目が集まった。


「あたしが、王家が、魔族であり、強力な力を持つ彼女に首輪をつけて飼っているからです。先のダード家のような反逆等の事態を起こさないのであれば、皆さまには一切の危害は与えません」


 彼女の首に鎖が強く巻き付けば、余裕の笑みを浮かべていた彼女の顔が少しだけ苦悶に歪む。

 あたしとしてはそれで十分だった。


「ええ、私レティシア・ヴァリアス・アドガルド・フォン・スカーレットは聖リザレイション王国及び聖女フィオリ・レイエル・ナカハラの忠実なる犬でございます。王国が聖女が悪と断定せし輩がいる場合は私の牙で必ずやその喉元に風穴を開けてみましょう」


 スカーレット男爵はニヤリと牙を向いた、いや、実際に長い牙を伸ばして、私に笑みを浮かべてきた。

 背筋が思わず寒くなった。

 彼女は鎖で苦しいはずだ。

 それなのになぜ笑みが浮かべられるのか。

 あたしはスカーレット男爵を見誤っているのではないだろうか。

 神様からの授かりもの(ギフト)の一部では万能ではない。

 母様ほど見通すことが出来ない。

 それを歯がゆく思ってしまった。


「私のお披露目も済みましたでしょうか?」

「ええ、下がりなさい。人の場にあなたの居場所はないでしょう」


 彼女の鎖の拘束が弱まり、霧散する。

 来たときのように、割れたままの人の海を歩いてホールの出口に向かう。

 背筋を伸ばして、迷いのない歩み。

 出口が開かれて、彼女の姿が扉の向こう側に消えて行った。

 すると、一拍置かれて、ホールは先ほどまで忘れていたように静かだったのに、人々は喧騒を思い出したかのように、賑わいを取り戻した。


 ▼


「さて、予定は済んだわ」


 私が先程の控室に帰ってくると、アルフレッドとマリアが並んで膝を付いて、頭を下げていた。


「マリア、どうだったかしら?」

「はい、お嬢様」


 そう言って差し出されたのは当初の目的である、マリューネが使っていた通信装置の受信側だ。

 これがどうしても欲しかったのだ。


「よくやったわ、マリア」

「それともう一つ、これを」


 マリアが渡してきたのは髪の束だ。

 それにこれは日本語で書かれている。

 まだ私もユリナに教えてもらって日が浅いせいで全部読むことが出来ない。


「ユリナたちに見せてみましょう」

「して、目的は達成しました。フィリーツ領に戻りますかな?」

「ええ、長居は無用よ」


 そう言って、アルフレッドたちに背を向けて歩き出そうとしたが、立ち止まって振り返る。

 これもそうだが、私の興味を引く品は他にも合ったのだ。


「この鏡も持って帰れないかしら?」

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ