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美少女吸血鬼の領地経営  作者: ベニカ
来訪者編
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五十話 吸血鬼レティシア・フォン・スカーレット

「私は王国、帝国にある異世界人を召喚する神造兵装を壊すために来たの」

「ほう、おもしれー話だな」


 私の話に一番反応したのはずっと暇そうにしていたガレオンだった。


「とはいっても気の長い計画だけどね」

「どうしてでしょう? 私たちの力があれば、王国も帝国も取るに足らない戦力でしょう?」

「無理な理由があるわ」


 私たちの力であれば、敵を倒すことは可能だ。

 敵の兵など取るに足らないものだ。

 けど、それだけじゃない。


「一つ、敵の戦力に不明瞭な点があるところ」

「どういうことだ?」

「どれだけ二ホン人とかが来ているか分からないのよね」


 マサキだけよく分かってない顔をしているのが可愛らしい。

 説明しようと口を開くと、リニアが手を上げた。


「あの……その話、私が聞いててもいいのでしょうか?」

「構わないわよ」

「私が……その密告とかする可能性もあると思いますが……」


 考えないわけでもない。

 だけど、彼女はしないだろうと思っている。


「リニア、あなたはしないし、出来ないわ」

「……」

「どして?」


 俯いたリニアに対して口を挟んできたのは、マサキだった。

 簡単に説明してもいいのだけど、ちゃんとこの二人には伝えておこう。


「彼女はカーディル・リール・ダードが犯した罪によって、追われてる身よ。その身を出せば、即刻処刑されるわ」

「え、それヤバいじゃん!」

「だったら、私たちがその女共々レティシアのこと密告したら?」

「あなたたちは二ホン人であなたたちも見つかれば王国から迎えが来るでしょうね。そしたら、またその舌を抜かれて、目もえぐられた場所に戻るだけよ? それでもいい?」


 そう伝えると、ユリナが黙った。

 ユリナはマサキのことを気にかけている。

 牢の中での生活がどれほどのものだったか、分からない。

 けど、それほど報いなければならない働きをマサキは知らないうちに、よく考えもせず、自分よりもユリナのことだけ考えて、行っていたのだろう。

 ユリナがリニアを許せない、それも分かる。

 だけど、事はそう簡単には行かない。

 あと、ここにいる人物がそれぞれ王国に見つかれば、良くないことが多いというのもある。


「それにリニア一人の問題じゃないわ。リニアの子供にも捜索がかけられている。ここまで来ないのは私がアユムに頼んであるから」

「いやいや! 言わないって! ね、ゆりな」

「……お人好し」


 私もユリナの意見には同意する。

 アユムには頼んであるが、脅し半分、嫌がらせ半分だけど。


「さて、話を戻すわ。ええっと、何だっけ、あ、どれだけ二ホン人が来ているか分からないってことね」

「はい、召喚されたのは彼女たちだけではないのでしょうか?」


 アンナが聞いてきたが、そう言えば話してなかったかしら。

 色々と話しているようで抜けていることがあるかもしれない。

 従者たちには絶対の信頼を置いているから、やっているものだとばかり思っていた。


「違うわ。もっと多くいるわ。百か二百か見当もつかない」

「それぐらいなら――」

「そして、全員がもれなく神様からの授かりもの(ギフト)をもらってる」


 それが厄介だ。

 相対したときの相性もあるだろうが、マサキとユリナであれば、マサキなどは特に相性が悪い。

 彼女の作れる七色の空間。

 あれほど人知を超えた力を何十人と相手するのは骨が折れる。


「おもしれぇな、相手にとっては不足ねぇ」

「頼もしいわね、ガレオン」

「人間界だと相手になりそうなやつがいなかったからな」


 そう言ってくれると頼もしい。

 さすがは私の信頼する従者の一人。


「相手にするのは骨が折れそうですな。レティシアお嬢様、他にも理由が?」

「ええ、そうね。あともう一つ、召喚する神造兵装の場所が分からないのよね」


 部屋の中が静かになった。

 分かるわ。

 途方に暮れているのだろう。


「は? え? それでどうやって壊そうとしてたの?」


 ユリナが一番最初に声を出した。


「王国のなら、簡単に見つける方法があるのだけど、帝国のはどうしようかまだ思いついてないわ」

「それでよくあんなでかいことが言えるね」

「目標があれば、自ずと道が見えてくるものよ」

「相変わらずすごい自信」


 ユリナがお茶に口を付けた。

 王国か、帝国か。

 天秤は水平だった。

 だけど、どうして王国に傾いたのか。


「王国か帝国、入りこめたところを後にして、入り込めなかった方を先に壊してしまおう。最初からその考えは変わってないわ。ただ、どうして王国を選んだのか」

「テキトーじゃないんだ」

「真咲じゃないんだし、当たり前でしょ」

「帝国は女性の立場が弱かった。男性主体だったのよね。最近は女性だけの騎士団も設立されたみたいだけど、まだまだね。同じ騎士団、その上からは睨まれていて動きにくそうだから、私が行っても同じように動きにくさを感じるだけだと思ったわ。王国も男性が主体であるが、それでもアユムも陛下の側に使えている。そのおかげで女性の立場も悪くない。動くには都合がいいのよ。だから王国を選んだ」


 あとアユムには興味あったがそれは言わなくてもいいだろう。


「王国側の召喚する神造兵装は問題ないわ。アユムが子供を産んで、アユムはその後死ぬらしい。そして、私はその子供の世話を任されている。悪いけど利用させてもらうわ」

「それ、可哀そうじゃない?」


 口を挟むのはやっぱりマサキだった。

 彼女なら止めるところだと思っていた。


「ええ、可哀そうね。けど、これが最善で、私は魔族。人を利用することなんてこれが初めてじゃないわ」

「殺したりは……しないよね?」

「確約は出来ないわ。けど、殺さなくてもいいなら、積極的には殺さないわ」


 そっかと安心したような息をマサキが吐いた。

 人のことばかりね、マサキは。


「それでどう利用するの? レティシアのことは警戒されるんじゃないの?」

「問題ないわ。私も魔族、それに吸血種は獲物から吸血するために軽い催眠がかけられるの。夢魔種とかに比べたら、稚拙なものだけどね」

「すごっ! え、レティって吸血鬼じゃん」


 また言われた。

 アユムもずっと忌々しいキュウケツキだと言っていた。

 二ホン人にとって、それほどの存在なのだろうか。


「キュウケツキってどういう事かしら?」

「何だっけ? 悪魔的な奴?」

「全然違う。私も詳しく知ってるわけじゃないけど、私たちが吸血鬼って言って思い浮かべてるのがドラキュラっていう吸血鬼なの。吸血鬼ドラキュラ、これ自体は創作で作られたものだけど、ドラキュラっていうのにはモデルがいる。名前は忘れたけど、串刺し公って言われた人。まぁ、なんか酷いことしてそう呼ばれた人らしいわ」


 知らない土地の知らない創作の話。

 そして、歴史。

 曖昧な部分はあるけど、面白い。


「代わりに説明してあげたのに、何よ、その目」

「いや、引くほど詳しいと思って」

「別に私だって、テレビで見た聞きかじった知識だし。心霊特集、夏によくやってるでしょ?」

「全然」

「え?」


 二人の地元話に発展したけど、串刺し公か。

 そこから血を吸うもの、か。

 キというものがどういうものか分からないが、響きはいい。

 そこは二人、ユリナに聞いてみましょう。


「いいわね。その話を聞いて気に入ったわ。これから私は魔族の吸血種ではなくて、吸血鬼を名乗りましょう」


 地元話をしていた二人がこちらを向く。


「怖いけど、カッコいい!」

「あっさり決めちゃうし」


 従者たちの方を向く。


「どうかしら?」

「似合っていると思いますよ」

「お嬢様にピッタリです」

「いいんじゃねぇの?」

「レティシアお嬢様の御心のままに」


 そう答えてくれたので、これからはそう言う事にしておこう。

 キュウケツキ。

 どういう字を書くのかしら。

 楽しみだわ。


「帝国にはどういう風にするのでしょうか?」


 アンナが聞いてきたが、今は何も考えてない。

 けど、大きく事態が動けばどうにかできないこともない。


「戦争でも起きて、帝国が滅んでくれたら話は簡単なのよね」

「超物騒じゃん」


 そうそれは夢のような話。

 そんなことはしばらく起きないだろう。

 休戦協定もある。

 だから、叶うはずのない願望だ。


「私たちが死ぬまでに、それと歩夢の子供が死ぬまでに達成できるの、それ?」

「達成できないなら、達成できるまで待つだけよ。私たちの時間は永久に近いのだから」


 ユリナが席を立ち、マサキもそれに続く。

 リニアも続いて出て行けば、残るは私の従者たちのみ。


「まだしばらく私の気の長い計画に付き合ってもらうわね、あなたたち」


 私がそう訊ねれば、四人の従者たちはそれぞれ受け入れる言葉を答えてくれた。

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