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百五十話 交渉場の傍観者

「これはこれは、フィリーツ領の……」

「ユリナ……スカーレット・サイトウと言います。レティシア・ヴァリアス・アドガルド・フォン・スカーレットの娘として領主代理を勤めさせていただいております。以後、お見知りおきを、レザード様」


 ドレスの裾を掴んで、小さく礼をする。

 レティシアに習った作法の一つ。

 私にそう言った作法は全くない。

 だから、レティシアに教えてもらったのだが、あれもしっかり作法があるのかと言えば、疑問符が浮かぶ。

 そもそもレティシアの場合、礼儀がなくても力でねじ伏せればいい。

 そのせいで相手から敬われるのが普通であり、相手に行うことが少ない。

 だから、それっぽい感が拭えない。


「ご丁寧に。レザード・ジーニアス・ロジックと言います。いつもレティシア様にはお世話になっております」


 レザードが腰を折って深く頭を下げた。


「して、何用でございますでしょうか?」

「武器です。重火器と銃と予備の弾です」

「ふむ……しかし、今は何かと需要がありまして、回せる分があるかどうか……」

「レザード様、お待ちください」


 早合点してもらっても困る。

 私が交渉なんて出来るわけがない。

 だから、私は助っ人を連れてきているのだから。

 それを出させてもらえないと困る。


「と、言いますと」

「ええ、私は領主代理として、挨拶だけです。母の代わりを務める者として顔を知ってもらいたく、こうしてレザード様の前まで来ただけです。お話はこの二人と、どうぞ」


 そう言って、私が横にずれると、現れたのは着飾ったサリーさんとソーニャさんだ。

 二人ともしっかりと化粧を施して、レティシアのところにあったドレスを勝手に借りて着せてある。

 私でもうっとりするぐらい綺麗になった。

 

「お久しぶりです、レザード様。サリー・スタットです」

「お、お久しぶりです。ソーニャ・トロンです」


 二人が挨拶をしたら、レザードはようやく思い出したように手を打つ。


「すみません、お二人があまりに美しくなっていた物ですから、少々呆けてしまいました。お久しぶりでございます、おかわりはないようで何よりですね」


 それが事実かどうかは分からないが、レティシアの言っていた通りにこの男は口が回るし、それ以上に頭も回るのだろう。

 厄介な男だと思う。

 こんなのを相手取るつもりでいる二人に私は頭下げたくなる。


「レザード様、我が領は危険に晒される可能性があります。どうかそのための力をお譲りしていただけないでしょうか?」


 サリーが真剣な目で、レザードを見つめれば、少しだけ目の色が変わったような気がする。

 気軽な感じから、仕事をする人間の目だ。

 サリーもその目に圧されていない。


「ふむ……立ち話で済むことでもないでしょう。皆さまどうぞかけてください」


 レザードに進められるがまま、ソファに座る。

 私が最初に座ったのだが、それもただの立場のせい。

 今回主役はこの二人なのだから。


「それで、フィリーツ領が危険に晒される可能性があるというのはどういうことでしょうか?」

「はい、ご説明します。我が領は度々、不埒な輩の侵入によって、領民に危害を加えられております。未然に防ぐことも出来ればそうでもないものも……大きなものは数年前に行われた帝国軍による襲撃です」


 サリーもソーニャも避難していて、あの時地上で何が起こっていたのか知らない。

 昨日一日で、私は二人に聞かれた情報は全て渡してある。

 どんな風にレザードを丸め込むのかは私には分からない。

 二人の戦略は聞いていない。

 聞いたら顔に出しちゃいそうだから、聞かないことにした。


「村には多くの被害が出ました。その際にはレザード様のロジック商会にも大変お世話になりました」

「いえいえ、あの時は大変でしたね」

「はい……そして、先日には私達フィリーツ領、それに今回は他の領にも帝国軍が侵入して拉致や殺害が行われました。私たちの領ではレティシア様のおかげで被害はありませんでしたが」


 真剣にレザードが聞いている。

 ここまでは私が伝えた内容でもある。


「して、それではもうないように思えるのですが」

「そうですね。しかし、レティシア様が王城に召集されております。それも戦争のために」


 レティシアが呼ばれたことは話しても大丈夫だったのだろうかと今更ながらに思うのだが、サリーが開示しているのだからか、いいだろうと結論。

 ……いや、あとでレティシアのことは黙っているようにお願いしよう。

 フィオリの持ってきた情報だったし、しっかりとした封筒に入っていた手紙だったから、黙っておいて損はない。


「レティシア様とその従者の方々も王城の方に行っております。だから、フィリーツ領は私たちの手で守るしか今は手がありません」

「なるほど。しかし、いささか警戒しすぎではありませんか?」


 尤もな言い分だ。

 私としても考えすぎかもしれないと思ってはいる。

 けど、それでも――――


「私たちの領は二度も襲撃を受けています。三度目も警戒すべき事かと思います。今回は私たちの領は戦争を行うならば、補給を行うために必ず通る道になるので、狙われる可能性は高いかと思います」


 警戒はすべきだ。

 今回は特にレティシアたちがいない中、私達が領を守らなくてはいけない。

 そして、今はその力が足りない。

 レザードが難しい顔をしている。

 無理もない。

 突拍子もない話だからだ。

 けど、武器は必要なのだ。


「武器を扱える人……いえ、銃を扱える人たちはいるのでしょうか?」

「はい、そちらは大丈夫です。十分にいます。いますが肝心の銃が手元にありません」


 サリーさんは堂々としている。

 言葉に詰まる様子もなければ、動揺することもない。


「それで、私のところに話が来るわけですね……しかし、銃器は特にですが、今売れています商品故に、すぐにというのは難しい物かと思います」

「難しいことだとは理解しております。なので、こうしてレザード様にお話に参りました」

「ありがたいことです。量の問題でしょう。いくらほど欲しいのでしょうか?」


 ここからだ。

 ここからが交渉の始まりだと、私は思った。


「銃を三百丁。重火器を三十門ほど、私達は欲しております」


 え、と私の方が言いそうになった。

 声に出さない。

 何とか表情も抑えれたはず。

 ここで二人の邪魔をしてはいけない。

 どうして、そんな吹っ掛けたような数字にしたのか。


「多いですね」

「はい、最近領民が増えましたので、これぐらいは必要かと」

「ユリナ様、その数でよろしいのでしょうか」


 こちらに話を振られたが、この問いは想定内だ。

 大丈夫、いつものレティシアを思い出せ。


「私は今回のことを二人に任せてあります。なので、そのように」


 私は二人に任せているので知りませんと、逃げた。

 それもそうだ。

 下手に口を滑らせて、揚げ足取りされても仕方ない。

 だったら、黙っておく方が賢明だろう。


「ならば……その数ではこちらとしても用意するのが大変でしょう。銃が二百五十丁、重火器であれば二十五門ほどでしたら、用意が出来るか、と」

「それはいつごろになりそうでしょうか?」


 大事なのは納期だ。

 終わってから届くなどは言語道断だ。


「私達も生産の方を急いでいるのですが、どうしても追いついていないのが現状です。なので、そうですね……開戦日に間に合えばということになりますでしょうか」


 不味い。

 それは非常に良くない。

 いくらイーラさんたちが軍人であろうとも慣れない武器を持たせて、使いこなせるとは思えない。

 絶対に訓練をする期間は必要だ。

 それもきっとサリーさんたちは分かってくれているはず。


「もう少し短くは出来ないでしょうか?」


 サリーさんの目付きに鋭さが増した。

 そう、ここでようやく話が始まった、とようやく私は分かった。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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