四十九話 明かされる目的
鯨討伐から十数日。
雪はどんどん降り積もる。
どうして雪兎が村の方まで来ていたのか、レティが説明してくれたのだが、鯨の数が足りなかったとかなんとか。
鯨の好物が雪兎で、雪兎が鯨が降らせる魔力が籠る雪。
そして、なぜだか来る鯨の量が少なかったせいで雪兎が増えすぎて、村の方まで来てしまっていたとか。
そんな説明をされたが、ゆりなは納得していたが、私にはさっぱり分からない。
そして、この雪、自然現象ではないんだなってのがすごい。
これ全部あの鯨が潮で出してるものだっていうのだから、意味が分からない。
さすがファンタジー世界、何でもあり。
「それで私たち何でここにいるの?」
今はレティの執務室にみんな集められていて、アルフレッドさんがお茶を用意してくれている。
レティの従者さんたち四人に、アタシとゆりな、それにリニアさん。
リニアさんが一番困惑している。
「特に意味はないわよ?」
レティが何かの書類に目を落としながらそう答える。
てか、いつも執務室に来ると何か書類を片付けていたりするのだが、そんなに仕事があるのだろうか。
まぁ、私に手伝えることがないから、見てるだけなんだけど。
「……これ飲んだら、もう寝るから」
ゆりなが目をこする。
もう眠たかったのかも。
「私の方も……?」
対面に座るリニアさんがそう聞けば、
「急ぎはないわ。報告は一件、氷の季節が過ぎたら、この屋敷の近くに一件、あなたと子供たちの家を建てることになったわ。それと思い付きだけど、それぐらいになったら、村の方にあなたを連れて行こうと思うのだけどいいかしら?」
相変わらず書類に目を向けたまま、なんとなしそう言う事をサラッと言ってくる。
「……はい、レティシア様がそういうのであれば」
「私はリニアの意思が知りたいのよ」
レティってあんまり貴族って感じがしない。
まぁ、人ではないから、根本的に違うかもしれないけど。
「……不安はあります。私たちのことが露見しないか、と」
「そうね」
「え、どういう事?」
バカ、と隣で小さな声をいうゆりなの声を聞いて、リニアさんの抱える事情に足を踏み込んだことに気が付いた。
リニアさんはアタシから目を逸らす。
本当に聞いちゃまずいことだった。
「ここで誤魔化しても無駄そうね、言うわよ?」
「……はい」
レティが書類から目を上げる。
「リニアはあなたたちや他の奴隷の子をイジメていた首謀者であるカーディル・リール・ダードの妻、リニア・リール・ダート、その人よ」
それ聞いて一番反応したのは、ゆりなだった。
コップを置いて、冷たい目でリニアさんを見つめていた。
「どこかで見たことあるなって思ってたけど、そう言う事だったんだ」
多分、ゆりなは怒ってる。
こんな事されたんだから、当然かもしれない。
アタシはどうなんだろう。
痛いことされたし、嫌は嫌だったけど、リニアさんのことは嫌いじゃないし、複雑。
「私は多分、あなたのこともこれから許せないと思う」
「え、なんで?」
ゆりながすごい目つきで私を睨んできた。
「あんたがそれ言う? 私の代わりにあんたどれだけ酷いことされたか覚えてないの? 服で見えないけど、その下に一生残る傷とかあるの知ってるんだからね。それに私もあんたも他の子たちも残ってるあの焼き印のことも、忘れるわけない」
服の下、背中に焼き印を押された。
無茶苦茶痛くて、死にそうだったのはちゃんと覚えてる。
レティにはちょっと特殊な魔術が込められていて完全には治せないと言われた。
あと黙っていたつもりだったし、お風呂でもうまい具合に隠せていたはずなのにどこで知ったのか。
「けど、ほら、リニアさんがしたわけじゃないし……」
「それでも! 私は、あんたが私の代わりに連れていかれてボロボロになって帰ってくるのを見ていた。私は私を許せないし、この人だって知っていて止めなかったのを許せないの!」
「リニアは知らなかったわ。私が行くまでは少なくとも」
レティがリニアをかばうように言うが、ゆりなの目付きは変わらない。
「それで、ユリナはリニアをどうしたいの?」
「どうもしない。する気もない。この人を殺してもすっきりしないだろうし、けど、許せない。それだけを覚えていて欲しい。それだけ」
「いい子ね」
リニアさんはずっと居た堪れない顔をしていて、ちょっとだけかわいそうだったけど、ゆりなの気持ちもわかるし、どっちについていいか分からなくて聞いているだけだったが、ゆりなが横目でこっちを見てきている。
すごい意味深。
「あ、アタシはリニアさんのこと、そう思ってないから! 許すとか許さないとかよく分かんないし、アタシはリニアさんのこと嫌いじゃないよ。料理できないところとか、けど、細かいこと得意なところとか凄いって思うし、アタシにも優しくしてくれるとかめっちゃいい人って思うもん!」
ゆりなは呆れたようにため息をつく。
そっちが言えって言ったことじゃないのと心の中で抗議する。
「だから、嫌わないし、多分、好きだし、リニアさんのこと」
「良かったわね、リニア。あなたのことを好いてくれる子がいるみたいよ」
レティが優しくリニアに微笑みかけていた。
「……はい。ありがとう、マサキさん」
涙を浮かべて頭を下げられると、照れてしまう。
アタシは頭良くないし、言いたいこともうまく言えないから、さっきもよく分からない感じになってたのに。
「ユリナもいいわよね?」
「私は別に。真咲がいいっていうんならいいんじゃないの」
ゆりなが言うと、満足そうに微笑み、書類をどけた。
「それじゃあ、みんないることだし、私がなんでこんなところの領主をしているのか本当の目的を伝えるわ」
「意味はないって最初に言ってたじゃん」
ゆりなの言葉は無視されて、レティが続けて言葉を紡ぐ。
「私は王国、帝国にある異世界人を召喚する神造兵装を壊すために来たの」




