五十九話 精霊使いの唄
「勇者ジェシカの勝ちね。ジェシカ、連戦でいいかしら?」
「もちろんだ」
ジェシカという勇者は力強く言ってくれたのでこちらとしても嬉しい。
「マサキ、次はあなたの番だ」
「あー……能力はダメだけど、いつものはありだよね?」
「それも封じたら一秒もやれないでしょう」
「だよね! だよね!」
アンナは呆れて、マサキはジェシカの前に立つ。
マサキは足でリズムを取ってるようだけど、傍から見れば落ち着きがないだけに見えかねない。
「準備はいいかしら?」
「いつでも」
「あ、あ、あー……あ、あ」
マサキは発声を確かめるようにして、何度もリズムを変え、音を変えて、声を出す。
「ちょっち、待ってね」
しばらく、目を閉じて体全体でリズムを取っていると、
「よし、大丈夫!」
マサキが元気に答える。
「それじゃあ、始め!」
私が声を上げると同時だった。
「――――♪ ―――――――――♪」
マサキの声が響いた。
突然歌い出したマサキに面食らったのか、ジェシカの動きが止まってしまった。
そこでの動き出しが早ければ、すぐに決着がついていたかもしれないのに、勿体無い。
マサキはその間に、八本のナイフを手に挟んで空にばらまく。
長い鎖を両方の服の袖から降ろす。
いつもだったら、アンナに遅いと言われて、この時点で蹴られているのだが、ジェシカはこれが初めて。
何をしてくるのかと身構えて、見てくれていた。
空にばらまいた地面に着く瞬間、ナイフ自身が作った影に吸い込まれるように消えて行ってしまった。
千年生きてきた私よりも、精霊の扱いはマサキの方が上だ。
「相手が慣れていない、試合形式であるために初動を調整できる。これが私とだったら、もう終わってる時間でしょう」
アンナの意見は正しい。
「それじゃあ、どうしてこんな変わったスタイルになったのかしら?」
「それは……最初はユリナと一緒に普通に教えていたのですが、伸び悩んでいて、マサキもそのことを分かっていたらしく、自分であの方法を見つけてきましたね」
さて、ジェシカが沈んだナイフを警戒しているが、他に有効な武器はないと判断して歩みを進めるが、さっきみたいに消えたりすることはない。
ジェシカも思った加護が得られなくて、戸惑っているようだ。
「加速力の加護、速度は風の精霊頼りみたいですね」
「精霊使いにとって、マサキは天敵ね」
「―――――――――♪ ―――――――――♪」
勢い付けて回り出すと長い鎖が浮き上がり、先端は相手に向かう。
槍を後ろに構えてジェシカは後ろに跳ぶ。
しかし、跳んだところに後方から飛んできたナイフが迫る。
槍を片手で勢いよく回して、高い金属音を響かせてナイフをはじいた後、反対側の腕で槍を受け取る。
弾かれたナイフはまた地面に吸い込まれていった。
「いたたた……」
アンナの隣に座り込んで、試合を見ているのは先ほど派手に飛ばされたユリナだった。
ユリナはさっき槍が直撃した部位を擦っている。
「痛いだけなら大丈夫よ」
飛竜の鱗で作ってもらった防具であるため、その性能は折り紙付きだ。
「マサキは勝てそう?」
「精霊頼りだったら、ですね。実力があるなら、マサキが勝てる要素はありません」
厳しい意見ではあるが、力に枷をかけている時点で、いつもよりも芸に近い部分になっている。
だから、マサキの精霊の扱いよりも、ジェシカの実力が上だった場合、マサキに万が一に勝てる要素はない。
マサキは振り回している鎖の先端が急に燃え出す。
見えない人には急に燃え出しているように見えるが、炎の精霊を纏わせているだけなのだが。
そして、ただ振り回しているだけじゃない。
歌に合わせて、精霊たちも調子付く。
ジェシカも、ただ見ているだけに終わらない。
受け身になっていたらいけないと思ったのだろう。
靴に合ったのだろう、加速力の加護がないから普通の速度で前衛姿勢になり、マサキの方に突撃していった。
マサキも向かってくるジェシカに対応するように鎖の速度を調整して、当てるような動きをする。しかし、ジェシカも分かっていたのか滑り込んで鎖の下を通っていく。
鎖を受けたら、そのまま槍に巻き付けて身動きが出来なくなってしまうから、受けないのはさすがだ。
鎖が通過したところで、姿勢を戻していると、地面と槍の穂先が凍り出す。
徐々に凍り付いてくる槍に一つ避けても、もう一つの鎖が迫ってくる。
凍り付いていく槍を無理やり持ち上げて、曲芸のように体を持ち上げて、そのまま前宙の要領で飛べば、槍は凍り付き、マサキの鎖が両方勢いよく絡み着いた。
空中に浮いているジェシカが槍に向かって手を伸ばす。
「来い、レーデヴァイン」
そう言うと、氷の中にある槍が動き出して、頂点を割って出てくる。
「へぇ……やるわね」
私が関心していると、跳んできた槍をキャッチしながら、その勢いに引っ張られるようにさらに空中で一回転。
そして、そのままマサキの背後に着地した。
マサキの鎖はまだ氷に巻き付いたまま。
戻す暇はない。
ジェシカの四方からナイフが現れるが、槍を回すのと、重心の移動で一つずつ丁寧に処理される。
逃げ出そうにも自分で仕掛けた鎖が邪魔で逃げられない。
ジェシカが軽く槍でマサキの肩を叩いた。
「勝者、勇者ジェシカ。今回はマサキの自爆みたいなものだけどね」
謝辞
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