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美少女吸血鬼の領地経営  作者: ベニカ
来訪者編
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六十九話 死と向き合う

 真咲に崖上に送ってもらって、私が出るより先にマリアさんが出て行ってしまった。

 そして、両手に傘を持って、リズムよく引き金を引いていく様子を見ながら外に出れば死体が数体転がっていた。

 それを見て、目を逸らしてしまった。

 ダメだ。

 ちゃんと見ないといけない。

 私はこの国に復讐しなきゃいけないんだ。

 だから、目を逸らしている場合じゃない。

 構えた盾をそのままに剣を抜く。


「ユリナ、無理して戦わなくていい。あなたが死んだらお嬢様がとても悲しむから」

「そんなわけにはいかない」


 マリアさんに甘いことを言われた気がするけど、結局は私が戦力外だから大人しくしていろって事を意味している。

 マリアさんにとってはレティシアが一番。

 だから、レティシアにとってマイナスになることを嫌う。

 その最たるものは私と真咲の喪失だろう。

 だけど、そういうわけにはいかない。

 私だって戦える。

 そのために今日まで過ごしていたんだ。


「前に出ます」


 そう言って、前に出て行こうと思ったが、マリアさんに引き留められた。


「まだ撃ち合ってます。その装備でも大丈夫でしょうが、大人しくしていなさい」


 そう言って、岩の影マリアさんの隣に座らせられた。


「出て行くのは結構。けど、状況が読めないなら足手まといか、犬死ですよ」


 そう言いながら、銃で撃っているマリアさんはどこかイライラしている。


「面倒な相手。お嬢様に言われてなければ、三秒もかけないで片付けてやるのに」


 きっと、何か特殊な枷でもかせられているのだろう。

 全力を出すな、とかそんな感じのことを。

 岩の影から少しだけ頭を出す。

 相手も同じように岩や木に隠れて、撃ってきてるみたいだ。

 だったら、私ならやれるのではないか。

 私の神様からの授かりもの(ギフト)に障害物など無意味。

 いけるかもしれない。

 いや、私だったらやれる。

 私にしか出来ないんだ。

 しっかりと前を向く。


「あの岩陰」


 そこで言葉が詰まる。

 躊躇うな。

 今更、復讐なんて発しておいて何を躊躇う。

 手足や、腹部が切り刻まれたレティシア。

 そして、王都でまだ条件も知らないで多くの人を傷つけた記憶。


「――――っ! あの岩の壊せ!」


 そういうと、上から叩き潰すように岩が粉々に割れる。

 マリアさんは躊躇わない。

 それに砂埃など問題にはしない。

 三回引き金を引く。


「よくやりました。次です」


 そうして、木の方を向いたところで、開いた傘が私を包む。

 そして、何発も銃弾が小間の部分に当たっている音だけが聞こえてきているが、一発も貫通してこない。


「次から次へと下等生物共が」


 こっちの方がマリアさんの素の性格なのだろう。

 憎らしい様に盗賊たちを睨んでいたマリアさんがこちらを向く。


「ユリナ、あなたに稽古を付けましょう。私が実際に戦うとはどういうことなのか見せますから、見て真似なさい」


 それだけ言い残して、マリアさんが傘から出て行った。

 私はそのまま傘から顔だけ出しながら、岩陰、崖際の方に移動をしていく。

 少しでも邪魔にならないように。

 マリアさんの動きは素早かった。

 出て行ってすぐに、二本のナイフをどこからか取り出したのかもう手に持っていて、素早い投擲。

 二本のナイフはそれぞれ男たちの首に当たれば、背にしていた木にナイフが縫い付けられるようになってしまい、男たちは倒れる事すらできない。

 いつもの散歩するような足取りでも数歩、歩いたかと思ったらもう男たちまでたどり着いてナイフを抜き取り、血を払う。

 身軽な動作で木の枝に乗ったところで姿が見えなくなった。

 私に戦うとはどういうことなのか見せる、と言うのは何だったのか。

 というか、見せる気ないでしょ、あの人。

 ただ、そういう理由付けをして鬱憤を晴らしてるだけでしょ、絶対。

 そう言う事を考えていると、マリアさんが死体を三体引き連れて帰ってきた。


「どうでした? 参考になりましたよね?」

「いや……あの、見えてません。枝に乗ったところから姿見えてませんから」

「マサキのような目を持てば余裕です」


 持ってない人にそれを言うか。

 あの目だって、ほぼオンリーワンな代物なのに。


「それにしても、こちら側の反応はずいぶん減りました。ユリナ、あなたも一人ぐらい仕留めてみなさい。私があなたの邪魔にならないように梅雨払いはしてあげますから」


 私が頷く前に、マリアさんが私の体を掴む。

 そのまま、森の中を進んで、一人の男と目が合うと、そいつは銃口をこちらに向けてくる。

 私が目を閉じて、盾を構えようとすると、


「目は開けておく。アンナに散々言われてなかったの?」


 分かってる。

 分かってるけど、怖いものはしょうがない。

 まだ戦うって決めて、たったの一年だ。

 それでこれまでの二十数年経験したことない恐怖に勝つのにどれだけ苦労するのかと言ってやりたい。

 発砲音がして、余計に力む。

 けど、盾に衝撃はなく、代わりにボスッという乾いた音だけがした。


「あいつがいいですね。あいつを仕留めなさい。私は周りの虫を始末してきますので」

「え、ちょっと」


 そう言って、放り投げられたところは男の目の前。

 男が戸惑っているのも分かる。

 私も戸惑っている。

 だけど、ここしかない。

 私は抜き取ってある剣をそのまま振るう。

 男の手を少しだけ剣で裂く。

 やったと思った。

 けど、それがただの油断だった。


「くそがっ!」


 男がすぐに立ち直り、銃を落として、ナイフを取り出す。

 ヤバい。

 すぐに追撃しないと。


「死ね!」


 大振りの一撃。

 隙だらけだ。

 勢いがつく前に弾ければいいのだが、身長差が酷い。

 頭一個は確実に違う相手のナイフは届かない。

 ナイフが振り下ろされる。

 アンナさんの手加減した攻撃よりはまだ遅い。

 だから、初めての実戦で落ち着けないが、それでも訓練を思い出して、身を捻るだけで避ける。

 男の顔が驚きに変わった時には、私から見たら隙しかない。

 剣を突きに出来るように握りを変える。

 これでやれる。

 殺せるんだ。

 殺さなきゃ、殺さなきゃいけない。

 殺さないと私が殺されるんだ。

 殺せ、殺すんだ、私。

 今殺さないで、いつ殺す。

 さぁ――――


「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」


 叫んで突撃した。

 盾を構えて。

 私よりも大きい相手でも、体重をかければ相手が体勢を崩すことが出来るはず。

 そうして、倒れた相手に馬乗りになり、剣を両手で逆刃に持ち替える。

 やらなきゃ。

 あとは振り下ろすだけだ。

 このまま、落としてやれば終わる。


「はっ……はっ……はっ」


 自然と呼吸が速くなって、心臓が痛くなる。

 なんで、出来ないの。

 やらなきゃいけないのに。


「何をしているんですか、ユリナ」


 マリアさんが優雅に歩いてきたと思ったら、即座に私が押し倒した男の頭を銃で撃ち抜いた。


「とどめを刺さないといけないでしょう」

「……分かってる」


 男から降りると、地面に座り込んでしまった。


「こちら側の敵は殲滅しました。あちらはまだ時間がかかってるようなのですね」

「分かってるのよ、私だって……」


 マリアさんが何か言ってた。

 けど、情けない自分で頭一杯で泣きそうになる。

 私は復讐したいんだ。

 だから、殺すことだって躊躇わない。

 躊躇っちゃいけない。

 そのはずなのに、この体たらくだ。

 今まで、私は何をしていたんだ。

 今日、この日のために頑張っていたのではないか。

 殺すことへの怖さに身を竦ませて、私は二度も失敗した。


「マサキに回収してもらったらいいのでしょうか。けど、谷底ですから……アンナに聞いてみましょう」


 私は唇をかみしめて、せめて涙だけは流すまいと耐えていた。

活動報告の更新も行いました。また、そこで書いてあるように一部改稿を行っております。


謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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