三十六話 新たなる住人
ポートリフィア領領主を私が断罪した二日後、正式に国から発表となった。
そして、ポートリフィア領は一気に混乱の渦中となる。
ポートリフィア領領主カーディル・リール・ダード、それに繋がっていた商会二人への処刑執行。
ポートリフィア領領主についてはその妻リニア・リール・ダード、息子のダニー・リール・ダードも処刑の予定であるが、現在行方不明であるため、捜索中であり、発見または消息の情報提供者には金貨が支払うことが伝えられた。
私のところにも処刑のこと、二人のことを知っていれば情報提供する旨の手紙がアユムより届いていた。
執務室の机にその手紙を置いて、正面に座る女性に声をかける。
「だそうよ。リニア」
「はい……」
目の前にいる女性リニア・リール・ダード、ご本人。
顔のパーツはそれぞれ小さく可愛らしいのだが、垂れさがって困っているような眉や口角の下がった口等幸薄そうな感じがする顔立ちをしている。幸薄い印象だけど、印象だけどこの子の中にはしっかりと意思があるのを私はもう知っている。
ポートリフィア領領主を断罪した後、この子たちがいる部屋に向かうと、子供を抱きしめて私をしっかりと見つめてきた。
「あなたがカーディルの妻かしら? それでそっちが子供?」
「そうです」
しっかりと抱き締めている彼女はやはり母親なのだろう。
その強さがこちらにも伝わる。
「あなたここにいたら処刑されるわよ」
「分かっています」
「生きたいと思わないの?」
「……っ」
それは残酷な質問だ。
せっかく死の覚悟をしていた人間にそう問いかけるのは。
「私が保護してあげるって言ったら?」
「無理です、絶対に」
「出来るわ、私これでも領主やってるもの」
「え?」
私の見た目だけで見たら、年下に見えるだろうし、こんなところを平気で歩いている時点でただの不審人物かも知れないから、見えなくてもしょうがなくてもしょうがない。
ここは許してあげよう。
「その子のことも考えた方がいいわ」
抱き締めている子供の方を向く。
まだ幼い子だ。
これから未来ある何も知らない子供。
「……分かりました。お願いします」
そうして、連れてきたのが彼女である。
ここ数日で私の家は随分騒がしくなった。
彼女を筆頭に、拉致された子供たち。
それが今私たちの屋敷で暮らしている。
村の人たちにはリニアのことを除いて、孤児を引き取ってきたこと、基本的に私たちで面倒を見るけど、もしかしたら面倒をかけるかもしれない。その時は一緒に面倒見てほしいという事を頼んだ。
近くに家の一件でも建てた方がいいかもしれない。
部屋が足りないと言う事ではない。
単純にここは他の身分の高い人たちが訪れる可能性が高く、そう言う者たちが着ているところで子供たちが走り回っている音がするのは良くない気がする。
子供だからはしゃいでいるのはいいのだけど、こちらにも仕事がある。
お互いに嫌な思いしないで済むならそれに越したことはない。
少ししたらイアルラ領の前お世話になった人たちに頼んでみようかしら。
「しばらくは外出は禁止するわ。誰があなたのことを知っているか分からない以上、ここにいてもらう。しばらくは窮屈な暮らしかも知れないけど、我慢してもらうわ」
「いいえ、分かっております。こうして命だけでも助けてもらえたので」
「分からないことはアンナかアルフレッドに言うといいわ。ガレオンとマリアは聞いてもいいけど、私はおススメしないわ」
そう言って、リニアを部屋に帰した。
机の中に手紙を仕舞う。
私の机ももっと立派なものにしようかしら。
カーディルの机は結構しっかりしていて調度品も良いものを使っていたみたいだから、少し見栄えをよくしてもいいかもしれない等と思っていたが、今はそんなことに回すお金はないと頭を振る。
私も行かないといけない場所がある。
アルフレッドが言っていたお土産だ。
しっかりとまだ確認はしていない。
その二人が寝ている部屋まで気分良く歩いていく。
ようやく平穏が訪れたのだ。
これほど良いことはない。
そして、気が付けば部屋の前まで来てしまった。
扉を開けると、二人はソファに座って食事をとっているところで、アンナが目の見えない女の子の食べる補助を行っているところだった。
「レティシアお嬢様、どうしました?」
「アルフレッドが言ってたお土産をじっくりと見に来たのよ」
そう言って、席に着くと目のところを包帯で包んでいる女の子が横に座る子を抱きしめている。
どうやら雰囲気からして警戒されているみたいだ。
「こちらは私たちの主、レティシアお嬢様です」
アンナが紹介してくれたが、警戒心は緩めてくれない。
「フィリーツ領領主をしているレティシア・ヴァリアス・アドガルド・フォン・スカーレット。爵位は男爵よ。よろしくね」
「……アタシたちにまた何かするんでしょ」
「そうね、してもらうわ」
タダでご飯は食べれない。
何もしてないのにお金は入ってこない。
それが道理だ。
「やっぱり……けど、この子に酷いことはやめてあげて。声出せないから、助けてって言えないから死にそうな位叩いたりされたりされたし……」
「そんな事しないわよ」
思わず鼻で笑ってしまった。
そんな事して何がいいのか。
尋問とか拷問とかやるべき時はやるが、この子たちにする必要はない。
「タダでご飯を食べれるわけないわよね? もちろんあなたたちにも働いてもらうわ。畑か私の補助かそれはまた後日考えましょ」
「え……? あ、うんうん、かもしんない」
誰と話しているのかと思ったが、抱き締められてる子が包帯の子に指で何かを書いて伝えているみたいだ。
ずっとそれでコミュニケーション取っていたのだろうか。
しかし、見たことない文字の書き方だ。
それに、髪色。
黒髪。
なるほど、アルフレッドが言っていた理由が分かった気がする。
だから、気になっていたことを聞いてみた。
「ねぇ、あなたたち、二ホン人かしら?」




