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美少女吸血鬼の領地経営  作者: ベニカ
来訪者編
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四十二話 帰還方法

「ただし、マサキ。あなたが望んだときに戻るのは不可能よ」


 分かっていたことだ。

 彼女たちは無理やりこちらに連れてこられただけ。

 だから、帰りたい。

 故郷が滅んでいるわけでもなし、帰る手段もそこにあるはず。


「ちょ、え、何で?」


 嘘をついても彼女は分からないだろう。

 それでもいい気がするが、ここはちゃんと事実を伝えるのがいい。

 それに嘘は破かれた場合、信頼関係に深刻な不具合を生じさせるから。


「まずは説明させて」


 身を乗り出しかけていたマサキが席に着いた。


「この世界にあなたたちを召喚した、多分、神造兵装。それをどうにか逆転させる使用方法があれば、こっちに召喚するのではなく、向こうに召喚させることが可能だとは考えられるわ」


 マサキが首を傾げるが、ユリナは理解してくれているような顔をしている。


「どうにかって分かってないから無理ってことじゃない?」

「それは違うわ。それよりも別の問題で戻すことが不可能なのよ」


 これは、私たちの世界の技術と知識の問題でもある。

 異世界から人を持ってきて楽をしてきた罰でもあるのだが。


「まず、その召喚する神造兵装が使いこなせてない。そして、もう一つは、この大陸の情勢もあって確認の仕様がないから、私の憶測になってしまうけど、あなたたちを召喚した神造兵装は不完全な形になっていて、機能の一部が死んでいる」


 これを思いついたのはユリナの姿を見てからだ。

 彼女は見た目の年齢よりも明らかに落ち着いている。

 村で教えてるサリーの子供よりも少し年上程度の子がそこまで落ち着いていられるだろうか。

 あとマサキに比べて、知識がある。

 マサキも言動は子供っぽいし、知識がなさそうに見えるのだけど、色々とものを知っている。

 けど、それよりもマサキの方が知っていた。

 奴隷相応の立場にいた子がどこで学習することが出来たのかと考えた時に一つ思いついたことだ。


「神造兵装を使いこなせていない。これは私が持っているものを含めて、この世界にある神造兵装と言われるもの、全てに共通する問題だけど、制作した人間も分からず、使い方も効果も力も文献に残されていないから、全く分からない手探りの状態でやっているの」

「はぁ? え、不親切すぎない?!」


 マサキの言う通り、不親切である。

 文献とか残っていればいいのにとは良く思っている。


「え、てか、それじゃあ、アタシの目ももしかして……」


 マサキが目を覆う。

 ある意味実験に使われたことを今更分かられたみたいだ。


「目であることは分かっていた。それがちゃんと見えるものなのか、目として機能するものなのか、どんな副作用があるのかは使ってもらわないと分からないけど……あなたの目の効果は私も理解したわ」

「あはは……アタシもレティのおかげで分かったかも……けど、一個、一個だけ確認してもいい?」

「いいわよ」

「これって私たちにしか見えてない系?」

「精霊を見える人間はいるわ。けど、そうね、今ではとても希少だわ。アンナの時代にはいるかどうかおとぎ話レベルじゃないかしら」

「へぇ……そうなんだー……」


 マサキの目が周りを向く。

 そう、彼女を取り巻く大量の精霊に対して。

 私も見える立場であるが、ここまで部屋いっぱいに精霊が集まるところを見たことがない。

 しかも、まだ集まってる。


「二人で話してるし」

「いや、だって、ね、ほら、ユリナの前にもいるけど、見えてないじゃん」

「は?」

「ほらー!」


 見えない人間にはしょうがない話だ。

 そして、気になるのは精霊たちの方からマサキに対して、「オウサマー」と話しかけていることだ。

 私でも話しかけられたことがないのに。

 回収しておいた、目が入っていた殻を二人の前に置いた。


「ここに文字が書いてあるのだけど、あなたたちの世界の言葉じゃない?」


 二人が殻を転がしたり、向きを変えたりして見つめていると、


「おー英語じゃん」

「確かに」

「それで何て書いてあるのかしら?」

「kingは読める。キング、王ってことね」

「あとはす、すぴ……」

「多分、スピリットじゃない? どう訳すか知らないけど……」

「ゆりなすごっ」

「王、という事だけ分かれば大体分かったわ」


それよりも同じ話を聞いてて、分かり切っていないマサキの方が不思議でならない。


「マサキ、おめでとう。あなた、精霊の王になれたみたいね」

「はぁ? はぁ?!」


 反応が大きい。

 それも可愛らしさの一つかもしれない。

 けど、今マサキのことはこれぐらいにしておこう。


「マサキの目の力は後回しにするけど、こんな感じで分かってないことだらけなの。そして、召喚する神造兵装についての不完全なところは、そうね、召喚する人の年齢が逆行するところかしら」

「……」

「へ?」


 さっきの殻にかかれている文字を読む姿を見て、そして、それ以前からの考えを結びつけるとそうなる。


「ユリナ、あなた、元の世界だと何歳なの?」

「二十歳」

「年上?! いやいや、見えないよ」

「元のってレティシアが言ったじゃない」


 どう見ても今のユリナは二十歳には見えない。

 まだ少し大人びた子供だ。

 本当に使いこなせていないみたい。


「真咲、あなたいつ生まれ?」

「二〇〇三年だけど」

「私は一九八九年……あれ?」

「え、今二〇二二年でしょ? それで二十歳っておかしくない?」

「は? 何言ってんの? 二〇〇九年でしょうが」


 かみ合わない会話。

 この会話からまた一つ出来ない可能性が積みあがる。


「マサキとユリナ、来た時代が違うってことでしょ。召喚する神造兵装で時代の設定が出来ている……とは言い難い。そして、人を選んでとも言い難いわね。あなたたちよりも優れた人間はいるのよね?」

「当たり前っしょ。アタシ普通の進学校で成績真ん中ぐらいだし」


 それがどれくらいのものか分からないけど、ユリナの反応も薄いことだから低いことではないけど高いことでもないという風に理解しておこう。

 それにしても、知らない単語ばかり出てくる。

 もっと詳しく知りたい欲が出てくるが、今はとりあえず抑えなければならない。


「それなら、年代も人も選べない召喚する神造兵装であなたたちは運悪くこちらに選ばれてしまったと言う事。そして、年齢も逆行するおまけまでついていた。では、逆にあなたたちのところに帰るようにするとき、どうなるか」


 マサキは固唾を飲んでこちらの言葉に耳を傾けているが、ユリナはあまり興味がないようだ。


「こちらに来た直後に戻れるのを神に祈りながら戻るしかなくなるわね」

「えぇー……」

「だって、そうでしょ? あなたたちだけでも、十年近く離れているのだから。一年以内に戻れるならよし、十年もしかしたら百年以上前に戻される可能性もあるのよ」

「百年前……百年前の日本って」

「まだ戦争中ね」

「マジかー……」


 百年前は戦争中。

 なら今はもう終わったことなのだろう。

 平和な時代を生きてきた子たち、か。

 ちょっと羨ましい生き方をしている。


「どこの時代に飛ばされるか分からない。そして、チャンスは一度。一度帰ったら、再度こちらに呼び戻す手段がないからね。やってみる価値はあるわよ。私はお勧めしないけど」


 マサキの目が左右に動く。

 そして、ユリナに目が行き、じっと見つめる。

 ユリナは不快そうに顔をしかめるが、マサキには関係ないらしい。


「……やめとく。アタシ、運悪いし」

「賢明ね。それじゃあ、ユリナの方はどうなのかしら? 何かしたいことがある?」


 暗い闇で濁ったような瞳をしている。

 この目はよく知っている。

 私の同胞、私を恨みを持つ者がしていたもの。


「復讐」


 短くそう切り捨てる。


「私を呼んだこの世界に。私たちにこんなことしたこの世界に。まずはこの国に復讐したい」


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