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百三十九話 謁見

 フィオリに会った翌日。

 私は赤いドレスに着替えて、陛下に謁見するための控えの間で呼ばれるのを待っていた。

 同席するのは、捕虜にした男のみ。

 陛下に会うことに緊張はない。

 所詮は人間の王だ。

 恐れることは何もないし、私よりも大分年下だ。

 生きた年数であれば、私の方が本来であれば大分上であり、敬われるのであれば私の方だ。

 

「謁見の準備が整いました。どうぞこちらへ」


 呼びに来たのは従者なのだろうか、その男について部屋を出る。

 もちろん、捕虜も連れてだ。

 そうして、廊下を進んでいけば一番この王城で見た中で豪勢な扉の前まで来た。


「レティシア・ヴァリアス・アドガルド・フォン・スカーレットでございます」


 名前が呼びあげられて、扉が開かれる。

 私は一礼して、謁見の間に入っていく。

 ズラリと並ぶ兵士たちは手練れなのだろう。

 近衛の兵と言ったところか。

 謁見の間の中央まで進んだところで、臣下の礼を取る。

 一応、今は私もこの王国の貴族であるから、正しい姿だろう。


「面を上げよ」


 顔を上げると、玉座にはオウリン陛下が座っている。

 隣は空席ということはまだ相手が決まっていないということなのだろう。

 顔立ちも整い、それなりに筋肉も付いているが私から見たら細身だ。

 もう少し肉を食べた方がいいのではないかと思う。

 短く切り揃えられた金糸の様な髪に、空色の青い瞳をしている。


「其方がアユムの言っていた魔族か」

「お初ではないですね、オウリン陛下」


 この男とは直接会ったことがある。

 フィオリの誕生祭の時に一度だけ遠目であるが。

 そして、これが初めて言葉を交わす時だが。


「今日は陛下に献上したい品がありまして、こうして参上いたしました」


 捕虜の男を差し出す。


「その薄汚い男が、か?」

「はい、この男、帝国の諜報に関わるものであり、またこの国に根差している者たちと顔も広いようでございます。私では扱いきれない者でありますが、ここでは重宝する品であると思いまして持ってまいりました」


 この男がどう扱われようが私にはどうでもいい。

 私としては一応この国を思って行動していますと言う姿勢が見せられればいいのだから。


「しかし、その男がこちらの言うことを素直に聞くのか?」

「はい、その男には私が従属の契約を結んでおります。それにその権利も陛下に差し上げますので、どうぞ焼くなり煮るなりお好きになさってください」


 陛下に権利を譲渡させようとしていると、そう言えばという風にもう一つの話を切り出す。


「この男が着たタイミングで、私のフィリーツ領もそうですが、他の領でも人攫い、殺しがあったようです。私の領では未然に防ぐことが出来たのですが、他の領では被害が出ております。このことについて陛下はどのようなご考えでしょうか?」

「……そのような報告は上がってきていない。これからその男を使って真偽を確かめよう」


 報告が上がってない。

 そのようなことあるはずがない。

 私がゆっくりと馬車に乗ってきたのにも関わらず、それがない。

 他の領主たちが対応できていた、ということもあるだろうが、全て出来ていたと考えるのは難しい。

 これで未然に防ぐことが出来なかったら、ここで血祭りにあげているところだったが。

 それも八つ当たりなのだから、誰かに諫められるかもしれない。

 ただ、私の性分なのだ。

 こればかりは変えられない。


「それで」

「せ、聖女フィオリ・レイエル・ナカハラでございます」


 陛下が口を開けたタイミングで、従者が扉を開けた。

 いいタイミングだ。

 ちゃんと打合せ通り。

 普通はこんなこと許されるはずがない。

 許されるはずがないのだが、この国であのアユムの娘を無視できる人物はいない。

 それほどまでにあの女はこの国に大きな影響を与えていた人物なのだ。

 私の隣まで来たフィオリは私と同じように臣下の礼を取る。


「なぜ、其方がここに、聖櫃は……」


 陛下の顔に焦りが見える。

 それもそうだ。

 フィオリが出てきてしまっては、聖櫃は機能しなくなる。

 彼女があの術式の中にいて、魔力をずっと供給しているからこそ、鉄壁ともいえる守りを形成できる聖櫃。

 その要がこうして目の前にいたら誰もが焦るだろう。


「はい、オウリン陛下、今も聖櫃は機能しております」

「どういうことだ?」

「この吸血鬼からの献上品である特殊な材質な糸を使い、編み込まれたこのローブのおかげです。中に聖櫃の術式に干渉して、魔力を流し込める式が組み込まれております。そのため、こうして出歩いても大丈夫になりました」


 特殊な糸。

 真咲に頼んでやってもらったものだ。

 精霊によって編み出された糸。

 帝国で使われていた粗悪品の石とは違う。

 こちらには呪われることもない。

 そして、精霊によって作られたものであるために魔力の通りも良い。

 聖櫃が精霊を使っているのもあって、干渉しても拒絶されることもないという点が大きな利点である。

 

「……そうだったのか。しかし、謁見の間にこうして割り込んでくることは無礼であると母に習わなかったのか?」

「申し訳ありません、陛下」


 フィオリが今一度深く頭を下げる。

 そうして、もう一度頭を上げた時に少し照れたような顔をしていた。


「陛下に一番最初に見て頂きたいと思いまして」


 陛下の目付きから厳しさが消える。

 それは自分の子供を見つめる親の表情になっている。

 それもそうかもしれない。

 アユムの父親はいない。

 いや、いるかもしれないが公表されていない。

 陛下がそうなのではないかと言われているが真偽は不明だ。

 それがフィオリをこのような目で見つめているのであれば、そういう噂が立つのも分かる。

 事実として、陛下はフィオリを特別扱いしている。

 身内贔屓に見える扱いもその噂に拍車をかけているのだが、それもきっと分かっているのだがやってしまうのだろう。

 フィオリがもう少し私に懐いてくれたら、もっと利用価値が上がるのだが、私にはなかなか懐いてくれない。

 母親が母親だから仕方ないところもある。

 結局アユムとは親交を深められなかったし、向こうもそれを望んではいなかった。

 向こうは契約を結んだのだから言う事を聞けと、頭ごなしに言ってくるだけ。

 私は私を通したいので、意見が嚙み合わない。

 そして、お互いに嚙み合わせようともしない。

 見ている方向も、何もかも違う相手だから、やっぱり無理かもと結論を出す。


「フィオリ、其方はこのように割り込むようなことをしなくてもよい。母の教えをしっかりと守るようにしなさい」

「はい、陛下」


 視線がフィオリから外れて、こちらに向いた。


「王国の危機に立ち上がり、手を貸してくれたことは感謝する。魔族の娘であるスカーレット男爵」

「王国を思えばこそです、陛下」


 今はまだ滅んでしまっては困るこちらの事情もある。

 だから、精々その時までは私も王国の形が維持できるように尽力はするつもり。

 私の領地に不利益がない、という前提だけど。


「レティシア・ヴァリアス・アドガルド・フォン・スカーレット、フィオリ・レイエル・ナカハラ下がるがよい」

「はい」


 二人して、謁見の間を出て行く。

 捕虜の男はどこかに連れていかれたが、もう私は彼に興味の欠片もない。

 二人で王城の中を歩いていく。

 フィオリが聖櫃に戻っていくので私もそれに付いて。

 そうして、聖櫃の入り口で彼女がこちらを振り返る。


「あなた、少し陛下に無礼です」

「それは失礼だったわね。私は魔族で、人間の礼なんて知らないわ」


 フィオリが睨みつけてくるが、迫力はない。


「その態度が無礼です。少しは直したらどうです」

「直しようがないわね。これが私の性格ですもの。隷属の契約で縛ってみてもいいわよ?」


 フィオリが悔しそうに唇を噛む。


「しません。あなたの力に契約が壊されかねませんから」


 もう壊れているのに、壊れてないと虚勢を張る。

 いや、一応首輪はついているが、もう鍵はない。

 ただのアクセサリーの一つに過ぎない。


「いい子ね。いい子にはご褒美を上げるわ」


 フィオリの頭をくしゃくしゃと撫でまわすと、迷惑そうな目でこちらを見つめてくる。


「また私が戻ったら、領に来ることを許可するわ」


 それだけフィオリに伝えると、私は聖櫃に背を向けて歩き出す。

 ここでの用は終わった。

 後はこの国の人間たちが悩むことで、私には関係ない。

 帰りも長い道のりだ。

 真咲に頼んでおけばよかったと少々後悔した。

本日、「七十六話 中原アユムという人の終わり」も改稿したので取り替えたいと思います


謝辞


いつも読んでいただきありがとうございます。

いいね、評価、ブクマ、誤字報告もありがとうございます

これからもどうか、本作「美少女吸血鬼の領地経営」をよろしくお願いします

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