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美少女吸血鬼の領地経営  作者: ベニカ
来訪者編
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四十五話 雪兎狩り

 暖炉のあるリビングルームでゆりなと二人ソファに座ってくつろいでいた。

 外は雪で真っ白。

 気温も下がり、下手な格好で外に出れない。

 フィリーツ領は冬に包まれていた。

 食後に入れてもらった紅茶は品種は分からないけど、飲みやすい。

 あんまり紅茶って飲んだことがないけど、アルフレッドさんが入れたものはどれも美味しくて、ついついおかわりまでしちゃうぐらい。

 暖炉に揺れる火を眺めていると、自然と眠気もやってくる。

 隣に座っていたゆりなは私に体を預けていて、目も虚ろになっている。放っておけば、知らないうちに眠ってしまいそうだ。

 ゆりなは夜遅くまで起きていられないと言う事を言っていた。

 日本にいた時は、夜更かしもしていて寝るのも深夜だったとか。

 けど、ここに来てからは体の方に引っ張られているのか、そこまで起きているのが無理だと言っていた。

 私があまり変わりないのは日本の時と年齢の誤差が少ないからだろうか。

 よく分からない。


「あら、ここにいたのね」


 そう言って、レティと他の従者の人たちが入ってきた。

 ガレオンさんや、アンナさん、アルフレッドさんとはそれなりに話せるようになったのだが、マリアさんだけずっと塩対応。

 他の人たちにも同じように対応しているのだから、それがデフォルトかもしれないけどもうちょっと仲良くなりたいと思うんだけど、距離を詰めさせてはくれない。

 レティが豪華な椅子に腰を掛けて、両脇にはマリアさんとアルフレッドさん、私達の隣にそれぞれ椅子を持ってきて、アンナさんとガレオンさんが腰掛けた。


「明日、雪兎狩りをするわ」

「え、こっちにも兎がいるの?!」


 私の声があまりにも大きかったのか、舟を漕ぎ始めていたゆりながびっくりして跳ね起きた。


「びっくりした……」

「ごめんごめん、それで兎がいるの? マジ?」

「いるわよ。群れから離れた個体だったけど、屋敷から見えたから」


 猫とか犬とかあまり見かけないから、そう言う動物がいないと思っていたのだけど、しっかりいるじゃん。

 レティに言えば一匹位飼ってもいいかなー。

 

「お嬢、こいつ分かってねーぞ」

「そうねぇ……けど、こればっかりは見てもらった方が早いんじゃないかしら」

「えー? 兎でしょ? さすがに分かってるってー」


 ガレオンさんは喉を鳴らして笑い、アンナさんは呆れた様なため息を吐く。


「それで、何で私たちに?」


 ゆりながそう聞いた。

 明日はいないから、留守は任せたと言う事だろうか。


「そんなのユリナとマサキにも来てもらうからよ」

「え、なんで?」

「あなたたちの神様からの授かりもの(ギフト)の実践練習も兼ねてるからよ」


 レティって意外とスパルタなような気がする。

 神様からの授かりもの(ギフト)のために私をマジで殺してきそうになるから、意外でもない気がしてきた。

 優しいスパルタ教師レティシア様だ。


「けど、兎でしょ? 兎でそんなの使う必要あるのかなー?」


 今一ピンと来ない。

 だって、そんな危ない生き物でもないだろうに。


「行けば分かるわ」


 その言葉を翌日に理解することになった。


 ▼


「あれが兎って聞いてないんですけどー!!」


 雪山にはマサキの声が響く。

 昨日はあんなにも乗り気でいたのに、今はもう泣きそうな声になっていた。


「だから、あれが兎よ」


 雪兎。

 小型で氷の季節に活動をする魔物の代表だろう。

 微かに放電現象を起こしている額に生えた角、口から飛び出た牙、鋭い爪に白い体毛に覆われていて、魔物であるためにしっかりと体内に魔石を有している。

 牙も爪も軽々と人の皮膚を裂き、群れで襲われた場合は食い殺されるなんていう事態も起こりうる。

 雑食でよく食べ、増えるスピードも凄まじい。

 今降っている雪、これもある魔物が降らしていて、魔力が微量に含まれている。

 それを主食にしていて、山の方にいるのだが、何故か今はこうして村に近い森のところまで降りてきてしまっている。

 村にまで入り込んだら、事だ。

 駆除するしかない。


「お嬢、普通にやってもいいんだな?」

「いえ、角は欲しいわ。折らないようにして頂戴。魔石も確保しておいて、また売るわ」

「他はいりますか?」

「いいえ、肉も屋敷で消費できる分でいいから、終わってから回収したらいいからね」


 それだけ伝えたら、四人の従者たちはそれぞれの獲物を手に森の中を進んでいく。

 彼らにとっては狩りではなくて、一方的な虐殺に近い。それも本気を出すまでもなく、二割程度の力で、だ。

 ショックを受けているのかいまだに立ち直れていないマサキに目を向ける。


「マサキ、精霊に頼んでどこまで雪兎が来ているのか調べられないかしら?」

「え、そんなこと出来んの?」


 私がやるよりもマサキの方が適任だ。

 私が彼らに頼んだ場合、対価を要求されるが、マサキにはそれがない。


「出来るかどうかは分からないけど、あなたが頼めばやってくれるのでは?」

「えー、じゃあ、やってみる」


 そう言ってマサキが精霊に呼びかけると精霊は地面に入っていった。

 そして、微かな振動。

 揺れたかどうかも分からない振動だ。

 私の感覚が鋭いから分かったぐらいで、普通は感じられないほど。


「村の方は行ってないっぽい。けど、この向こう」


 私たちの進行方向を指差す。


「この向こう側、めっちゃいるんだけど。ヤバいほどいっぱいいるんだけど」

「それなら尚更ゆっくりしているわけにもいかないわね」


 私たち魔族は過酷な環境で過ごしていたせいもあってか、寒さや熱さに対しては耐性がある。水分や食料がなくても、百年だと見た目も変わらず、楽々と生きていける。

 それに対して人間はか弱い。

 この雪山だって、長く居続ければ体温は低下して、凍傷になることもある。

 熱さに対しても、火の季節で原因不明で倒れてそのまま死ぬケースもあるぐらい体の構造が、私たちに比べて遥かに弱い。


「さぁ、早く行くわよ。こんな雪の森で一夜を過ごしたくはないでしょ?」


 従者たちの足跡は扇状に広がり、それぞれ森の深くに進んでいるようだ。

 私たちはまだ足が踏み入られていない、真っ直ぐな道を行くことにした。


「ちょ、ちょっと待ってって」


 雪に足を取られながら、二人が付いてくる。

 森の中から地面を叩きつけるような音が複数聞こえ始めたと思ったら、誰かが森の中を駆けまわっているのかのように響き渡った。


「危なくなったら助けてあげるわ」


 藪の中から飛び出してきた雪兎の角を掴む。

 少し痺れるが行動に支障はない。


神様からの授かりもの(ギフト)を使いこなしてみなさい」


 雪兎の首をはねると、雪兎たちが怒ったように様々な場所から唸り声が聞こえてきた。

 魔石を取り出して、顔を二人の方を向けた時だ。

 二人が挟まれるようにして、雪兎十数匹が襲い掛かるところだった。

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