六十四話 新たな使用人
フィリーツ領の朝は早い。
まずは、従者たちが日の出とともに起き出す。
その後にジェシカが起きて、アンナと朝の稽古が始まる。
結構激しい打ち合いの音が聞こえるから、アンナも結構本気でジェシカの稽古をしているみたい。
そして、村人たちが農場に集まってきたところで、大体ユリナがマサキを連れて起きてくる。
マサキはいつも髪をぼさぼさ、目は半分どころか閉じていることさえある。
それをユリナが引っ張って食堂まで連れて行くらしい。
それが終わってから私が余裕をもって食堂まで向かう。
起きているときもあれば、ベッドの上で書物を開いているときもあるけど、最後はいつも私。
やることは多くないから、それでも構わないと思っている。
農場に出たとしても、畑が順調かどうか確かめるだけ、リニアのいる孤児院に行っても、子供たちの様子を確認して少し話すだけ。
領主が村の中を歩き回っているというのも普通なら良くないが、私が村人からよく村の中を歩いている人物として認識されているので問題ない。
そして、今日は新しい人がこの領に訪れる予定の日だ。
屋敷の使用人。
あの日、アユムから届いた手紙にはそう書かれていた。
人が増えていってるという報告を受けている。あなたの屋敷にも住む人間が増えているんでしょう。ただ、あなたに使用人を雇う伝手がないことは察しています。なので、こちらから用意するので使ってやってください。
そう言う内容だったと思う。
屋敷の使用人を増やすよりも、リニアの孤児院で働く人を増やしてあげて欲しい。
ただでさえ、勝手にそちらが子供を送ってくるのに。
そういう不満は後の手紙に書いておこう。
まぁ、来た人数にもよるがリニアの方に回してもいいかもしれない。
いつものように農場やリニアの孤児院を見て回った後、執務室に戻る頃には日も高くなっていたので、先に食堂で軽めのお昼を済ませた後、執務室に引き返した。
そして、軽く仕事を開始しようかと思っていると、アルフレッドが入ってきた。
「レティシアお嬢様、アユム様が仰っていた使用人三名と十名の孤児が到着しました」
頭を抱えたくなった。
どれだけこの国に孤児がいるのよ。
あとで絶対に文句を言おう。
「孤児はリニアの方に回して、使用人三人はこちらに連れてきて」
「はい」
そう言って、アルフレッドが出て行ったあと、机の上を軽く整理する。
必要な書類と、印、それはだけ片付けるだけなのだが。
それほど時間をかけずに再びアルフレッドが入ってきた。
「この三人でございます、お嬢様」
入ってきた娘たち二人について特筆するところはない。
同じ男爵の四女や五女と言った結婚の道具に使われるような子たちで、雰囲気はちょっと暗い。
そしてもう一人は、この娘はちょっとだけ違う。
子爵の三女。
彼女だけ顔の美しさが違う。
明らかに他の子よりもお金をかけた美しさがある。
綺麗な金糸の髪は腰まであり、ちょっと大きい瞳は快活そうな印象を受ける。鼻立ちもしっかりしているし、小さな口でおしとやかな印象もある。けど、身長もそれなりにあり、体の出るところはしっかりあり、引っ込むところは引っ込んでいて、女性として魅力はたっぷりある。
そんな彼女がどうしてここにいるのか。
結婚の相手が見つからなくて、こんなところに来たのか。
どちらでもいいのだろう。
理由はそのうちに分かるだろうしね。
アユムが用意した使用人。
それだけで警戒はする理由に値する。
「そちらの二人は隣の屋敷のお手伝いを頼むわ。それであなたは……えーっと、名前は何かしら?」
「モライア家の三女、マリューネ・フォン・モライアです。レティシア・ヴァリアス・アドガルド・フォン・スカーレット男爵様」
「レティシアでいいわよ。マリューネはこっちの屋敷を頼むわね」
「はい、レティシア男爵様」
「こっちの屋敷はアルフレッドから、向こうの屋敷はリニアに仕事内容を聞いてちょうだい。いいわね?」
「はい」
三人を代表して、マリューネが答える。
そして、二人はアルフレッドに案内されて、屋敷を出て行く。
マリューネは部屋に残っている。
さて、アユムはどういう事を仕掛けてくるのか楽しみだ。
▼
マリューネたちが来て、七日が経過した。
彼女たちへの評価は軒並み良いようだ。
アルフレッドも働き者だと言っていたし、リニアにしてもとても助かっていると言っている。
それならいい。
仕事をしない無能だったら、送り返しているところだったし。
「あの新しく来た人たち、誰?」
私の執務室なのに、ユリナとマサキは私の部屋を私室のようにくつろいでいる。
注意しないから余計にだけど。
「アユムから使用人として送られてきた子たちよ、仲良くしてあげなさい」
「私、嫌い」
アユムという言葉の時点ですでに嫌そうな顔をしていた。
されたことを思えば、嫌なのは分かる。
「それで、それを聞くためだけにここに来たのかしら?」
「レティシアが良く見ておいてって、真咲に頼んだんでしょ? それで私も見ていた結果報告」
「精霊は私とマサキにしか見えないから便利でいいわね」
「報告。どっかと連絡とってるらしいかもって。そう言う動きをしている、らしい。私も見てたけど、掃除するにはおかしいところに足を運んでたりするから、探ってるんじゃない?」
連絡を取っているなら、十中八九アユムだろう。
探って痛いところはリニア関連だ。
彼女のことは、表立って捜索はされてないけど、まだ賞金事態は取り下げられていない。
そんな彼女のことがもし知られたら、さすがに庇うのは難しくなる。
「どうすんの?」
「どうするもこうするも、悪い子には罰を与えるのが普通でしょ?」
殺すつもりはない。
さすがに身分がしっかりしているし、大義名分もないのにそうしてしまったらさすがに、騒動になる。
だけど、こちらの情報をそのままアユムに抜かれているというのは面白くない。
どうしようか悩んでいると一つ面白い方法を思いついた。
「何か悪いこと思いついた顔してる」
「あら、ユリナは鋭いわね。その通り、悪いことを思いついたわよ」
ユリナが呆れた顔をこちらに向ける。
「真咲が危険な目に遭う事じゃないなら、別に」
「ユリナはマサキには特別甘いわね」
「そう言うわけじゃない。私がしてもらった分、返してるだけ」
「そ。それでもいいわね。それでマサキは空いてるかしら? 頼みたいことが出来たのよ」
そう、悪い子にお灸をすえる、悪戯を。
謝辞
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