三十二話 八つ当たり
夜も更けて、それでもなお捜索しようとしている村人たちを家に帰した。
あまり無理をさせるわけにもいかないし、サリーとその夫のエリックに至ってはこれから森の中に入ろうとしていたから、家に押し込むようにして捜索を打ち切らせた。
私たちが代わりに森に入ろうかと思っていると、帰ってきたのがガレオンとマリアで、その脇にはぐったりとした男が二人抱えられていた。
「その男たちが?」
「あー……多分」
「まぁいいわ。屋敷に戻ったら地下に運んでおいて」
みんなで屋敷に戻って、私は一度寝室に戻る。
さすがに外での作業用の服では示しがつかないだろうから、着替えていかないと。
真っ赤なドレスを手に取る。
今日はこれにしましょうか。
私のお気に入りの色。
これから始まるはただの八つ当たり。
彼らに罪があろうがなかろうが、私にとっては小さいこと。
鼻歌を歌いながら着替えていく。
ただ私の怒りを発散されるためだけに彼らはいる。
一応建前としては、飼い主のため、王国の法を犯す者を捕まえようというのは考えてる。
建前は大事。
こういう事したらきっと飼い主様はお怒りになるだろうから。
着替え終えて地下への階段を下りていく。
扉の前にはアルフレッドがいて、私が到着すると重い扉を開けてくれた。
部屋の中には三人の従者に二人の男。
「起こして」
私がそう言うと、マリアが桶に入った水を被せる。
勢いよく水を被った二人の男がせき込んで飛び起きるが、手足を縛られているため芋虫のように体をのたうち回るように動くことしか出来てない。
「な、どこだよ、ここは!」
「てめぇら、誰だよ!」
「五月蠅い、静かにさせて」
マリアとガレオンが背中を踏みつけるとうめき声だけ残して静かになった。
聞くに堪えない声だったから思わず言ってしまった。
「私はフィリーツ領領主レティシア・ヴァリアス・アドガルド・フォン・スカーレットよ」
アルフレッドが無骨な地下室に不似合いの豪華な椅子を用意してくれたので、腰掛けて足を組む。
足元に転がる男たちを見下ろしていると、ふつふつと怒りが再燃してきた。
「貴方たち、よくもここに住んでいる子を誘拐していったわね」
「はぁ?! 俺たちが、あぐっ!」
どっちも短髪の男だから、肉付きの良い方と痩せ型で区別しようかしら。
肉付きの良い方がガレオンに踏みつけられる。
「貴方の発言は許可してないわ。それに貴方たちがやった証拠とかそういうの関係ないわ。私たちは貴方たちがやったとして話を進めるもの」
そうこいつらが違っていても関係はない。
違っていたらまたポートリフィア領に行って、次のごろつきを連れてきたらいい。
「一応、尋問もするけど、話す口は一つで十分ね。二つもいらないわ」
どっちにしようかと悩んでいたけど、決めた。
瘦せ型の方を見て、ニヤリと笑う。
「お前は要らないわね」
「何だよ!意味、うがっ!」
「だから貴方たちの発言は許可してないって、二度目よ」
マリアが踏みつけていた足を外して、片手で痩せている男を持ち上げて私の方に持ってきた。
そして、私の目の前に男を落としてその脇に控える。
「アンナ、準備は?」
「はい、出来てます」
アンナが拷問道具と火のついた鉢を持ってきてくれた。鉢には鉄の棒が何本も刺さっている。
「クソ、クソッ!」
痩せ型の男が逃げようと身をよじっている情け姿をジッと見つめる。
「マリア、足潰しなさい」
「はい、お嬢様」
そう言うと、先程よりも勢いよく踏みつけた。
「あがああああああああ!」
足を踏みつぶされる経験なんてないだろうから、盛大な悲鳴が部屋に響く。
痛みで体が丸まった。
「おい、やめろよ!」
「アルフレッド、そっちは顔を逸らさないようにしてあげなさい」
そう言うとアルフレッドが男の頭を片手で掴んで丸まっている痩せてる男の方に向ける。
私は一本真っ赤になっている鉄の棒を手に取って、無遠慮に押し付けた。
「あががが、あついあついあついあついあつい!!!」
狂ったようにのたうち回る男の姿を見て、自分が笑みを浮かべているのを自覚した。
完全に気が晴れるわけではない。
まだ足りない。
足りないけど、これはこれで楽しんでしまっている。
「だから、やめろって! 全部話す! 誰がガキを買い取ったのかも! だから、もういいだろ!」
肉付きの良い方がそう言うが、心が傾くほどでもない。
憶測であるが、買い取り先の目星は付いている。
鉄の棒を鉢に戻しながら、肉付きの良い方に顔を向けた。
「あのね、貴方がそれを囀ったところでこの男の行く末は変わらないわよ。貴方はあとで十分時間を取って聞かせてもらう。これはおもちゃで、私の八つ当たりを受ける道具なのだから」
もう一本鉄の棒を手に取り、押し付けた。
男の悲鳴が部屋に響き、丸めた背中が時折跳ねる。
マリアの方を見れば、また桶で水をかけた。
「知るといいわ。誰を怒らせたのかを」
肉の焼ける匂いがここまで上ってきた。
焼き印のように模様が掘られているわけでもない。
それでもしっかりと押し付け跡が残っている。
「呪いなさい。自らの愚かさを」
椅子から立ち上がり、太さは指ほどある長い釘を手に持って、痙攣している男の無事の方の足に突き刺した。
「祈りなさい。まともに死なせてもらえるのを」
釘に足をかけて、力を入れる。
床と足がしっかりと固定された。
「貴方たちが出来るのはそれだけよ」




