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百四十九話 配置先

 吸血鬼たちが王都に到着したと報告を受けて、すぐに装いの準備をしだす。

 彼女には王城に着いたら、あたしのところに来るように伝えておいてある。

 そうじゃなければ、彼女はきっとすぐに勝手な行動を起こしだすに違いない。

 どちらにしてもあの者を放置しておけば好き勝手調べられてしまう。

 それは良くない。

 ここには機密が多い。

 だから、足を踏み入れてほしくない。

 あたしが考え事をしている間に、世話係の方たちが準備を終わらせてくれた。

 だから、あたしは彼女がここに来るのを待つことにした。


 ▼


「ずっと馬車に乗っていて、着いたと思ったら呼び出し。休む暇も与えてくれないなんて、厳しい主人様ね、フィオリ」


 会って最初に言われたのがこれである。

 文句を言いたくなるのだが、グッと堪える。

 それよりも優先することがあるのだから。


「……あたしからあるのはただの報告だけです」

「何かしら?」

「あなたたちは最前線に投入されます」


 吸血鬼は自分の爪を見ていて、こちらを見ていない。


「面倒ね。拒否することは?」

「無理です。そうしたら、あなたを殺さないといけなくなります」

「私を殺す? ふふ、この世界にそれが出来る人がどれだけいるのかしらね」


 余裕そうにそう言っているが、そう思う気持ちは分からなくもない。

 この吸血鬼を殺そうとするなら多くの労力を割かなくてはならない。

 それも普通は割かなくてもいい物をだ。

 普通の刃物では、その皮膚を貫くことすら叶わない。

 それに力にしたって、鍛えた騎士たちの力でももしかしたら、指二本で抑え込んでしまうかもしれない。

 圧倒的な子の力を持つ者だ。

 この世界では伝説ともいえる魔族。

 魔石を持つという点では魔物と一緒なのだが、彼女も魔物だと認定するのであればその強さは頂点だろう。

 大型な生物、強力な毒を持つ物、獰猛な物等、様々なものがいるのだが、彼女を排除したい場合は、それらを集めて一斉に襲わせても倒せるかどうか、試算しても無理だろうとは思っているがもし、の時の手段としては検討はしている。


「それだけかしら?」

「いいえ、あなたのことですので、自分が過酷な環境に置かれることも理解出来ていたと思いましたし」


 そこで初めて、吸血鬼がこちらに目を向けてきた。


「過酷? 人間たちの争いが? ちょっと煩いだけで何も問題ないところね。お茶会をする雰囲気の場所ではないでしょうけど」


 銃弾飛び交う戦場が過酷ではないという感覚が分からない。

 色々と面倒がっているけど、結局は血が流れるのを喜んでいるのではないだろうか。

 魔族だ。

 血と争いを求める魔族らしい。


「それで、他には何かしら?」

「……はい、帝国は神様からの授かりもの(ギフト)を持つ人間を戦力投入するという情報が入っており、こちらも同じように神様からの授かりもの(ギフト)を持つ人間を並べることになりました」

「へぇー……」


 彼女の口元だけ三日月のように笑みが深くなる。


「それはそれは、総力戦ということかしら?」

「分かりませんが、そうとも言えるかと思います。こちらとしても長年続いた休戦協定が破られたのもあります。あれは元々帝国側から話があったことだと、記録されてます」

「せっかく結んでやったのに泥を塗ってきたっていうことかしら?」

「はい、その通り。なので、王国としても引くという選択肢がありません。帝国も帝国で謎の病が流行していて老人は間違いなく死に、五十歳を超える者たちがいないとされていて、人的資源がとても満足いくものではないとされています」


 帝国は今大変なことになっているらしい。

 どんどん人が死んでいっているみたいでそれを阻止する手段もないとかで。

 長く帝国で過ごすほど、皮膚が焼けていく。

 どんどんと肌が黒くなっていくのだが、解剖した人の内側まで焼けてしまっているとかいうのを報告で見た覚えがある。

 原因究明もされず、病なのか土地固有の物なのか、それすらも分からず、ずっとそれで悩まされている、と。

 だが、戦争を行うのであれば、それは王国の有利に働く。

 精神的に不安定な青年たちが多く投入されるとなれば、下手な刺激でパニックになりやすいし、兵士の覚悟を持って臨むのも不可能だろう。


「帝国も必死なのでしょうね。これに負けたら国が無くなるかもしれないのよね」

「ええ、王国もこの戦いに勝てばそのまま帝都にまで伸ばすはずです。それに帝国としても帝都に人を残していけるほどの余裕はもうありませんので」


 王国はまだ各領で余裕のある人数集めて、進軍を行う。

 人に余裕がない領もいるだろうが、ここで活躍しておけば勲章の一つも取れるかもしれないと思う貴族はいる。

 確実にいる。

 それが何を意味するかと言えば、爵位が上がったり、領の拡大を狙えるからだ。


「帝国も王国もどこに神様からの授かりもの(ギフト)持ちの人間を置いておいたのかしらね」

「……それは貴方には関係ない話です。あたしから伝える情報は以上です」


 あたしが突っぱねると、吸血鬼があたしの瞳を覗き込むようにジッと見てきた。


「な、なんですか」

「いえ、何も」


 意味ありげな笑みを浮かべているのだが、何を意味しているのかさっぱり分からない。

 だから、あたしはしっかりと睨みを利かせておく。


「いいですか、あなたはあなたの仕事をきっちりやってください。他のことをやらないように、いいですね?」

「ええ、よく分かってるわよ、ご主人様」


 本当に分かっているのか分からない態度だ。

 それに一々腹を立てていてはいけないのだけど、腹を立ててしまう。

 そもそもあたしはこの吸血鬼を気に入らない。

 母様もこの吸血鬼のことを気に入ってはいなかった。

 あたしの血筋と相性が最悪なのかもしれない。

 もう一度見るが、やはりその顔には笑みが浮かんでいる。

 ふんと鼻を鳴らして、あたしは部屋を出て行くことにした。


 ▼


「レティシアお嬢様、それでどのようにしますか?」

「決まっているわ。最前線なんて好都合よ」


 もしかしたら、ただの荷物だとして最後方でずっと待機を命じられているのかもしれないと思っていたのだが、フィオリの働きかけか、最前線に行くことが出来た。

 ここなら都合よく動くこと出来る。


「異世界転移者たちを、王国及び帝国全て転移者たちを皆殺しにするわ」

「いいのかよ、お嬢」

「ええ、いいわよ。けど、油断は禁物よ。転移者たちはもれなく神様からの授かりもの(ギフト)持ちよ」

「分かってるよ」


 ガレオンが嬉しそうに答えた。

 ただの人間にない力だから、暴れれそうで楽しいのかもしれない。


「戦場にいるもの、全てでしょうか?」

「ええ、もちろん」

「お嬢様、転移者を一人残らず、ですよね」

「マサキとユリナは当然駄目だけど、今は戦場にいる分だけよ。王国や帝国にそれぞれ収容所みたいなところもあるのだから、全て終わったらそこも襲って一人残らず殺すのよ」


 そう、この世界に異世界転移者を残しては置けない。

 勝手に連れて来られた可哀そうな子たちであるのだが、こちらの勝手な都合で殺されもしないといけない。

 それだけ彼らの持つ神様からの授かりもの(ギフト)というものが人も世界もゆがめてしまう。

 だから、やるしかない。


「了解しました、レティシアお嬢様。私達従者一行、レティシアお嬢様の意に沿えるように働かせていただきます」


 アルフレッドがいえば、他の三人もそれぞれのやり方で頭を下げる。


「ええ、頼んだわよ。私の可愛い従者たち」


 氷の季節が終われば私たちの進軍が始まる。

 その時までは、ゆっくりと休んで英気を養わせてもらおう。


 私は戦争よりも先に、戦いが起きていたことを私は知らなかった。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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