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百四十五話 戦争の足音

 季節が一つ巡る。

 戦争の準備なのか、領内の作物はよく売れ、買おうとした場合は前よりも高くなっている。

 この領では鍛冶を仕事としている者は少ない。

 それでもその者たちにも王都から仕事の依頼が来ているらしい。

 私としては関係のない話ではあるが。

 私がお嬢様の執務室に行けば、ユリナとフィオリが机に向かっていた。

 フィオリはユリナにニホンゴというものを習っているらしい。

 奇妙な文字を書いていると思っているが、書いている本人はいたって真面目にしているので口を挟んだりはしない。


「どうしたのかしら、マリア」

「お嬢様にそろそろお昼を告げようと来ました」

「もうそんな時間だったかしら」

「はい、お嬢様はよく集中されていましたので」


 お嬢様は前よりも領内のことを真剣に考えている。

 いえ、前も真剣に考えていたのだから、より一層というのが正しいだろう。


「フィオリ、あなたも帰りなさい。向こうでもお勉強はできるでしょう?」

「分かってます!」


 お嬢様に言われると、フィオリはよく語気を強める。

 母親そっくりだ。

 アユムもお嬢様と話す時はよくそうなっていたと思う。

 フィオリが出て行けば、マサキが帰ってくる。

 彼女は今や領にいなくてはならない人物になってきている。

 精霊の力というのはお嬢様が使っていた物しか知らなかったのだが、自然に作用することからもより強力で危険なものだと認識させられる。それを人の身で扱う彼女は、人として見ていいのか疑問もある。

 体のつくりは人なのだが、持っている力等を見た場合はガレオンに近い存在ではないだろうか。

 あの筋肉頭は精霊の力なんて使えないし、見えないのだが、無から火をつけたり凍らしたりと、やっていることとしては私には同じに見える。

 そんな自然に作用される力を振るうマサキは畑や畜産をやっている者たちからは人気が高い。

 一部ではマサキのことを聖女なんていうものがいるらしい。

 その筆頭が彼女なわけなのだが。


「マサキ様!」


 窓の外に目を向けると、パトリシアがマサキに声をかけたところだった。

 お昼を済ませたマサキは散歩してくると言って出て行ったのは先ほどのこと。

 彼女は散歩だというのだけど、行く先は大体畑や家畜たちがいるところ。

 日課みたいなものだ。

 彼女が畑の土を見てくれているし、家畜を見てくれているおかげで今があると、そこで仕事をしている人の誰かが言っていた。

 マサキがどうやって、家畜や作物が病気にならないようにしているのか、気になるところではある。

 そこまで出来てしまうのは、精霊の力ではない気がするから、という知的好奇心が向く内容。

 私の頭脳には様々知識が仕舞われているが、マサキも持っている力はそこで検索しても見当たらないもの。

 未知である。

 知りたいと思うのだが、彼女は人に説明するのが絶望的に下手なので、私が質問しても理解出来ないという問題が立ちふさがっている。


「えーっと、パトリシアさん、どうしたんですか……?」


 マサキが苦笑いを浮かべて、逃げ腰で対応する。

 対するパトリシアの目は爛々と輝いている。


「お店の方で出す新作のデザートが出来上がったんです! ぜひ食べてみてください!」

「へぇー……うん、お昼食べたばかりだから、あとでお店に寄らせてもらうじゃ、ダメ、かな?」


 実際に彼女は食べたばかり。

 パトリシアが持っているのは、氷菓子なのだろうか。

 いや、少し違う。

 焼き菓子の上に氷菓子を載せてあるのか。

 食後すぐに食べるものとしては少々重たいものだ。

 マサキの食事も最近は細くなっているのもあるし、厳しいだろう。


「はい、ぜひ来てください! マサキ様!」


 パトリシアはマサキに熱心な目を向けている。

 それはある意味では


「狂信者ね」


 私の考えをいつからいたのか分からないユリナが言った。


「いたんですね」

「私の可愛い子に変な虫がいないか監視していただけ」


 ユリナは意外と拘束するタイプの人間かも知れない。

 これがマサキの言っていた重たい女、ということかもしれない。

 意味はよく分かっていないが。


「そ、それじゃあ、後で!」

 

 マサキがわざわざ影を出現して、その中をくぐって遠くにまた出現するという逃げるような動きを見せていた。


「力の無駄遣い」


 正しく。

 お嬢様も、私達もここまで無駄な使い方をしない。

 ユリナはマサキの姿が見えなくなると、すぐに窓際から遠ざかっていった。

 二人の異世界転移者。

 この二人は私達従者とは異質なのだが、強力なものだ。

 そして、その力は今も成長しているし、二人の体もただの人間から変化してきている。

 ユリナは特に相性ではあるが、多くの者たちに有利を取れる。

 お嬢様とユリナは、ユリナが相性では有利だろう。

 ただ、今のお嬢様の力、という条件付けであるが。

 ユリナの肉体も魔族になったので、反射速度等も上がっている。

 そのせいでただ銃で撃つだけでは避けられてしまう。

 ユリナがもし敵対した場合、私はどう対処したらいいのだろうか。

 敵対したのなら、殺すのだが、果たしてそれが叶うかどうかが問題だ。

 ただの銃を正面から撃つのであれば避けられる。

 超長距離からの狙撃だろうか。

 それが確実かもしれない。

 廊下を歩きながら、どうしてそんなことを考えているのかと少し思ってしまう。

 嫉妬。

 私は二人に嫉妬しているのかもしれない。

 私では神造兵装の破壊は出来ない。

 だから、破壊のメンバーに選ばれなかった。

 私の武装は全て神造兵装相当であり、私自身も神造兵装だ。

 だから、他とは一線を画す力を持っていると思っていたのだが、神造兵装では、神造兵装を破壊することが出来ない。

 それが証明されてしまったのが、マサキの持つ目。

 あれがまとっていた殻だ。

 あれもただの殻ではない。

 神造兵装相当の物だ。

 それを私はナイフで裂こうとしたが、傷一つ付けることは出来なかった。

 お嬢様もそれを見ていたので、それを踏まえての人選なのだろう。


「マリア、どうしたの?」


 掃除を終えたのだろうアンナが部屋から出てきたところに出会った。


「いえ、特には」


 アンナに以前、一度質問した。

 ユリナが敵対したらという問いを。


「光の速さで私のグラン・リ・エタを投げる」


 光の速さと聞いて、何を言っているのかと思ったが、アンナはいたって真面目に答えていた。

 そんな風に投げれるものを私は知らない。

 しかし、アンナの持つ勇者武器というのは私の知識には全くないので、そういう機能があるのかもしれない。


「そうですか。それならいいのですが」

「はい、何も、何もありません」


 今日も平和に領内の時間は過ぎていく。

 ただし、戦争への緊張感は否が応にもこの領にも流れてくる。

 人同士の争い。

 それはとても愚かに感じる。

 多分、私が人間でないからそう思うのであろう。

 それに私が人形であるから、そう感じてしまうのだろう。

 悲しいなんて思わない。

 私は唯一無二の存在だから、むしろ胸を張る。

 私が悩んでいること。

 それは戦場に立つお嬢様にどんなお召し物を着せたらいいのか、ということだけだった。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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