六十八話 荒野の戦い
ゆりなによって空中に打ち出されたアンナさんが戻ってきた。
「反撃しましょう」
「どうやって?!」
アンナさんが戻ってきてから、相手からの反撃が始まった。
挑発してきたんだろうけど、なんか反撃が始まって、さっきから私の力の向こう側で激しい音がしてる。
「撃たれまくってるんだけど?!」
「ええ、そうでしょうね。挑発してきましたから」
「そう言う事を最初に言わない!?」
アンナさんがそういうと何でもないように地面、自分の陰から剣を取り出す。
マリアさんは知らない間に傘を二本取り出していた。
「銃は、王国よりも性能がいいですね。装弾数が多いのでしょう。さっきから弾が途切れない」
「ええ、そうでしょうね。さっき上で見たところですと、銃の形状も王国のよりも細身でした。それに弾倉の辺りが、王国のより長かった。帝国の方が王国よりも優れた技師がいるか、技術の発展があるのでしょうね」
アンナさんとマリアさんが相談しているが、物騒な話しかしてない。
「マサキ、あなたはここで馬車を守っていなさい。マリアとユリナ、私とジェシカ、それぞれ片方の崖を制圧。いいですね?」
私だけ居残りか。
ま、仕方ない。
こればっかりは私にしか出来ないことだから。
「ゆりな、気を付けてね」
「分かってる」
ゆりなの表情は硬い。
「マサキ、そのままこの前レティシア様を送ったように私たちを影から送れますか?」
影送り。
最初はジェシカと戦った時に見せたものだ。
あの時はナイフを使って、木の影とかに落として、その後にジェシカの影から出現させたというものだった。
これも、精霊さんのおかげである。
精霊さんの力は計り知れない。
簡単に凍らせたり、火をおこしたり、もっと言えば、地形の変更や、植物の成長を促すなんてことも出来ると思う。
それが出来るだけのポテンシャルを秘めてるって分かる。
どうして分かるのかは自分でもよく分からないけど、この目が、なんとなくそれが出来るって教えてくれるから、私はそれを信じられる。
私は自分を信じてるから、これはきっとできる事。
そして、マリューネさんのところにレティを送った。
影を使って。
レティも影を使うことが出来る。
けど、影から影への移動は出来ない。
なんで出来ないのか言ってたけど、難しい理屈があった気もするが、要点だけ言えば確か、それだけのことをするための準備が大変で、やってることに対して見合わないとかそんな感じ。
だけど、レティは私がナイフを平然と影を使って送ったのを見ていて、私ならノーリスクで行えると考えたわけ。
それで実際にやってみたら、出来た。
イタズラだと言われてやってみた結果、ただの脅しだったんだけど。
「んー多分? ただ、ここ人の影が多いから上手く送れるか分かんないよ?」
「上に出れるなら何も問題はありません」
「りょ!」
左目だけ開けて、右目は閉じる。
精霊さんに集中して、まずはマリアさんとゆりなを送ることにしよう。
「真咲、何かあったらちゃんと呼んで」
半分まで影の中に沈んだゆりながそう言ってくれたので、
「うん、もちろん!」
そう笑顔で返したところで、完全に影に沈んだ。
そして、今度はジェシカとアンナさんの方だ。
目というか、軽い片頭痛みたいな痛みがしたような気がした。
それでもゆったりと影の中に沈んでいく。
ゆっくり、ゆっくりと。
そうして、完全に姿を消したところで、一息つく。
馬車の上には私一人。
神様からの授かりものを使ってここにいるだけ。
それだけしかない。
することはあまりない。
「ここを任せて、先に行け! なーんてね」
仁王立ちして、手も広げて、正しく映画とかで見たシーンを再現してみた。
けど、誰も見る相手もいない。
外は銃撃に岩に囲まれ、散々だけど、私たちの周りは平和そのもの。
終わるまで私は座って待つことにした。
▼
影から出て行くところで、男の姿が見えたが、先に出て行ったアンナが一刺しで男を殺してしまう。
だが、うめき声を上げたのかそれで気が付かれて、こちらに銃口が向き、影から出てすぐに岩陰に隠れることになってしまった。
「どうやって、近付くんだ!」
「あなたも槍一辺倒ではなく、他の武器の扱い方も知るべきです」
そう言って、隣の岩陰に隠れているアンナは先ほど刺した男を抱えていた。
「武器など、今は関係ないだろ! 盾もなくこんなところに――――」
「ええ、盾の用意ならしましたので、お先に」
そう言って、刺した男の顔がちゃんと前を向くように背中側から掴んで、アンナは岩陰から飛び出した。
酷い。
岩陰から出てきたアンナに銃口が咄嗟に向くが、仲間だったのだろう。
打つのに躊躇いが出てしまう。
そして、撃つのか撃たないのか決めかねている間にもう、アンナの剣の間合いに入っている。
首が一つ、二つ跳んだ。
これが勇者の戦い方なのか。
こんな酷い戦い方があっていいのだろうか。
仮にも勇者なのだ。
人質を取るような戦い方に正義があるのだろうか。
「早くしないとあなたの獲物もなくなりますよ」
仲間が他に殺されたという事で、男たちの間で怒りが爆発する。
アンナに銃口が向けられるが、彼女は焦らない。
さっきの男を盾にして、反対側から銃撃があれば首を飛ばした死体を剣で突き刺して、放り投げて盾にする。
ダメだ。
私にはあんな戦い方は出来ない。
やってはいけない。
私には、私が正しいと思うやり方をしないといけない。
銃口はアンナに向けられている。
だったら、と思い、私は身を低くして銃撃している男たちの後ろに回り込むように移動を開始する。
あの女涼しい顔をしていた。
物取りをするようなやつらは確かに悪だ。
人を傷つけ、掠め取ろうとするようなものたちは悪で間違いない。
だけど、死んだ者はどうだ。
そこに正義や悪はあるのだろうか。
いや、ない。
死んだ時点で報いを受けて、その魂は救済されるのだから。
だから、そんな死体を弄ぶ行為に正義はないはずだ。
銃撃していたやつらの背後に出た。
「なっ!」
「だれだ!」
言葉を交わす理由はない。
槍で打ち付けて、横に薙いで首を切り、蹴り倒す。
一人やられたところでナイフを持って近づいてきたので、即座に槍を短く持ち替えながら、 石突で顔面に打ち付けた。
怯んで、距離が出来たのならそのまま突き刺して、二人排除。
気配がして、槍を抜く暇もなく振り返れば、こちらに向けられた銃口。
咄嗟に槍を構えようとしたが、死体が取り付いたまま。
心の中で舌打ちを打つ。
あの女の戦いを見なければよかった。
見なければ、こんな戦い方をしないで済んだのに。
男の死体は重たい。
刺したまま、槍を地面に立てるようにする。
そして、足を上げて槍を使ってバク宙した。
体重の移動で槍は持ちあがり、死体も浮く。
槍が死体から離れ始めれば、死体は勝手に遠心力で飛んでいった。
飛んでくる死体に驚いた相手の様子を見ている暇はない。
地面に足が付けば、死体を追いかけて、相手に迫る。
死体に潰されるように倒れていて尻餅を着いていた。
今死体をどかして立ち上がろうとしているところで、目が合ったのでそのまま顔に槍を立てて終わらす。
しかし、敵が多い。
私が三人でアンナが三人か。
どれだけの相手をすればいいのか分からないが、今はやることに集中しよう。
ただ、自分の戦い方にあの女の戦い方が入ってきている。
それが嫌で嫌で仕方なかった。
謝辞
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