二十三話 取引の対価
ゆっくりと息を吐きながら、結論を出す。
ここで時間をかけていては、足元を見られる可能性が高い。
「金貨五袋ずつ。計十袋でどうかしら?」
「いいですよ。では――」
「それにもう二つ追加の品」
取引を打ち切られてしまっては、それ以上引き出せなくなってしまう。
本当にレザードは、昔に比べて商人らしくなってきている。
「氷の季節を乗り越えるための備蓄に不安があるの。だから、野菜や麦を融通してもらってもいいかしら?」
「ええ、いいでしょう」
やけにすんなりとこちらの提案を飲んでくる。
悪いことではないのだが、なんだか損をしているようにも思えてしまう。
ただ、欲をかいて失敗した人たちを見ているせいで、踏み込めないところもある。
「それと情報が欲しいわ」
「どのようなもので?」
「ポートリフィア領の黒い部分の噂とか、かしら」
レザードが考え込む。
どうして考え込むか、見つめていた。
商品となる情報がないから考えているのだろうか。
「今提供できるものは多くありませんが、それでもよろしいでしょうか?」
「ええ、良いわよ」
「そっちはどうだ?」
レザードが振り返った先、二人の少年たちは飛竜の鱗を全部調べ終わっていたようだ。
あれだけ言う事はあるようで、能力的には申し分ないみたいだ。
「全部本物でしたか?」
「はい、全部問題ありません」
「レティシア様、それでは金貨二袋でよろしいでしょうか?」
「ええ。それにしてもいい助手がいるわね」
「まだまだ半人前です。レティシア様にそう言ってもらえるだけ光栄ですよ。お前たち、支払いの用意を」
少年たちは金貨袋の用意をし始めた。
レザードは二人の少年からこちらに向き直り、少し真剣な面持ちになる。
「レティシア様にこれだけ格安でなおかつ、アユム様に繋いでもらえると至れり尽くせりですからね。これはサービスです」
「楽しみね、何かしら?」
「ポートリフィア領の領主の噂とかではありません。けど、商人には商人たちのネットワークがあるのですが、どうにもポートリフィア領の一部の商人で急激に市場を広げている者がいると言う事を聞いております」
「それは凄いわね。一応都市ではあるけど、王都周辺に比べたら、人口も街の大きさも違うのに、噂になるほど儲けているなんて」
普段王都にいるレザードの耳に入ってくる程だと考えれば、それは異常なことだ。
小さな街であっても、例えばここであれば帝国とも取引していると言う事で普通よりも儲けているとかあるかもしれない。
「ええ、確実に裏があるとは思います。それにここ数年でポートリフィア領は大きくなりました。商人だけの話ではないかもしれない、というのが私の商人の勘ですね」
「あなたの言う事であれば信用するわ。それにしても怖いわね。近くの街でそんな黒い噂があるなんて」
「レティシア様なら、そのこと如くを力で潰せるでしょう」
「今の私には無理よ。アユムとの契約で自分から暴力を振るう事を禁止されているから。許可がないと何も出来ない鳥かごの中の鳥よ」
「アユム様も豪胆なお方だ。レティシア様に従属の契約など、獅子を飼うようなもので、いつ噛みつかれる、噛みつくだけで済むかどうかも分かりませんから、恐ろしくて私にはとても真似できませんよ」
そう言っている間に少年たちの用意が終わって、机の上に金貨袋が十二個並んだ。
「麦や野菜については、また後日お届けしますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、急なお願いだもの。アルフレッド」
「はい、レティシアお嬢様」
扉の近くにいたアルフレッドが近寄り、袋を秤にかけていく。
どれも分銅よりも重く、袋の方が傾く。
「レザード、説明を」
「重しが入っているわけではありません。私たちの気持ち分増やしているだけですよ。袋の中を検めてもらっても構いません」
「ここはレザードを信用するわ」
ありがとうございますとレザードが頭を下げる。
サリーとソーニャには取引の仕方を学んでもらおうと思っていたのだが、今回は上手く出来た手応えがない。
「いい取引だったわ、レザード。また呼び出すかもしれないけど、その時はまたよろしくね」
「ええ、レティシア様からの呼び出しであればどこへでも駆け付けますよ。またロジック商会をご贔屓にお願いします」
レザードから手を差し出されたので、取引の終わりとして握手を交わした。




