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美少女吸血鬼の領地経営  作者: ベニカ
来訪者編
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四十四話 日常の変化

 ここに来てから、ドレスではなく、動きやすいワンピースに着替える。

 侍女たちがやっていたように子供たちが食べれるようにテーブルを拭いて、お皿を用意していく。

 料理はいつも、アンナさんが持ってきてくれる。

 作っているのはアルフレッドさんらしいというのは聞いた。

 レティシア様が言うように私達が別の屋敷に移ることになったのなら、誰がご飯の用意をしたらいいのだろう。

 私が?

 無理だ。

 料理の前に、調理場に立ったこともない。

 先のことは不安しかない。

 そうして、お皿を並べ終わり、あとは料理が運ばれてくるのを待つだけ。

 その前に子供たちを起こしてこないといけない。


「子供たちを起こしに行く前に出会えてよかったわ」


 レティシア様が入ってきた。

 その後ろには一人の少女。

 片方は金色、もう片方は七色に変化している変わった子。

 日の当たり方で、変化する瞳何て初めて見た。


「えっと、何の用でしょうか……?」

「この子にあなたの手伝いをさせようと思って連れてきたの」


 見たことがない子だ。

 警戒心はある。

 私のことはいいが、息子のことを外部に告発されてしまうのではないか。

 そう思うと、レティシア様が連れてくるのだから大丈夫と言っても身構えてしまう。

 レティシア様が少女の背を押して、目で何か言うように合図した。


「あ、関口真咲って言います。よろしくお願いしまーす」


 そう言いながら、腰を折る。

 セキグチマサキ。

 変わった名前だ。


「マサキでいいわよ。リニア、好きに使っていいわ」


 好きに使っていいと言われても、どうしていいのか分からない。

 ここ十数日でようやく一人で子供たち相手にすることに慣れてきたのに。

 

「使い方は慣れていくといいわ。マサキ、リニアの代わりに子供たちを起こしてきてくれない? 私は少し彼女と話したいことがあるから」

「りょ!」


 そう言って、勢いよく出て行ったと思ったら、数秒後に戻ってきた。


「ごめん、部屋聞いてなかった」


 恥ずかし気に頬をかきながら言う彼女に思わず、頬が緩んでしまった。


「奥の二室です」

「今度こそ、りょ!」


 彼女が出て行ったのを確認して、レティシア様がこちらを向いて口を開いた。


「マサキもカーディルの被害者の一人よ」

「――っ!」


 言葉に詰まる。

 どうして、そんな彼女を私の前に連れてきたのか。

 子供たちだけでは足りないという事なのだろうか。


「私もあなたのことを責めるために連れてきたのじゃないの。あの子に村で勉強教えるか、こっちで子供たちの世話するかどっちがいいか選ばせたら、こっちを選んだのよね」

「そう、なんですか……」


 思わず、顔を伏せてしまう。

 

「あの子はあなたを責めないわよ。あなたがカーディルの妻で、ここにその子供がいると知っても、マサキは態度を変えたりはしないわ。あの子は優しくて、自分で思ってるよりも器が大きくて、あなたのことも許してくれる」


 廊下から子供たちの声に混じって、マサキさんの声も聞こえてきた。

 私が子供たちに心を開いてもらうのに時間がかかったのに、こんなにあっさりと受け入れられてるなんて、ちょっとだけ嫉妬してしまう。


「いう気になったら、マサキには言ってみなさい」


 レティシア様が出て行こうとしたところ、扉に手をかけて止まった。


「もう一人いるの、ユリナって子が。けど、今はあなたと顔を合わせない方がいいかもしれない。ユリナは、ちょっと気難しいところがあるから」

「……分かりました」

「私はリニア、あなたを責めていないわ。マサキもきっとあなたを責めない。だから、そんな暗い顔をしていては子供たちが不安になるわよ?」

「え?」


 思わず、顔を向けてしまった。


「笑顔、忘れないで。笑顔の方があなたに似合うし、子供たちも笑顔になるわ」


 それだけ言うだけ言って、レティシア様は出て行った。

 それと入れ替わるようにマサキさんと子供たちが入ってくる。

 部屋の静寂はどこかに吹き飛び、子供たちの元気な声で部屋が一気に明るくなった。

 子供以上に大きな声を上げているのはマサキさんだが。


「リニアさん、次、何したらいい?」


 ニコニコとこちらまで笑顔になりそうな顔で聞いてきた。

 いつかちゃんと彼女に伝えよう。

 それが私本位の罪滅ぼしだとしても。


 ▼


 レティシア様が知らない子供を連れてきた。

 私の子供と変わらない年頃の黒髪の女の子。


「サリーとソーニャの勉強、今日からこの子に見てもらうことにしたわ」


 言われた瞬間、ソーニャと思わず目を見合わせてしまった。

 無理。

 その二文字が思い浮かんだ。


「む、無理じゃないですか? だって、私と子供と同じぐらいの子がそんな」


 それにレティシア様ならともかく、普通の子供に教えてもらうのはなんというか羞恥心が湧き上がってくる。


「勉強なら私よりも出来るわ。ね?」

「程度によるよ、さすがに」


 年に見合わず落ち着いている気がする。

 というか、外見の年齢が合っているのか疑問に感じるレティシア様との応答だ。


「斎藤ゆりなです。よろしくお願いします」


 丁寧に頭を下げてきたので、思わず、


「サリー・スタット、です」

「あ、あ、私、ソーニャ・トロンですっ!」


 二人で頭を下げることになった。

 疑問ばかり浮かんでくる。

 屋敷で十人以上の子供を預かっているのは聞いたが、そこにいた子なのだろうか。

 村ではどんな子供たちか、憶測が出回った。

 レイが攫われたせいもあるけど。

 奴隷や、逆に攫ってきたとか、根も葉もないことだ。

 私も信じたわけではないけど、もしかして、もしかしてだけど、この子は貴族の娘だったのかもしれない。

 だから、勉強も出来る。


「え、っと」

「ユリナでいいわよ、ソーニャ」

「あ、はい。えと、ユリナ……ちゃん……様?」

「いや、私はそんな偉くないから」


 やんわりと否定された。

 疑問ばかり浮かんでくる。

 レティシア様の方を向けば、察してくれたように口を開いた。


「ユリナは貴族でもないし、王族でもないわ。だから普通に接してあげて」

「あ、はい」

「腑に落ちないこともあると思うわ。けど、みんな揃ったらきちんと説明するわ。私にはそうする義務があるからね」


 レティシア様はあまり秘密を作らない。

 普通の貴族が言わないことも、ちゃんと私たちに説明してくれる。

 だから、勘違いしてしまうのかもしれない。

 これが普通なのだと。

 この距離感が正常なのだと。

 実際は逆なのだ。

 レティシア様が近すぎて、異常なのだ。


「それじゃあ、今日も勉強を始めましょうか。ユリナお願いね」

「はいはい、えっと、今までどんな事をやっていたの?」


 そして、青空の下、今日も勉強会が始まる。

 レティシア様が言うように、ユリナさんの教え方は上手かった。


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