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十八話 解体は仲良く

 解体作業も順調に進みつつある。

 最初のソーニャから、サリーが加わり、それから他の女性陣が輪に加わる。

 そうしていると、一仕事を終えた男性たちも加わって、大人たちがやっていると子供たちまで興味を示して、村一丸となっての解体作業になった。

 眼球から始めて、顔の鱗、歯。脳みそは必要ないので、腐らせる前に焼いてしまう。

 頭が終われば、首の鱗と皮を剥がしながら、肉を削いでいく。

 普通の人の力で時間がかかる作業であっても、力自慢の魔族がいればその分短縮が出来る。

 首から上を喪った飛竜の解体作業はそこら加速度的に進んでいった。


「鱗はしっかり磨いてちょうだいね。少しぐらいだったら欠けてもいいけど、落としたりして割らないように注意して頂戴ね」

「はーい、せんせー!」


 鱗を磨いてもらってる子供グループに言いながら、自分は鱗を剥がしていく。

 爪を伸ばしたり出来るのだが、せっかく手伝ってくれている村の人たちを無駄に怖がらせたくないから、私は肉を切る係から外れることにした。

 作業を開始して、もう五日が経つ。

 最初はどうなるかと思っていた、この解体作業ではあるけど何とかなりそうで良かった。

 解体作業も良かったが、こうして村人との親交が深まり、交流できていることが何よりである。

 ガレオンも粗野な性格であるが、男性たちにはその力強さは信頼されている様子。


「おう、その斧貸してみな」

「お、今度はどんな事を済んだ?」

「翼が邪魔だからな。ぶった切ってやる」


 そうして、斧を一振りして片方の翼を落とせば、周りから歓声が上がる。

 そのうちに宴に誘われそうな勢いだが、それぐらい許可を出そう。

 ガレオンはお酒も大好きなことだし。

 アルフレッドは社交的であるからこうして交流する機会があればすぐに輪の中に入ることが出来るだろう。


「少々持つには重たいでしょう。これぐらいでどうですかな?」


 そう言って、女性が持とうとしていた肉の塊をナイフ一つで切り分ける。


「あ、ありがとうございますっ!」

「いえいえ、これぐらい当然のことでございます」


 アルフレッドの言葉のどこまで真意なのか不明だが、付き合いに対しては、何も問題は見当たらない。

 さすが、ずっと私の執事をしてきただけはある。

 アンナは今、村の女性陣と料理をしている。飛竜の肉をこのままにしておけば腐ってしまい食べれなくなってしまうために、少しでも保存のきく干し肉にしてもらっている。これを屋敷で冷凍しておき、氷の季節が来た際に配れば少しはマシな食事になるだろうという考えだ。

 私たちがあまり食事をしないため、どれぐらいの食料で氷の季節越えをしたらいいのか手探りであるため、まだまだ見極める必要性はあるが。

 アンナは元々がこういう村の出でもあるし、事情があるにしても人間寄りであるために村の人たちに馴染みやすい。今もこうして一緒に調理している姿を見ていれば、人間と見間違うほどに。


「しっかりと水に浸すのが大事です」

「へぇ―……アンナさんはこういうのも知っているんですね」

「たまたまです。まだ村に……昔教えてもらったことだけですが」


 彼女の過去のことを思えば、良くないものかもしれないけど、この村の女性たちはそれ以上追求しない。

 一応、私の従者であるから、下手なことを言えないのもあるかもしれないが、もっと馴染めればいいと思う。

 後は一番心配なマリアなのだが、彼女は子供たちに人気だった。

 特に男の子から人気なのだが。

 彼女は基本的に飛竜に乗り、解体をしている。

 だから、目立つし、容姿も申し分ないせいで際立つ。

 解体を行う獲物も普通でないせいで余計に目につくのもあるだろう。

 巨大なナイフを振り回して、それが時々変形をして、剣に切り替えたりしている様子がどうにも男の子たちの心を擽るようで、目を輝かせて、見つめている。

 作業しているマリアのところに行って、「もう一回! もう一回!」と最初は大きな歓声が上がっていて、最初は睨みつけたりうんざりした表情をして無視を決め込んでいたのだが、なかなか子供たちの輪は崩れない。

 人間のことを見下している彼女なのだが、いつまでも子供たちが作業に戻らないのを見ていてついに折れた。

 子供たちの前でナイフから剣、槍に銃と様々な形態に動かした。

 その後に、


「今日はここまで。これ以上ここにいるのならお嬢様に言いつけますよ」


 と、うんざりした声音で呟いた。


「え―!」


 しかし、子供たちからは不満そうな声があげられて、心底うんざりするようにため息をついて、もう一度、今度はゆっくりと子供たちに見せるようにナイフを変形させながらも解体を進める。

 彼女は遅れることを嫌うから。


「もう一回! もう一回!」


 子供たちが声を上げるが、もう取り合わない。


「本当にお嬢様を呼びますよ。ここからなら、お嬢様がどこにいるか分かりますから」


 そこで、一度言葉を切り、


「さーん、に―……」


 と、カウントを進めた。

 子供たちは散り、マリアは疲れたようにため息を吐いた。

 普段の旅の中だったら、こうはならなかっただろう。

 こうして領地を持って、領民に対して暴力を封じて、接するようにしたおかげだと思いたい。

 従者たちが村に馴染んでいくのはきっとこれから私たちの関係をいいものとするだろう。

 ただ、従者たちが馴染む一方で私自身は村人たちとあまり交流できていない。

 けど、言い訳したい。

 私は様々な人たちへの指示や相談で、一つのところに留まっていられなかった。

 ゆっくりと話そうと思えば呼ばれたり、手が足りないところに手を貸したりでそれが出来なかったんだ。

 それでも、作業を始めた最初に比べて私たちが魔族だと言う事を気にする人たちは少なくなっていたはず。

 時々普通では考えられない力を見せたりした時に驚かれたりするが、それは私たちのことを魔族だと忘れていたからだろう。

 私は馴染めていないが、少しだけ領民たちに領主と認められてもらえるならば馴染めないのも仕方ないけど、良い方向に進んでると肯定的にとらえよう。

 そうして、解体作業は大詰めを迎えた。

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