六十七話 崖上からの襲撃者
更新が遅れて申し訳ないです
平和な旅路が三日ほど続いた。
帝国への道のりは片道で二十日ほどで、まだ三日。
帝国領に入ってまだ間もないと言ってもいいだろう。
王国に比べたら、草木は少なく、荒れた台地が続く道。
土地が瘦せているのか、それほどまでに伐採が進んでいるのかはここからは見当がつかない。
ただ、身を隠すものがないこの道を進んでいくのは格好の的だろう。
小隊の馬車は全部で五台。
私たちは真ん中の馬車で待機している。
もっと分散するべきだと思うのだが、監視する目が多いので、移動しやすい場所がいいという事らしい。
監視する目とはどういう事だろうか。
よく分からないが、接近するなら簡単にわかるらしい。
全く理屈が分からない。
「お尻痛いかも」
「我慢」
マサキがこういうのは何回目だろうか。
それで馬車を止めろと言わないあたり、ただの我がままではないんだろう。
というか、最近分かってきたが、マサキはしゃべっていない時間が短い。
基本的にユリナとずっと話してる。
「あんた、ちゃんと見てるの?」
「私は見てないけど、精霊ちゃんたちがいっぱいついてきてくれて見てくれてるし、平気平気」
「私たちに見えないから、ちゃんとやってるか不安。真咲だし、余計に」
「ええー……信用ないなぁ。じゃあじゃあ、マリアさんは?」
「マリアさんってロボットみたいじゃん。てか、まさにそれじゃん。だから、あんたよりも絶対に信用できるし」
「アンナさーん、ゆりながいじめてきまーす」
「私としてもマリアの方が実績があるので、信用できます」
うわーんと鳴き真似をしながら、何故かユリナを抱きしめる。
緊張感が全くない。
マリアとアンナは獲物も持っていないし、防具だって身に着けていない。
「そろそろ、渓谷ですね」
「襲撃にはうってつけですね」
渓谷と言っても、川は枯れている。
崖の間を走っていく馬車たちを崖上から奇襲するのにはとても向いている。
ここを通らないルートもあるが、さらに日程が延びてしまうので、断念してこの道が選ばれた。
そして、ここを選んだからこその私たちでもある。
「なんかいるっぽい」
「熱源増えてます」
渓谷に入った直後、マリアとマサキが同時に言った。
「仕掛けてきたら、マサキとマリアは馬車の上へ。ジェシカとユリナは待機、いいですね」
「アンナさんはどうするんです?」
「とりあえずは、レザード様の安全を確認しにいきます。依頼主が死んでしまったら、さすがに報酬に問題が出そうなので」
「熱源、増加している。三十程度はいる」
「もしかして、この世界って爆弾みたいなのってある感じ?」
「火薬があるので、必然的に」
「ヤバいかも。それっぽいのあるかも……?」
「慌てない。あなたの神様からの授かりものなら問題はない」
爆弾というか、この地形で爆発なんてされたらひとたまりもない。
左右に切り立った崖のあるこんな場所でやられたら、盗賊の襲撃というよりも、証拠を無くすような生き埋めじゃないか。
そのことに気が付いているのか、気が付いていないのか抜けてる連中だ。
「お嬢様が襲撃した者たちの頭、頭部ではありません。生きた状態で一番偉い者だけは殺さないようにと言ってました。殺さないように気を付けるように。マリアもね?」
「もちろん、お嬢様が言う事ならば」
「二人とも、神様からの授かりものについて使用の制限はない。思う存分、使っていい。あとは、ユリナ」
「何ですか?」
不機嫌そうにアンナさんに答える。
「殺せないなら、殺さなくていい。その場合の戦い方は教えてたよね?」
「……分かってる」
それ以上ユリナは何も言わないし、アンナもそれ以上は言わない。
こうして人を殺そうとするものが悪なのに何をためらう必要があるのか、私には分からないが。
そうして、簡単な打ち合わせが終わって、しばらく馬車が進んでいく。
そして、そろそろ休憩を挟むために前の馬車たちが速度を落として、全体の速度が落ち、馬車がまとまり始めたところで、大きな爆発音がした。
「マサキ」
「わかってまーす!!」
そう言いながら、マサキがマリアに持たれて車外へ持っていかれた。
▼
崖の爆破。
帝国軍人からわざわざ頂いた貴重な爆弾。
それに破格の報酬。
こんなうまい仕事はない。
生きている者は必要ない。
全員生き埋めで構わない。
変に生存者がいる仕事だと面倒が多いのだが、こうして生き埋めにするならば、生存者を残さないし、崩落だとごまかしも効く。
楽な仕事で金払いもいい、笑いが止まらないな。
爆破後の土煙が晴れたら、成果を確認して引き上げ。
そんで、しばらくは遊んで暮らせるだけの金が入る。
余裕をもって、待ち構えていた。
そうして待っていると、遠く、崖際近くにいた仲間が一人倒れた。
「なんだ、どうした?」
声をかけたが返事がない。
土埃がまだ晴れない。
「おい、どうしたんだ」
そうして声をかけてる間に、また一人崖近くにいる仲間が倒れる。
いったい何が起きている。
「おい、崖際から離れておけ」
「それじゃあ、確認が」
「従えってんだよ!」
察しの悪い部下に苛立つ。
ノロノロと離れていく部下がまた一人倒れる。
「おい、何があった!」
そういうが、誰もが首を振るだけ。
使えない奴ばかりで腹が立つ。
うちの奴らだけじゃ手が足りないと思って、声をかけてみたが、失敗だったのかもしれん。
「何があったか聞いてんだよ!」
そう怒鳴れば、ノロノロと倒れた仲間をひっくり返していた。
「お、おい、撃たれてるぞ!」
そう言う事かよ。
どうやって狙ってきてるのかも生き残ってるかも分からないが、まだ連中は生きてやがる。
「あなたが頭ですか」
声が聞こえて、見上げれば空中に浮かぶ女性。
恰好はどこかの女給服。
顔は日の陰になって見えない。
そして、そいつが振りかぶれば、死体を確かめていたやつにナイフが突き刺さって、倒れる。
「次はこちらから行きます。メニューは鏖殺です」
謝辞
いつも読んでいただきありがとうございます。
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