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百四十一話 計画始動

 執務室に入ると、私と真咲以外集まっていた。

 従者四人とレティシア、ジェシカにイーラまで集まっている。

 レティシアが執務机に着いて、従者四人は左右に思い思いの形に立っている。

 ジェシカとイーラが並んでソファに座っているので、向かいのソファに二人で座った。

 他にやってくる人がいるのだろうか。

 そう思っていると、レティシアが口を開いた。


「全員揃ったようね」


 いつになく真剣な顔をしているレティシアにジェシカとイーラまでも真面目な顔になる。

 真咲はいつも通りの顔をしているけど。


「王国が帝国に対して、宣戦布告するそうよ」


 ついに来たか。

 レティシアが望んだ展開であるが、本当に大丈夫なのだろうか。


「私にも参戦するように招集がかかっているので、もちろん行くのだけど、その際に従者たちも連れて行くことになるわ」


 レティシアが行くのであれば、そうなるだろう。

 あの四人とレティシアはセットみたいなものだ。


「ジェシカ、あなたにもきっと話がいくと思うのだけどどうするのかしら?」


 腕を組み、目を閉じて聞いていたジェシカは片目だけ開けると、レティシアの方を見た。


「知らん。私は勇者だ。人の争いに手を出すつもりはない」


 ジェシカが行かないというのも思った通りだ。

 彼女は人同士の戦いについては積極的ではない。

 魔族との戦いのが彼女の役目であるから当然と言えば当然なのだが。


「そう、それならいいわ。ユリナ」

「何?」


 呼ばれること自体は想定していた。

 そして、自分の役目も予想はつく。


「私がいない間のフィリーツ領は、あなたに任せたから」

「どれぐらいの裁量が与えられるのか、はっきりして」


 ただ、レティシアの言われたことをやるだけなのか、ある程度私の意志で決められるのかはっきりしてもらわないと何かを判断するときに困る。

 だから、ここだけははっきりと決めておく必要がある。


「私がいない間、あなたが必要だと思うことは好きなように推し進めてもらって構わないわ」

「それがこの領に不利益になりそうなことでも?」


 私がそうするわけはないと、見抜いたうえでレティシアは笑っている。


「あなたがそんなことするわけないわ。ね?」


 私は何も言い返さない。

 いや、言い返す言葉はない。

 レティシアは分かってて言っているのだから。

 真咲だけは黙り込んだ私とレティシアを不思議そうに交互に見つめていた。


「イーラ、あなたにも頼みがあるわ」

「何でしょう、スカーレット男爵」


 イーラさんが背筋を伸ばして、しっかりとレティシアの方を向く。


「あなたにはここの防衛をお願いしたいの」

「構いませんが……どうしてでしょうか」


 わざわざ元々敵国の人間に頼むことなのかと思ってしまう。

 イーラさんもきっとそう思ってるに違いない。


「この領で戦う力があるのは、私と従者を抜くとここにいる三人しかいないわ」


 ジェシカも私も真咲もきっと本気になれば、対大人数の方が得意だとは思う。

 ジェシカはレーデヴァインの能力。

 私は神様からの授かりもの(ギフト)

 真咲は精霊の力。

 他人が周りにいると振り回せない力だ。

 ただ、如何せん三人しかいない。

 この前は広い範囲をガレオンさんたちが入ってくる人数を絞ってくれたのもある。

 だから、屋敷前での迎撃に集中できたというもの。

 さすがに平野で正面切って戦うのであれば、どこかしら必ず漏れは出てくる。

 領内に敵が入ってしまえば、それだけで私たちの負けが確定だ。


「あなたたち第五騎士団の力と人数が必要なのよ」


 戦闘訓練もちゃんとしている人たちは貴重だ。

 ここでは、そもそもイーラさんたちしかいない。


「それは構いませんが……ここに攻めてくると思うのはどうしてでしょうか?」


 レティシアが笑みを作る。


「私なら、防衛もしていない補給線があるなら潰して、前線にいる兵たちを後ろから襲うわ。それに私がこう考えるなら、そういう別動隊が作られてもおかしくはない。たったそれだけの理由よ」


 けど、あり得ない事ではない。

 それにそもそも王国と帝国の境に位置している領で防衛力がここ以上の領があるかどうかも考えてしまう。

 レティシアの話だとこの前の暗殺騒ぎも他の帝国との境にある領で行われていた。

 無傷だったのはここだけだ。

 だから、戦争になり兵が駆り出されることになった場合、百人ぐらいで攻められても負けそうなイメージがある。

 ただの暴徒と訓練された兵士では、戦力に大きな開きがある。

 それにここもそうだが、境にある領のどこかから必ず補給する物資を送らないと前線の兵士が疲弊するだけだ。

 食べ物だったり武器だったり、送らないとこちらが磨り潰される。


「分かりました。それなら私達も尽力しましょう」

「助かるわ」


 これで話は済んだという雰囲気が漂う。

 が、隣の真咲が手を上げた。


「レティ、アタシは?」

「マサキはユリナと助けてあげなさい」


 私が助けられることはほぼないのだけど。

 近くにいてくれるだけ、安心はするからいい。

 危ないことをしていない。

 それだけで私は安心する。

 だけど、どうやらマサキはお気に召さないようだ。


「アタシだって戦えるんだよ」

「知ってるわ。それにきっと困ったらマサキの力は必要になると思わよ」


 レティシアが口元に笑みを浮かべて、真咲の方を見た。

 真咲はレティシアにそう言ってもらえたのが嬉しいのかニコニコとしている。

 それがちょっと気に食わないので、引っ付いておくことにした。


「戦争はまだ先。それにこの戦争は通過点に過ぎないわ」


 レティシアの最終目標はこの世界からの異世界人の侵入阻止。

 異世界人を召喚する装置の排除だ。


「戦争終結後、速やかに帝国に侵入、その後に召喚装置の破壊」

「誰がそれをやんだ?」


 ガレオンさんが壁にもたれかかりながら聞く。

 レティシアは振り向かず、正面を向いたまま答えた。


「侵入はマサキ、破壊はアンナとジェシカとユリナよ」

「私?」


 思わず聞き返してしまった。

 真咲は分かる。

 この子の力で侵入できないところはない。

 アンナさんとジェシカは多分、その勇者の力がなんかあるのだろう。

 それで私は何がある。

 神様からの授かりもの(ギフト)しかない。

 殺すことは出来るのだが、それ以上のことは不可能だろうと思っていた。


「アンナとジェシカの持つ勇者の力、いえ、武器は女神の所有物。それに対して召喚する装置は神造兵装。神造兵装の硬さはこの世界の力では不可能に近い。私やマリアでも無理だったものだからね。だけど、理の外側にある神の力ならきっとそれも叶うはず」


 武器は女神というが、あの身体能力はあくまで自前だというのか。

 異世界人は、私が思う人間の範疇を超えている。


「それにユリナ、あなたの力は、神様からの授かりもの(ギフト)も紛れもなく神の力の一端よ」

「アンナさんとジェシカと同じ、神の力なら破壊できるってわけ?」

「ええ、そうよ。私の体を紙切れみたいに切り裂くことが出来るのは、そうそうないわよ」


 どう見てもレティシアの肌は柔らかそうに見えるから、そのすごさを実感しにくい。

 普通に切りかかっても、切れそうなのだが。


「どちらにしても先の話よ。そういう心積もりでいて頂戴」


 レティシアが体の力を抜いて椅子に体を預けた。


「帝国に対しての宣戦布告。これが正式に発表されたら、イーラたちも一度労働の仕方を考えないといけないわね」

「そうですね」

「あ、レティ、その間って聖女様どうすんの?」


 そう言えば忘れていた。

 この間は私も真咲と行って、広いベッドで楽しんできたところだったのに。


「聞いてきてくれないかしら? 向こうもきっと戦力整えるために忙しくなると思うから」

「りょーかい」


 真咲の気の抜けた返事で、レティシアの体から力が抜けた。

 今日の話の大半はここで済んだだろう。


「やることも、やらなければいけない問題もたくさんあるのだけど、皆には期待しているわ」


 レティシアが微笑みながら言う。

 計画の終わりに向けて、ようやく始まろうとしていた。 

謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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