七十話 帝都到着
二人が崖上に消えてからどれくらいたっただろうか。
少ししたら、こちらに対しての銃撃は消えたが、発砲音だけは聞こえてくる。
姿が見えないのが不安で仕方ない。
マリアさんが付いていると言っても、マリアさんだから余計にだ。
アンナさんだったら、スパルタだけど、しっかりと私たちのことを守ってくれたり、気遣ってくれるが、マリアさんは必要最低限以下。
レティに言われたからやっているという感じがしてならない。
最初は種族的な違いのせいだろうと思っていた。
従者の人同士だと仲良さそうにしているが、村の人たちには塩対応。
やっぱり同胞同士じゃないとダメなのかなーって思ってたけど、それもなんか違う気がしてきた。
それからしばらく観察を続けていると、レティの時だけ明らかに態度が違う。
従者同士で話してるときとも違う。
マリアさんはレティだけなんだと思う。
優先順位がレティで、そこから大分空いて従者の人たち、そのずっと下にアタシ達ぐらい。
それでもアタシはいい。
ゆりなを守ってくれるなら低くてもいい。
そうして祈るようにして待っていると、周りの喧騒が止んだ。
どうなったんだろうか。
「ちょ、これ、はな、はなすなああああああああああああ!!」
そう思っていると、崖上から飛び降りてきたのは、ジェシカを担いだアンナさんだ。
それに知らない男の首根っこを掴んでいる。
男は叫んでるみたいだけど、縛られて猿轡までされてて声が出てないんだ。
ジェシカが泣きながら、崖から落ちてくる。
うわー……上にいかなくて良かったと心底思う。
アタシ、高所恐怖症だし、絶対無理だ。
そんな風に眺めていると、ドンっとすごい音で着地する。
絶対に人だったら死んでる。
ジェシカ、南無南無と手を合わせておく。
「なんで、手を離そうとした!」
「ちゃんとあなたが言うように離してないでしょ」
アンナさんはジェシカの怒鳴り声にうんざりしたような声音で答える。
アンナさんとジェシカは仲が悪い。
いや、仲が悪いというよりも、ジェシカが勇者じゃなければアンナさんはそこまで冷たくないんだろうな。
ただ、ジェシカはアンナさんが魔族であるという点、魔王様とかいうトンデモ設定があるせいで、多分、本能的な感じでダメなんだろう。
そんな風に二人の様子を見ていると、
「ちょ、無理無理無理無理無理いいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!! いやあああああああああああああああああああ!!」
本日の悲鳴パート二。
ゆりなに珍しい大絶叫。
紐無しバンジーしてるようなものだから、怖いのは当たり前。
あぁ、本当に良かった。
アタシ、気絶しちゃうな、あれ。
マリアさんが着地すると、大きく砂埃がおき、地面が凹む。
あの体、どういう構造してるんだろう。
「ユリナ、耳元で叫ばないでください。うるさい」
そう言われたゆりなはぐったりとしていて、反応がない。
「気を失ってますね。情けない」
無茶苦茶だ。
あれで平気なのはそこの二人だけなのに、その二人が無茶苦茶なことを言う。
自分たちが人間という枠からはみ出しているのを忘れているに違いない。
「さて、掃除は終わりましたが、これ、どうしましょうか」
馬車の周りは岩だらけ。
物盗りの人たちの置き土産。
「帰りのことは考えないとして、とりあえず、帝国に向かう方向だけどうにかしましょう」
どうにかする。
それは力でどかすことを意味する。
その力を私たちは持っている。
▼
アタシとゆりなの神様からの授かりものにマリアさんとアンナさんの力で馬車が通れる道だけ作り出して、再び出発してから十日にかかろつしていた時、ようやく見えたアルドラン帝国の帝都ディーリッド。
「すっご、文明を感じる」
「意味わかんないこと言わないで」
「えー……けど、王国に比べて鉄で城壁? みたいなの作ってあるし、文明感じちゃわない?」
「文明は知らないけど、王国よりも進んでそうね」
馬車の窓から顔を出して、帝都の様子を眺める。
鉄の城塞。
そう表現してもいいと思う。
鉄で作られた城壁に遠く見えるのは建築物か、なんか鉄塔みたいなのもある。
すごい。
なんか歴史の教科書に掲載されている昔の日本みたい。
「王国と帝国だと発展してる方が違う」
そう言ったのは意外にもジェシカだった。
「王国は魔術を中心にして発展している。だから、何かをするにも魔術を使う学問の方向。技術的には遅れてるかもしれないけど、資源に関しては帝国よりも手を付けてないものが多くて富んでいる。逆に帝国は技術方面で発展を遂げている。どうしてか時期は分からないけど、急激に成長していった。けど、それに伴って、木や鉱山を次々に消費していったせいで、大地が痩せていっていて、それが大きな問題になってる」
ジェシカがスラスラと語る様子に思わず、手を上げる。
「何だ?」
「村の子たちと同じぐらいのことしか知らないと思ってた」
「失礼な奴だ」
ジェシカはそっぽを向いてしまった。
けど、急激に成長、か。
これはきっとアタシたちみたいな日本人だか分からないけど、召喚されて技術系の神様からの授かりものをもらったからだろう。
「なら、帝国は王国の土地が欲しくなるわけね」
「休戦協定がある」
「いよいよとなれば、そんな物破られる」
ゆりなはそれ以上の言葉を言わない。
生か死か。
そうなったら、いよいよ争いになるだろう。
先頭の馬車が門まで辿り浮いたのか、動きが止まる。
それに合わせて、アタシたちの乗っている馬車も徐々にスピードが落ちていく。
「アンナさんとマリアさんは帝国も行ったりした?」
「大昔になら」
答えたのはアンナさんだ。
「昔からこんなんだったん?」
「いいえ、昔は石造りの城壁でした。それにもっと緑もありましたし、何よりもここまで煙臭くありませんでした」
「え、臭います?」
「すごく」
「ゆりなは?」
「さぁ、分かんないけど」
アタシもよく分からない。
鼻が詰まっているわけでもなし。
感覚とかも魔族になると敏感になる、という事なのだろうか。
「そういえば、帝都付いたら、アタシたちってフリー?」
「ええ」
「ゆりなとジェシカどこ行く? てか、一緒に回るっしょ?」
「別にいいけど」
「付き合い切れない。一人で勝手に見て回る」
ジェシカがそういうと、アンナさんが横目で見る。
「一人で歩き回る許可はない。それに私もユリナとマサキが万一誘拐されたりしたら目も当てられないから、同行します」
「はーい。ってそういえば、マリアさんは?」
「レザードの交渉の場に控えないといけないので、お構いなく」
帝都かー。
この世界に着て、初めての都市。
王都にいたが、あれはノーカンで。
どんなものが売ってるんだろう。
どんな服が売ってるかな。
色々あったこれまでの生活。
だけど、日本にいた時みたいに買い物が出来そうだと思う、それだけで気持ちが昂る。
一応、敵地であるはずなのに、無性にワクワクしてきた。
謝辞
いつも読んでいただきありがとうございます。
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これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします




