二十五話 神造兵装
レザードが来てから数日が経った。
村は平和そのもの。
毎日の農作業に子供たちの授業。
平和だからこそ、余裕が生まれて、私の暇つぶしにも精が出るというもの。
机の上に並べた神造兵装。
手に収まるサイズの木の実のような外観の物が二つに、アユムが持っていた宝石の付いた杖。それに指輪が数点。
私の手帳に記されている物の中に同じものはなく、昔手に入れた神造兵装が纏められている数ページしかない本にも乗っていない。
同じ外観の物もない、未知の物。
神造兵装には文字が掘られている時がある。
しかし、古代の文字なのか、私たちが知らない未知の文字なのか解読することが出来ないものが多い。
読めなくても、短くて他にも見たことある単語ぐらいなら私でも何とか読み取ることが出来るけど、複雑なものはまだ無理。
「お嬢様、ずっと眺めているのですが、それは何なのですか?」
「さぁ、何かしらね。『eye』っていう単語は確か、目という意味だったはずだから、もしかしたら目がこの中に入っているのかしらね」
「割らないのですか?」
「割れないのよ」
そう言って、人差し指の爪を鋭く指の倍以上の長く伸ばした。
振り被り、木の実に接触。
そのまま切り裂こうとしたところで、押し当てたところから爪が割れた。
「え?」
マリアが信じられないような目をして、驚いて動きが止まった。
鉄と打ち合っても傷一つ受けない私の爪が負ける材質。
「ね? 割れないのよ」
一つマリアに投げてみると、綺麗にキャッチする。そのまま握り締めて力で無理矢理潰そうとしてみるが、しばらくしたところで諦めて手を開けた。そこにはキャッチしたままの姿、綺麗な木の実そのままだ。
次にナイフを取り出して、刃を押し付けた。
しかし、それも私の爪のように割れることない。
切れはしなかったが、割れることもなかった。
マリアでも切れないという事は、無理矢理よりも他に開ける方法を探した方が早いかもしれない。
手元にある木の実を摘まみ上げて転がすように眺める。
目、が入っているのは確かだ。
それ以外の単語が読めないのが致命的だ。
そこにはきっとその目が持つ力を示す言葉が書いてあるはず。
この言葉が分かる人を探した方が早いのかしら。
「お嬢様、そう言えば以前異国の言葉が話せる男性の元に行った時にもらった書記の文字とこれらは違うのでしょうか?」
いつ行ったのか正確に覚えてないが、ここ百年の間の事だったと思う。
風の噂で、この世界で使われてる言葉とは全く違う言葉を話す男性がいると言うのを聞いた。
実際に尋ねてみたところ、髪色が珍しい黒色で肌もその村では珍しい色合いだけど、顔立ちは普通の青年だった。
彼に勧められるままテーブルについて話し始めたところ、彼が唐突に一枚の紙を差し出してきて、そこにはこう書いてあった。
『你是谁?』
見たことのない文字で、思わず何かしらと言ってしまった。
彼は悲しそうに瞳を伏せ、首を振った。
それからは私のことを話していたが、私が長命であること、世界中を歩き回っていることを彼が聞けば、突然席を立って一冊のノートを手に戻ってきた。
体の調子がずっと悪くて、もう長くはない。だから、この文字を知ってる女性を見ることがあれば、これを渡してほしい、と。
その時のノートのことを言っているのだろう。
「違うわね。どちらも私が知らない文字ではあるのだけど」
「お嬢様でも分からないことがあるのですね」
「知ってることの方が少ないわ。知らないことばかりよ。だから、面白いのだけどね」
そうして平和な日々は過ぎていく。
平和は一時の休息である。
一時が過ぎてしまえば、泡沫のように消え去ってしまう。
嵐が来た。




