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十六話 飛竜

「状況を開始しましょうか」


 お嬢がそう言った直後、動いたのはアルフレッドだった。


「ガレオン、レティシアお嬢様を守るのですよ」


 そう言った直後、全身が深い緑色をした飛竜がそのデカい口をこちらに向けて突っ込んできた。

 クソ、あの爺。人に押し付けやがったな。

 舌打ちしてから、突っ込んできた飛竜の口を押さえる。


「筋肉頭、そのままにしておきなさい」

「ガレオン、いい働きですよ」


 爺もあの人形も人に押し付けやがって、気に入らねぇ。

 飛竜の下顎を足で抑え付けようとすると、そのまま噛みつくつもりなのか上から牙が降ってくる。

 見え見えだ、と手で降りてくる上顎を掴んでやるともうそれで相手が地面に拘束されてしまった。

 そうしてる間に浮かび上がったアルフレッドが飛竜の背中に一発掌底を叩き込む。

 頭を抑え付けていたせいもあるのだろうが、一度地面に大きくめり込んだ体が大きくバウンドして、宙に浮く。

 相変わらず、でたらめな力の爺だ。

 

「お嬢様は脳まで必要と言ってなかったわね」


 そう言って頭の上に飛び乗ったのは、マリア。

 担がれている巨大な刃物が一本。

 人が扱えるサイズを遥かに超えたそれは一振りで何十という兵を薙ぎ払えるだろう。

 頭の上で大きく飛び跳ねて、前宙をすると飛竜の脳天だと思われる箇所に思いっきりナイフを突き刺した。

 魔石を取り出していないから死んではいないが、もう相手にはならない。

 抑え付けてるだけで、俺何もしてねぇ。

 ほとんど後は魔石を取り出すだけという段になって動き出したのがアンナだが、その手には見慣れた剣が握られていた。

 腹のあたりまで来たところで歩みを止めるが、ゆったりとその巨体を観察していた。


「背中や横腹から刻んでいくと、鱗が邪魔だから、腹を上に出来ない?」

「そうですな、言われてみれば……では、こうしましょう」


 そう言って、首元まで来たら、軽々と首を持ち上げて、反対側に飛んで行った。

 頭を固定して、首だけ反対側に動かせばどうなるか。

 骨を折って、腹の位置を入れ替えた。

 それだけだ、やってることは。

 ただ、自分よりも何十倍も重量のある生物に対して行っているのが異常なだけだ。


「ガレオン、もう押さえてなくてもいいわよ」


 その言葉に振り向くと、お嬢が隣に立っていた。

 言われるがまま、手を離す。

 

「アンナ―! お腹の皮も使えるはずだから、綺麗に切ってもらえるかしら?」

「はい!」


 アンナから綺麗な返事が返ってきた。

 それを聞いて満足そうな笑みを浮かべたお嬢は影から、次から次へページを追加しているせいで膨れ上がった手帳を取り出した。

 そして、それを見ながら、飛竜を見比べている。

 あの手帳には俺たちが知らない知識が山ほどあるって言うのは聞いたことがある。

 これまでお嬢が調べてきたこと、知ってきたこと、その全てが詰まっていると。

 この長い旅路の軌跡があの一冊の膨れ上がり、ボロボロな手帳にある。

 盗もうとした輩も昔はいたらしい。

 そいつらがどうなったか俺はまだ一緒にいた時ではないから知らない。

 ただ、酷い目に合ったというのは想像に難しくないことだ。


「なんか気になることがあんのか?」

「ええ、あるわ。大いにあるわ。どうしてこの個体がここにいるのかしらね」

「どうしてってあの山にいる群れから追い出されたんだろ?」

「違うわ。この子はこの大陸にいる個体とは別の物よ」


 お嬢がまたわけの分からないことを言いだした。


「この大陸にいるのは、全体的にもっと灰に近い色なの。どうしてそうなのかは私も知らないけど」


 そう言って、ナイフで貫かれている顔に触れた。


「それに他にも特徴があるわ。もっと体が丸いのよ。大きな岩のようにね。あと翼が退化していて、飛ぶ機能も失っているの。あと名称も違うわ。地を這う竜として、地竜と呼ばれているらしいわ」

「それじゃあ、こいつはどこから来たやつなんだよ」

「他の大陸ね。それに来た、のではなくて、連れてこられたの方が正しいわね」


 面白くない話だ。

 どうしてか聞いても胸糞悪くなるだけの話なんだろうな、どうせ。

 だから、聞かない。

 そんな事を話してる間に、アンナが綺麗に腹を開いて、顔の倍はある魔石を取り出しているところだった。


「レティシア様、いいサイズの魔石ではないでしょうか?」

「ええ、そうね、十分なサイズよ」


 そう言って、アンナに笑顔で返したお嬢がこちらを振り向いた。


「ガレオン、このままだと腐っていってしまうから凍らせてくれないかしら?」


 大体分かっていた。

 だから、何もしてない俺は、今自分の出来る仕事に移ることした。

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