十五話 森の中へ
四人の従者たちに飛竜狩りを伝えた翌日。
私たちは今、生い茂る自然溢れる森の中にいた。
火の季節も終わりに向かっているのに、まだまだ日中は汗が出るほどの暑さなのだけど、熱光線は木々に遮られているのと、徐々に山に登るような傾斜になっていて標高が上がってきているのか村の中にいるよりは涼しく感じる。
「それでお嬢、殺さないのか?」
「殺すわよ、そうしないと村に被害が出るかもしれないから」
「ガレオン、貴方お嬢様の話を聞いていなかったの?」
「確認だよ、確認」
獣道しかなくて、決して歩きやすさのある道ではない。そんな歩きにくて、人であれば疲れてしまう道でも、私たちだと平地を散歩しているのと変わらない。
軽い足取りでどんどん奥に進んでいく。
「ただ、殺して終わりなのか?」
「いいえ、飛竜を殺して、鱗から肉、目玉から爪まで全て剥ぎ取るわ」
「捨てるのは骨と皮位になりそうですな」
「アルフレッド、それも違うわ。皮も普通の動物の皮よりも耐火性能があるから売れるから捨てないし、骨も砕いて、畑にまけば作物が良く育つとか言われてるの。どこも捨てる箇所はないわ」
話ながら歩いて、周りの様子を感じているけど、動物の気配がしない。
森の入り口だとあれだけ歌声を上げていた小鳥たちだが、まだ森にいるのにも関わらず羽ばたき一つ聞こえない。
飛竜のせいだろうか。
動物たちはこういう異常に人よりも敏感だ。
住処を追われて、他に移動するのならまだいいけど、これで人里に降りてくるようであれば畑に被害が起きたり、大型の肉食獣だと人への被害も出てきてしまう。
避けなければならない事態だ。
「それにしてもいないわね」
足を止めて、周りを見回す。
知能は低いけど、一応は竜種に分類されているから鼻も人や私達魔族に比べて効くはず。
飛竜からしたら私たちは餌にしか見えないだろうが、さてどうしたものか。
「どっかに隠れてるんじゃねぇのか」
「それもあるかもしれないけど、十メートルはないにしても、大きい個体になればそれに勝るとも劣らない位にはなるのよ。簡単に隠れられる訳がないはずなのだけど」
「どこかに移動したとかはないのでしょうか?」
「それなら森がここまで静かなのがおかしいわ」
木の枝から漏れる光を避けるように木の幹に体を預けて考える。
ここまでは痕跡はなかった。
血の臭いもしなかった。
それなら、どこに?
「お嬢」「お嬢様」「レティシア様」「レティシアお嬢様」
それぞれの人物から同時に呼ばれて、顔を上げると、
「上から何が降ってきます」
そうマリアが言った直後、体が吹き飛びそうな衝撃と風に襲われた。
アルフレッドが風除けになるように私の前に立つ。
顔だけアルフレッドの陰から出すと、目の前には小さな山に見えそうな巨体に、全身は強固な鱗に覆われている。
ただのトカゲと違う点は背中から生えている羽だろう。
その羽を広げて、空を飛ぶことも可能である。
「素材が自分から着てくれるなんて私達ツイてるわね」
「そうですな。ここで討てるのであれば、村の方には日が暮れる前には帰れそうで何より」
全員が目の前の飛竜と戦うために身構える。
飛竜もこちらの様子を伺うようにして、アクションをしてこない。
「何もしてこねーってなら、こっちからいかせてもらうからな!」
そう言って、歩き出そうとしたところに、
「凍らせちゃダメだからね。あとみんな出来るだけ鱗も壊さないように注意して」
「わーったよ」
ガレオンが不満そうに言い、足を止めた。
凍らせてその後砕くのがガレオンのいつもの戦闘スタイルなのだが、それをされたらせっかく売れる品物が台無しになってしまう。
「それじゃあ、状況を開始しましょうか」