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美少女吸血鬼の領地経営  作者: ベニカ
来訪者編
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三十九話 領主の覚悟

 帰ってきた息子のレイを遠くから見つめる。

 いなくなってから数日、村や近くの森などを他の人たちと探し回っていた。

 レティシア様たちも最初は一緒に探してくれていたのだが、途中から行動を別にすることになった。

 それに対して、少しばかり不満は向いた。

 どうしてこんな時に勝手なことが出来るのだろうかとか、やはり貴族の戯れに過ぎなかったのかとかいう声も聞こえてきた。

 そして、ある日の早朝、ドアをノックする音で起こされた。

 ドアの向こうにいたのはレティシア様と抱きかかえられている傷だらけのレイ。

 レティシア様が私にレイを引き渡してくれたので、優しく抱きしめる。

 良かった、本当に良かった。

 抱き締めて、傷ついた息子の体をゆっくりと撫でる。

 私の声が聞こえたのかエリックが起きてきた。

 そして、私ごとレイを抱きしめた。

 私たちは安心して自然と涙が出てきた。

 見つからないかと思った。

 もうこの子には会えないかと思った。

 だけど、こうして再会できたんだ。

 レティシア様は何も言わない。

 そして、涙も止まった時、まだそこにレティシア様はいて、私たちを優しく見つめていた。


「ありがとうございます、レティシア様……このご恩は必ず」

「いいえ、ごめんなさい」


 私が謝るとレティシア様が頭を下げた。

 貴族が平民に頭を下げる。

 それだけで異常事態だ。


「あ、頭を上げてください! 私達に頭を下げるなんて……!」

「そ、そうです。レティシア様! 頭をお上げください!」


 私達がそう言うと、レティシア様は泣きそうな、だけど口元には笑みを浮かべて顔を上げた。


「ありがとう、二人とも。けど、あなたたちには謝らないといけないの」


 エリックと見合わせる。

 何を謝らないといけないのか、私達にはさっぱり理解出来ない。

 こうして探して、見つけてくれたのはレティシア様じゃないか。


「本当はもっとその子を早く助け出せたはずなの。どこにいるのか途中から見当もついてたわ。だけど、私は私情を優先してしまったわ。領主失格ね」


 そんなことはないと口を挟もうとしたが、レティシア様に止められた。

 どうして止めたのだろうか。

 もしかして、ここを去るとか言い出すのだろうか。


「私、最初に言ったわよね。私の領民である貴方たちは私が必ず、何があっても、どんな暴力や脅威からも守ってあげるって」


 確かにそう言ってたような気がする。


「守れていなかった。もう少しで失ってしまうところだったわ。私が私情を優先したせいで」


 一度伏せた赤い瞳には、強い光が宿っているように見えた。


「私は裁かれることはないけど、その子の傷は私の罪よ。だから、あなたたちにここで誓うわ。私、レティシア・ヴァリアス・アドガルド・フォン・スカーレットは領主になる。もう二度と、あなたたちだけじゃないわ。領民全員をどんな暴力や脅威から守って見せる」


 そう言って、レティシア様はドレスの前を裂けば、その下の皮膚まで裂けていた。

 悲鳴が出そうになったが、息を呑む音しか出なかった。

 裂けた皮膚の下から綺麗な宝石が見えた。


「私が領主に相応しくないと思ったら、この魔石を私から取り出しなさい」


 魔石。

 あの飛竜の中にあったらしいものがそれなのだろう。

 魔族や魔物の核だとレティシア様が言っていた。

 それがあるってことは最初に言っていたように、やはりレティシア様は魔族なんだと再認識した。


「これが私の覚悟よ」


 レティシア様の強い光は決意。

 そして、覚悟。

 受け止めるには重たい。

 ただの平民の私がそんなことをしてもいいのだろうか。

 していいわけない。

 そんなことをしたら、私達一家処刑されてしまう。


「あなたたちの手を汚させたりはしないようにするわ。あぁ、後その子、大きい傷はないから安心して。それじゃあ、私は行くわね」


 そう言って、レティシア様は屋敷の方に歩いていった。


「レティシア様って貴族なんだよね……?」

「男爵って最初に言ってたじゃないか」

「そうよね……」


 エリックに言われて、そうだったと気が付いた。

 けど、それにしても私が知っている貴族とは違う。

 普通、平民の私たちにあんなことは絶対に言わない。


「レティシア様って、貴族なんだよね……」


 貴族とは思えない振る舞いだ。

 飛竜の解体にしてもそうだ。

 それにいつもの子供や私たちに対しても勉強もそうだ。

 私たちを使うのが貴族の仕事で、一緒にやるのは貴族の仕事ではない。

 

「あの人は普通の貴族じゃないな」

「そうよね」


 エリックもそう思ってくれていて安心した。

 私だけ変な感覚になっているかと思った。


「ただ、さっきのレティシア様になら付いていきたい、そう思えた」

「それは私も」


 まだ眠っている息子を抱き上げて、寝室に向かった。 

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