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二十八話 お使い

 レティシアお嬢様にお使いを頼まれてこれで三回目。

 動きやすい軽装な革の鎧、いつもと違うブーツや手にも同様なグローブ。それに護身用にと渡された銘も装飾もない無骨な両刃の剣。

 レティシアお嬢様には私には剣も鎧もあるのだから不要だと言ったが、あれは目立ち過ぎるし、この方がきっと田舎騎士って風貌で目立たないわと勧められるまま身に着けてしまった。

 もうポートリフィア領に来るのも慣れたものだ。

 それに三回目ともなれば、少しばかり顔を覚えられているので面倒も少なくてよくなってきている。

 今日もまたいつもの商店を見ているが、気のいい店主とはすっかり顔馴染みになりつつあった。

 私の他にもぽつぽつと客は訪れるのだが、それでも多くはない。

 どうしてなのかと聞いてみれば、最近一気に二つの商会が勢力を伸ばしていて、外から参入は難しく、内にいてもどちらかの傘下に入った方が儲けが出るくらいになってしまっている、なんてことを彼は話していた。

 昔はこんな出来る奴らじゃなかったはずとか、あいつらにそんな商才があったのならどうして今までそうなっていなかったのかとか散々口のように語っていた。

 客である私に話せるほど気を許してもらえるのはありがたい。

 レティシアお嬢様はよく言っていた。

 情報は大事な大事な武器なのだと。

 嘘も混じった噂であっても、精査すればそこに真実が入っている、と。

 気のいい店主からお嬢様から言われた品を買い、馬に跨り、ポートリフィア領を後にする。


 そして、私は二人の男に襲われた。


 ▼


 今日で五回目のお使いだ。

 もうすっかり顔馴染みで、店に向かえば、


「今日もお使いかい?」


 なんていう風に声をかけてもらえる。

 それから店主といつものように話して時間を潰す。

 ここもどっちかの傘下に入ってしまおうかとか、怪しい取引に手を出しているとかいう噂もあるししばらくは様子を見ようかとか根も葉もない噂話から愚痴までこの人は良く話してくれる。

 私はそんな店主に、またお使いの品を買い、外に出た。

 すると、複数の視線が私に向けられていた。

 いや、隠れて見てきているので気が付いた方が正しい。

 見回しても良かったが、そのまま私は馬に跨り、ポートリフィア領を後にした。


 ポートリフィア領を出てすぐの事。

 集団で私の後をついてくる蹄の音が聞こえてきた。

 私は馬を道から外れたところに手綱を縛り、歩いて街道の方に戻った。

 そこには八人の男が馬に乗っていた。

 それぞれ腰には剣を吊るし、手には拳銃を所持している。

 まだ距離があるが、問題ないだろう。


「貴方たち、私に何か用ですか?」


 男たちはいやらしいニヤニヤとした笑みを浮かべて、私に銃口を向けたまま言ってきた。


「カーディルさんがあんたに用があるんだとよ。大人しく付いてくるなら、いいが――」

「お断りします」


 その人の下に行く気はない。

 こちらも腰の剣を抜いた。


「ま、死体でもいいって言ってたしな」


 男たちが引き金に指を添えたところで疾走した。

 駆けだして二秒ほどで発砲音。

 まだ遠い。

 頭に当たりそうな銃弾を剣で切った。

 肩に一発、腹に一発。

 頬や腕、足をかすめたものもあるが問題ない。

 そのまま距離を詰めて、敵の集団が剣を抜き始めようとしたところで、一番端にいた男に剣を投げると、そのまま顔面に剣が突き刺さった。

 速度を維持したままその隣の男に向かって、飛び蹴りを食らわしたら首が横を向いて倒れ込んだ。そして、私は無骨な剣の握りに使っていた布の箸を掴む。

 そこまで動きが止まっていた残りの男たちがハッと我に返り、こちらに一斉に銃口を向ける。

 顔面に突き刺さった剣を引っ張れば、男も引っ張られてきたので都合がいいと思い、そのまま盾にして集団に入っていけば、もう指に引き金がかかっていたのか盾にした男の体が六回跳ねた。


「てめぇ!! よくも仲間を盾に!」


 撃ったのはお前たちだろ、と心の中で思いながら、剣を引き抜いて男を投げつける。

 もう剣の間合いだ。

 死体でも仲間を投げつけられたら反応をしてしまう。

 私から視線が離れた一瞬で一人の男に近づいて、深く剣を突き刺して、しっかりと捻じって引き抜く。その男が腰に刺していた剣を私が抜いて、近くの男に最初と同じように投げて殺した。

 全員が仲間の死体からのショックに立ち直る間に更に接近。

 相手も剣を手に持っているが、私の剣技の前では児戯に等しい。

 だけど、私が剣で答えてあげるほどでもない。

 銃の間合いであれば、手が出せなかったがここまで来たらもう終わりだ。

 そこからはただ四人の男を殺す作業になった。


 馬に戻りながら、八人の死体を眺めるが特に感慨は湧かない。


「最初は二人だったから、次は四人とか段階を踏むものだと思っていたな」


 それだけ呟いて、馬に跨る。

 そして、敬愛するレティシアお嬢様のいるフィリーツ領に戻った。

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