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百四十二話 女子会の方針

 レティシアの話が終わってすぐの寝室。

 今日はジェシカが同席している。

 いつも誘っているのだけど、あんまり同席してくれないのに今日は一緒にいてくれる。

 お酒とアルフレッドさんに言ってほし肉を少しもらってきたので、それを切って分けてお皿の上に置いてある。


「戦争だって、せんそー」

「そうね」


 ゆりなは冷静に答えながらコップに口を付けた。

 ジェシカは無言。


「なんか現実感ないよねー……アタシたちの世界でもそういうの無かったし」

「あったでしょ。日本じゃなくて世界で」

「それはテレビでやってたけど、やっぱり当事者になってないからさー」


 テレビでやっていたどこかの国がどこかの国を攻撃していたという奴。

 日本でそれを聞いても、怖いとか色々と思うことはあってもやっぱり画面の向こう側。

 だから、現実感はない。

 私たちの現実は結局目の前にある物が全て。

 外国の出来事はもう別の世界のことだと思っていた。


「良いことじゃないか」


 干し肉を一つ摘まんでジェシカが言った。

 ゆりながそんなジェシカを睨むように見ていた。


「ジェシカは経験あるの? 戦争」

「あるわけない。帝国とは休戦協定を結んでいたんだからな」

「じゃあ、ジェシカも一緒じゃーん」


 アタシが笑いながら言うと、ジェシカがこちらを見てきていた。


「な、何?」

「いや、確かに一緒だな」


 ジェシカの珍しい反応に戸惑ってしまう。

 どういうこと反応を返して良いのかと思っていると、ジェシカがコップを傾けた。


「ど、どしたん?」

「いや、私は勇者だ。戦う覚悟は出来ている」


 それは知っている。

 アタシたち三人の中で一番戦うことに躊躇がなかったのが彼女だ。


「人間と戦う覚悟も出来ている。前から戦って殺してるからな」


 ジェシカはアタシたちとの倫理観が違う。

 いや、アタシたちがこの世界だと異質の倫理観かもしれない。


「ただ、人と人の戦争は勇者として見過ごせないのだが、どちらか一方に肩入れもしたくない」

「複雑ね」

「あぁ、煮え切らない」


 ジェシカがコップを煽り、中のお酒を飲み切る。

 そして、新たにコップに汲む。

 私もコップに口をつけるのだが、不思議と酔わない。

 アタシは特にお酒に強いということもなかったはず。

 というか、ここに来てからしか飲んだことがない。

 一応、未成年であったわけですし、日本とは法律も何もかも違う異世界だけど、それでも守ってきたわけだけども。

 それでも最初飲んだときは酔ったはずなのに、今は全然酔わない。

 体が変わってきているのだろうか。

 アタシの体も、ゆりなの体みたいに。

 それがいい事なのか、悪い事なのかもう分からない。

 時計の針は過去に戻すことは出来ないのだから。

 こうなってしまった事実を受け入れていくしかない。


「それでも残って戦うのはいいんだ」

「違う。ここに残る方がマシだと思ったんだ。それに力ない人たちを守るのも私の役目だ」


 ジェシカはしっかりしている。

 アタシなんてそんなこと考えてなくて、レティに言われたからここにいるだけ。

 まぁ、戦争なんて怖いし、行きたくないのもあるんだけど。


「それにしてもユリナ、どうするんだ?」

「何が?」

「あの吸血鬼からここを任されるだろ」


 アタシはそういう役目は任されていないが、そういえばゆりなはそうだった。

 責任重大だ。


「レティシアがいなくなったら、武器を大量に仕入れる」


 ゆりなはニヤリと笑いながら、干し肉をアタシたちに向けてきた。


「それにあの頼りない防壁もどうにかする」


 それは確かにどうにかした方がいいかもしれない。

 守るならあそこが防衛する最前線になるはずだし。

 前みたいに領内に入れてしまうと、何をされるか分かったものじゃない。


「全部行えるならそうした方がいいな」

「もち、ゆりなはするんでしょ?」

「私はするけど、私の力じゃ無理」

「じゃあ、どうするんだ」


 ゆりなが干し肉を二枚アタシたちの前に置いた。


「交渉は出来る人間に任せる。適材適所」

「サリーさんとソーニャさん?」


 ゆりなが頷いた。

 二人ともアタシたちが来る前からレティに色々と習っているし、村の方に仕入れる物は彼女たちが交渉しているところ何度も見ている。

 上手く商人の人たちと話しているのを見て、すごいな―なんて話していたところだった。


「ゆりなは何するの?」

「レティシアみたいにふんぞり返ってみてるだけ」

「なんだそれは」


 ジェシカが睨みつけるような目で見つめるが、鋭い目つきのジェシカがそれをすると刃物のような鋭さがある。


「偉い人間はそこにいるだけでいいの。それで許可を求められたら、考えていいかどうか判断してあげたらいい」


 そんな物だろうか。

 なんかゆりなの言い分は分かる気がする。

 色々と口出しして、あれこれと上から言うのは悪い上司だとか聞いたことある。

 私は働いたことないけどね。


「サボっているだけじゃないか」

「適材適所って言ってるでしょ。いい私も真咲も交渉なんて絶対無理だし、ジェシカだって出来ないでしょ」


 ジェシカは何も答えない。

 それは肯定ととらえることが出来るのだがいいのだろうか。


「勇者と言っても万能じゃない」

「そうね、私も魔族だけど万能じゃない」

「アタシも精霊女王だけど万能じゃないねー」


 全員で頷き合う。

 和やかな雰囲気になったところで、ゆりながあたしを見てきた。


「真咲、あんたは私の隣にいなさい」

「う、うん、そのつもりだけど……」

「戦わずに私の隣にいなさいってことよ」

「何でよ!」


 思わず身を乗り出してしまったが、ゆりなは涼しい顔をしてコップに新しいお酒を注いでいた。


「戦うことを禁止する。ジェシカ、この子が戦場に立たないで済むようにしなさいよ」

「分かってる」

「だから、何でって!」


 ゆりながこちらを睨んできたので、思わず身を引いてしまう。


「あんた自分が戦ってどうなったのか覚えてないの?」

「……覚えてるけど、けど、それでも戦う力があるなら戦わなきゃいけないじゃん!」

「私はそれを看過できない」


 ゆりなはもう聞く耳持たないように椅子にふんぞり返る様に座り直してしまった。


「ジェシカ!」


 アタシが呼びかけるとジェシカは一度は目を逸らすが、それでも真っ直ぐアタシを見つめなおす。


「ここはユリナの言う通りだ。戦う力は確かにあるが、マサキはユリナの妻だ。そして、現当主であるあの吸血鬼の娘。守られる立場にある」


 言葉に詰まる。

 確かにジェシカの言う通り、立場としてはそうなのだろう。

 そうなのだろうが、それでもやっぱりアタシはジッとはしていられない。


「それにあの吸血鬼が言っていたように私たちが戦うことになるとしたら、万が一の可能性で、備えておくように言われただけだ。ここが必ず戦場になるとは言われていない」

「……じゃあ、ジェシカはそうならないっていうの?」

「そんなことは言ってない。備えはしておくに限る。けど、無駄に終われば幸いだし、事が起きた時も今回は味方も大勢いる。だから、マサキが戦場に立つこと自体ないだろう」


 確かにイーラさんのところは大人数だけど、アタシやゆりなのような力を持っていない。

 だから、少しでも被害が無くなる様に戦うのがいいのだと思うのだが、と考えてしまうのは力があるゆえの傲慢さかもしれない。


「それにこれは私たちの世界の問題だ。今まで二人には散々巻き込ませているんだ。私達で対処できるところを見せるさ」


 ジェシカが微笑む。

 いつもムスッとしているジェシカがそんな顔をしているのはちょっと珍しい。


「そう言う事、納得?」


 ジェシカの尻馬に乗るようにして、ゆりなが言ってきた。

 納得は出来ない。

 出来ないのだけど、そこまで言われてしまうと無理も言えない。

 ジェシカに向き合う。


「分かった、けどさ、一個だけいい?」

「何だ」

「もし、戦うことになってどうしてもヤバい時とかピンチの時になったら言ってね? アタシもゆりなも絶対に助けるから」


 ジェシカはコップに注がれた中身を飲み干して、机に置いた。


「もちろん、そうするよ」


 そして、飲みすぎたから帰ると言って部屋を出て行った。


「戦争なんてなければいいのに」

「そうね、それが一番良いに決まっている」


 机の上の者を始末して、二人でベッドに転がれば、自然と瞼が落ちてきた。

 何も起きないのを祈りつつ、アタシは眠りについた。

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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